第2話 ステラの使命
月から落ちてきた青年は、
ステラたちを見た瞬間、
マントに覆い被って消えてしまった。
いくら辺りを探しても、
昨日いたはずの青年はどこにもいなかった。
「どこいったんだろ…あの子、傷は治ったのかしら、
無事だといいんだけど。」
ステラはそう呟きながら、しばらく探してみたり、
街の人に聞いてみたりしたが、
何も手掛かりがなかった。
諦めて孤児院に帰ると、
子どもたちが不穏そうにステラのことを待っていた。
「ステラ様。伯爵様とマリーお嬢様がお待ちです。」
伯爵家からきた侍女がステラのことを呼んだ。
ステラも顔を曇らせて返事をする。
「分かった、すぐ行くわ。」
伯爵であり、ステラの叔父であるマルク・ローゼンは
ステラの実父のたった1人の兄である。
しかし血の繋がっていない兄弟であった。
祖父と祖母の間になかなか子どもができず、
養子として迎えられたのがこの叔父であり、
その後しばらくしてステラの父親が生まれたからだ。
今は実質的に、両親を亡くしたステラを、
この叔父が養っていることになる。
ステラはこの伯父は、機嫌が悪いと時折厳しくあたり、
苦手であった。
「お前に話があるんだ。実は近いうちにこの孤児院の事業を手放そうと思っていてね。そんなわけで、お前ももういい歳だし、縁談を受け入れる時期だと思っているんだ。」
今まで孤児院を閉じようとは言われた事はなかった。
ステラは酷く動揺した。
「なぜ突然そんなことを言うのですかっ!!急に言われても困ります。子どもたちはどうなるんですか?」
「そうはいっても、こういった慈善活動はあまり金にならないんだ。
問題も多いし、手放した方が他の事業にも金が回る。
何より我々が面倒を見る必要などないと思うんだ。」
「なんてことをっ…伯父様は今まで
そんな事言わなかったじゃないですか。」
「まぁ、時代はかわるんだ。直ぐにとは言わん。
次の月見祭でとりあえずは利益を出してくれよ。
そしたら少しは考えてやってもいい。
私はそれだけ伝えにきただけだから、もう帰るぞ。」
そう言い放つと、叔父は早々と部屋を出ていった。
娘のマリーが残って、ステラに話しかけた。
「あなたも大変ね。
でもお父様の言うことは聞いといた方がいいと思うの。そもそも、こんなこと本当に無理してやらなくても
いいんじゃない?」
「ここはおばあちゃんの思いがこめられた孤児院なの。
あなたも知ってるでしょ?
私がおばあちゃん、お父さんの思いを
引き継いで行かなきゃ、あの子達はどうなるの…」
「まぁ、好きでやってるならいいけど、
おばあちゃんも叔父様ももういないのよ。
悪いけど、私には出来ないわ…色々と頑張ってね」
そう言い放ってマリーも部屋を出ていった。
「私が引き継がなきゃ、みんなの思いが無駄になっちゃう。」
ステラは悔しさで手が震えていた。
数日後、ステラは町で用事を済ませて、
孤児院に帰る道を歩いていた。
今日はエミリア先生が夕方まで見てくれる予定で、
久しぶりに自由時間が取れそうだったので、
絵を描きに行くことにした。
その時である。
倒れていた青年を見つけたのだ。
驚くことに、体に傷跡はなく、
何事もなかったように歩いている。
「あの、あなたはこの前の…」
「?…ああ、あの時の女か」
「あなた、無事だったのね。随分心配したんだから。」
青年は驚いた表情でステラを見た。
「なんで他人のお前に心配される必要があるんだ?」
「なんでって、怪我が凄かったから。」
せっかく心配をしていたのに、ムカつく言い方をされて、ステラはムッとなった。
「ところでお前、何しに行くところだったんだ?」
怪我に対しての返事は無かった。
「?えっと、絵を描きに行くところだったんです。」
「ふーん…今暇だしついていってやるよ」
「えっ!?…なんで???」
ステラの頭には「?」がたくさん浮かんだ。
この人ってもしかして行く当てないのかな?
「先に話しかけたのはお前だろ?だめなのか?」
「いいけど、なにもないところよ…」
断る理由もなかったので仕方なく承諾した。
ついたのは若草色の草原だった。
その先には水の綺麗な湖がある。
ここはステラのお気に入りの場所であり、
青年が落ちてきた場所でもある。
風がほんのり暖かく、気持ちが良かった。
しかしこの何もない場所に、
よく分からない男と2人きりでいるのは実に気まずい。
気まずさを解消するためにステラは彼に声をかけた。
「あの、もしよかったらあなたのこと描いてもいい?」
「ん、まぁ、本当ならやだけど晩飯奢るならいいぞ。」
嫌そうな顔だったが、青年は承諾した。
「わ、分かりましたよ。(別に本当に描きたかないんだが?)」
「じゃあ、ここに座って。」
青年を木の影に座らせ
ステラは持っていたスケッチブックを開き、
輪郭を確かめるように彼を見つめた。
彼はその視線が、急に恥ずかしくなってしまった。
「ずっと同じ姿勢はだるいから、俺は昼寝するよ。」
彼は恥ずかしさを誤魔化すために
寝たふりをすることにしたが、
風が心地よくて本当に眠りに入ってしまった。
ステラは改めて思った。
(この人は何でついてきたんだろう…)と。
____
ステラは青年のことを描き続けている。
(よく見ると綺麗な顔だなぁ。空から落ちてきたって事は天使とか?そうゆうのって本当にいるんだ。)
初めて見た時から思っていたが、彼の顔立ちは妖魅に整っている。
その時、ステラは自分がよく見ていた夢と、この青年のことを重ねた。しかし、この寝ている青年は、
夢の青年よりも幼く、もっとも生意気だ。
髪も黒色だし、雰囲気が全然違う。
不思議に思ったが、このことは自分だけの秘密にして、ひたすらに描き続けた。




