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第22話 星空を越えて

ステラとルアンは5日後に旅立つ準備を急いでいた。


「エミリア先生。よろしくお願いします。」


「図書館だなんて…こんな光栄な話はないですわ。

子どもたちのことは私にお任せください。」


エミリアはステラの手を握りしめ、泣いて喜んでいた。


(私は一番そばで、ステラお嬢様を見てまいりました。

お嬢様はいつだって自分のことは後回しにして、

子どもたちのために精一杯尽くしてこられた。

ご両親が亡くなられたあの日から、

一度も涙を見せずに……。

どうかこの旅が、お嬢様の夢を叶えるものと

なりますように……。

お二人がいない間、この孤児院は

私が必ず守り抜いてみせますわ……!)


「ありがとうございます。エミリア先生…」


続いて、子どもたちにも話した。


子どもたちは2人が月の国に行くという話を聞いて、

目を輝かせていた。


「えぇ!私も行きたいよ〜〜」


「お土産買って来てよ〜」


そんな中、


1人、ジャックは寂しそうな顔をしていた。


「ルアン…」


「どうした?ジャック。」


「絶対に帰って来てよ?」


ジャックはルアンの服の裾をぎゅっと掴んだ。


「もちろん!絶対に帰ってくるさ!

帰ったらまた屋根に登って話をしよう」


ルアンはしーっと人差し指を口に当てていた。


そういうと、不安そうだったジャックの表情は和らいでいた。


そして、話が終わり子どもたちは外へ遊びに行った。


ステラはルアンにお使いを頼もうとした。


「ルアン、パン買ってきてくれる?」


「今日は無理だ…」


「なんで?」


「……なんとなく外に出たら面倒なことになりそうなんだ。」


「もぅ、ルアンが行けないなら私が行ってくるわよ。」


「あぁ、悪ぃな」


(俺とステラが一緒に出かけて、そのまましばらく帰らないなんて知れたら、あの悪趣味クラブの連中の気が狂うだろうな……)


………


旅立つ前の日の夜、2人は紅茶を飲んでいた。


「そういえば、ルアンには両親はいるの?」


「あぁ、いるよ。」


「ルアンが王子ってことは国王様と皇后様?」


「まぁ、そんなもんだな」


「そんなもんだなって…」


「あと、従兄弟もいる。」


「そうなのね。」


「ただ…」


「?」


「月の国は冷たい奴が多い。

人間のことが嫌いな奴もいる。

何か言われたらそんときは俺が守るから」


(その従兄弟って人も、あまり歓迎してくれないのかしら?)


「なんだか緊張してきたわ…」


「それと…」


「ん?」


「ペンダントは置いていった方がいいと思う。」


「そうなの?」


「ペンダントには月の力が宿してある。

俺たちがいない間もここを守ってくれるかもしれないからな…」


「そうなのね。何かよく分からないけど、

ルアンがそう言うなら置いていくことにするわ…


ステラは言われたまま、自分の部屋の机の引き出しに

ペンダントをしまった。


_そして旅立ちの日_


夕方になり、夕食をみんなで囲んでいた。


その時、突然テルスが訪問しにやって来た。


「殿下…!」


「今夜旅立たれると聞いて、お見送りをしようと思って…」


「ありがとうございます。」


「気をつけて、無事に帰って来てくださいね。」


そういうと、テルスはステラの手にキスをしていた。


「きゃーー」


子どもたちが騒ぎ出していた。


「みんな、これは挨拶ですよ。」


テルスは茶化す子どもたちを笑いながら宥めていた。


ステラは赤くなっていた。


テルスはふふッと笑いルアンのことを見ていた。


「なっ……」

(……今、俺の前でそれをやるかよ)


ルアンの背後には、今にも飛びかかりそうなハブが

しゃあしゃあと立っていた。


そうして、


2人はみんなに手を振られ、孤児院を出発した。


……


「いってらっしゃーい」


「いってきまーす。」


……


2人は湖のある草原に辿り着いた。


「ここなら広いし、できそうだな。」


「本当にできるのかしら?」


「出来るさ….!はじめるぞ」


「ええ」


ステラはこれから始まる儀式がどんなものか

想像がつかず、緊張していた。


ルアンは地面に両手をつけ、

満月を見つめていた。


その紫の瞳は月光を浴び光を増していた。


銀色の風がルアンとステラを下から押し上げ


地面から月と星の魔法陣が描かれた。


「すごい風!」


ルアンは風に飛ばされないようにとステラの腰に手を回して支えた。


「飛ばされないように気をつけろよ」


そして空に向かって指揮者のように指を振った。


すると獅子座を描く星たちが輝きだし、

遠くから黄金のライオンが勢いよく駆け寄って来たのである。


「きゃっ」


ステラはいきなり現れたライオンに驚き、

無意識にルアンの腕を握った。


「俺を守護する星獣だ。安心しろ…」


ルアンはその手を繋ぎ直した。


「そ、そうなのね…」

(手、繋いだままだ…)


するとそのライオンは低い声で2人に話しかけて来た。


口は開かず、まるで心に問いかけるように。


「ルアン様…お久しぶりです。

皆があなたのことを待っておりましたよ。」


「あぁ、随分と迷惑かけたな」


「それに、こちらにいる間に、随分とお強くなられましたね。この地上で私のことを召喚できるなど、以前では考えられなかったのでは…?」


「あぁ、どういうわけか、前より力が増えてるようだな…」


(ライオンと喋ってる…本当にルアンは月の国の人なんだ。)


「そちらの方は?」


「俺の命の恩人だ。彼女も用があって、月の国へ連れて行って欲しい」


「仰せのままに…ではお乗り下さい。」


ルアンはステラを抱き抱えた。


「ちょっと…!!?」

(近いよっ…)


「ちゃんと乗らないと落っこちるぞ?」


ルアンはステラを自分の前に乗せた。


(フワフワだ……いい匂いもする…)


「しっかり捕まってろよ!」


そして、ライオンは勢いよく走り出した。


そのスピードは風のようだった。


「は、はやいって」


ステラはあまりの速さに震え、思わず目をつぶった。


すると後ろからルアンがそっと腕を回し抱き止めていた。


ルアンの胸に背中を預けると、不思議と安心できた。


「あははっ!すごいスピードだな」


「全然笑えないよ」


「俺が捕まえてるから大丈夫だ!安心しろ」


そして、驚きで冷えていたステラの手を、ルアンの大きな手が包み込んだ。


「ちょっと…!?」


「手が冷たかったから、温めただけだ。」


そして、包み込んだ手を離してくれなかった。


(こんなに近いのに、どうして嫌じゃないんだろう…)


ステラは胸の奥が騒がしくなっていた。


みるみるうちに孤児院は小さくなり、


やがて街の灯りだけが遠くに瞬いて見えた。


ステラはまるで夢の中に入って行くかのような気分だった。


(綺麗…ルアンはこんなに遠くからきた人なんだ…)


雲を抜けると満月が溢れそうなくらいに光り輝いていた。


その満月に向かって、ライオンはひたすらに走り続けた。


どれだけ走っただろうか…


気がつくとステラは眠っていた。

(やっぱり普通の人間だと、

空を越える道のりで眠くなるんだな…

…こいつは頑張りすぎるから、俺が守ってやらないと…)


ルアンはステラのことを自分の体温で包み込むように、

強く抱きしめた。


星空を越えて…越えて…


そして、ヴェールに包まれたような薄い霧を越えると

ルアンが呟いた。


「着いたな…」


その声でステラは目を開いた。


飛び込んできた景色は

初めて見るものばかりだった。


夜空の中を優しく光る花畑が、どこまでも続いていた。


その奥には、美しい宮殿が静かに佇んでいる。


見上げれば、手を伸ばせば届きそうなほど近くに

星々が瞬いている。


そこにステラの住んでいた地上よりも

冷ややかで澄んだ空気が流れ込む。


皆が眠りについたあとのような、

とても静かな場所だった。


「これが…ルアンの国…」


ステラは目を見開いて、

初めて見るその景色に息を呑んだ。


振り返ると、月の光を受けたルアンの紫の瞳が、

いつも以上に美しく輝いていた。


こんなにも美しい場所で生まれ育ったからこそ、

ルアンはあんなにも月の光が似合うのかもしれない――そう思った。


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