第1話 いつもの夢からはじまる
子どもの頃にいつも見ていた夢を久々に見ている。
その夢を見るときは、いつも月が綺麗な夜だった。
森を潜り抜けて小さな小川を渡ると
紫の花畑にたどり着く。
そして花をたどって湖に辿り着くと、
美しい青年が光り輝く月を背に、
私の方を見て微笑んでいる。
なびく長い白髪と、紫色に輝く瞳がはっきりと
見えている。
私が手を伸ばそうとすると、
そこでいつも目を覚ます。
鳥のさえずりで今日もステラは目を覚ました。
「なんか久々にこの夢見たな…」
子どもの頃によく見た夢は、
ここ最近は全く見ていなかったので、
しばらく忘れていた。
あの夢の男の人に会えると、なんだか
落ち着いた気持ちになったのだけは
覚えている。
昔はもっとよく覚えてたんだけど、
どんな感じだったろうか。
そんなことを思っているのも束の間、
一階から大声で呼ぶ声が聞こえる。
「ステラ先生〜〜きてくださ〜い」
「準備してから行くからちょっと待ってて〜」
子どもの声が聞こえてステラは
屋根裏部屋から一階に降りていった。
「一体どうしたの?こんな朝早くから。」
「先生!エルが食堂の食材を盗み食いしてるんです!!」
「先生にチクんなよ〜」
「こーら、エル。何やってるの?
もう今日は朝ごはん抜きですからね、
いくら早起きしたからって盗み食いはだめよ。」
「ごめんなさい〜、
今日って月蝕の日でしょ〜。
楽しみすぎて早起きしちゃって、
そしたら
おなかすいちゃって、つい…」
「反省したなら今日はたくさんお手伝いして、下の子たちとたくさん遊んでよね。
食べ盛りなのは分かってるわ。
明日は食材を仕入れる日だから、
夜ご飯は大盛りにできるようにしてあげる。」
「はーい。分かりました。ステラ先生ありがと〜」
ステラ先生こと
ステラ・ローゼンは、伯父の伯爵が経営する
この孤児院で、成人をした3ヶ月前から、
屋根裏部屋に住み込みで働いている。
この孤児院は、ステラの祖母が創設したもので、伯父が当主になる前は、ステラの父が爵位を引き継いで運営をしていた。
ステラも父に
よく子どもの頃から連れてこられたので、
孤児院のことは良くわかっていた。
しかし、12歳の時、
両親が乗っていた馬車が事故にあい、
ステラは家族を失った。
それからは父の兄である伯父が引き継いで
今に至る。
ステラは両親を亡くしてからは、
伯父の屋敷で引き取られることになったが、
伯父の家族と暮らすことは、
どこか窮屈な思いをしていた。
しばらく暗い日々が続いていた。
それでも、孤児院に来ると家族を思い出すことができた。
子どもたちから元気をもらうことができるのも、唯一の救いであった。
なので、この孤児院で住み込むことは、
以前よりステラにとっては自由を感じられるのである。
何より人が成長する姿をみて働くのことは、性に合っているようだ。
気づけば、ここはかけがえのないステラの居場所なっていた。
しかし伯父はこの孤児院の管理を面倒がっており、
ほとんどの管理をステラに任せている。
時々来ては、
経費について口出ししてくるが、
自分が手を貸すことはあまり無かった。
______
朝、騒がしい食堂で子どもたちと朝食を摂っていると、
皆、今日の月蝕の話題で盛り上がっていた。
「絶対見てやるんだから〜」
「じゃあ今日は早めに夕ご飯を終えて
お片付してみんなで見ましょうね。」
「はーい」
そして夕方になり、
ステラは屋根裏部屋で戻ると
引き出しから月のペンダントを取り出した。
「今日はお月様が神秘的に見える日なんだってさ、
おばあちゃん。」
このペンダントはステラの祖母の形見である。
「ステラ、お月様はね、
いつも私たちを見守ってくれているのよ。
だからこうやって月が綺麗な日は、
今日も平和でありますようにって、お祈りをするのよ。」
祖母はあまり語るタイプではなかったが、
月が綺麗な日はいつもこのペンダントを握って、
祈っていたのを思い出した。
夕食を終えた後、
孤児院の隣にある湖のほとりに皆で集まり
子どもたちと空を見上げていた。
皆んなとても楽しそうにしている。
「今回を逃すと、次綺麗に見えるのは
3年後なんだってさ。
いやーこんなに綺麗に晴れてよかったよ」
いよいよ月食が始まる。
月が丸い影にすっぽり入り、辺りは真っ暗に。
その瞬間、ステラのペンダントが
光り輝いたように見えた。
「あれ?」
そして、月はその光を取り戻していく。
本来なら赤く染まるはずの月が、
紫色の光を帯びて一段と輝いていた。
一方ステラは疑問の顔を浮かべていた。
「……今、月に人影が映ったんだけど、気のせいよね?」
きっと疲れているから幻覚を見たんだと思い込んだ。
そう言い聞かせたのも束の間、
ステラたちの目の前にすごい勢いの
風と光が降り注いできた。
するとその瞬間、ステラと同い年くらいの
青年が降ってきたのである。
「い、たたたっ…どーなってんだよっ」
ステラと子どもたちが驚いた顔で青年を見つめていた。
彼は私たちに気付くと、顔を真っ青にしていた。
「もしかしてお前ら人間か?」
紫色の瞳が、
月明かりの中で怪しく揺れていた。
はて、これは全て夢なのでしょうか?




