第16話 僕と踊ってくれますか?
ステラはドレスを着込んで、
髪も簡単に編み込み、ルアンにもらった花を
アクセサリー代わりに差し込んでいた。
階段を降りていくと、子どもたちが驚いていた。
「先生〜めっちゃきれい〜」
「えぇ、先生踊るの?誰と?」
「ふふ、みんなありがとう。」
ステラは少し恥ずかしくなりながらも
ルアンが来るのを待っていた。
ステラとすれ違ったエドや、
その他の男性たちは皆大騒ぎだった。
「おい、ファンクラブ規約には
ステラとは踊ってはいけないと言うルール
があったよな?
まさかだけど、誰かとダンスの約束をしてるん
じゃないか?」
「まさか。前に誰かがステラをダンスに誘おうとして
大戦争が起こったのを忘れたのか。」
「先の戦争で皆疲れ果てて、ダンスは誰も
誘ってはいけないことになっただろ…」
「じゃあなんであんなにめかし込んでるんだ…?」
「裏切り者がいるんじゃないか?」
ファンクラブ会員たちはパニックを起こしていた。
「おい、あいつ、こないだの用務員だ!」
エドが叫んだ先にはルアンがいた。
(変じゃないかしら?)
ステラは自分の格好がおかしくないか不安になった。
「ステラ」
振り向くと、
タキシード姿で髪をかき上げたルアンがいた。
「ステラ。ご招待をお受け頂きありがとうございます。」
ルアンは跪いてステラの手を取っていた。
紫の瞳がステラのことを見上げ、包み込むように
深く見つめていた。
いつもとは別人のような彼に、ステラはつい見惚れて
しまい、10秒ほど固まっていた。
「ステラ?」
「えとっ…その、ルアンだよね?
全然雰囲気違うから、一瞬誰か全く分からなかったよ…」
「フフ…これステラとお揃いなんだよ?
マダムソフィーにお前のドレスだけ頼んでたんだけ
ど、俺の分まで用意してくれてたみたいで」
ルアンは目を細めて微笑みながらステラに問いかけた。
「あの、その、すごく似合ってると思う。」
「良かった!さぁ、踊りましょう。」
ルアンはそう言って、
強引にステラの手を引いた。
「え、ちょ、待っ——」
テンポの速い音楽に合わせ、
周囲では街人たちが好き勝手に踊っている。
笑い声、手拍子、子どもたちのはしゃぐ声。
月見祭のダンスに、決まった形なんてなかった。
しかしステラはこの時気付いていた。
こんなダンスからでも、ルアンから漂う、気品を。
人間とは違う、まるで妖精と踊っているかのような。
気分に酔いしれそうだった。
「あなた、ダンスもすごく上手なのね。」
「言ったろう、俺はなんでもできるって。」
「本当にルアン様はすごいのね。」
ステラは思わず吹き出した。
「ちょっと馬鹿にしてんだろ」
2人は大笑いしながら踊っていた。
ダンスが終わった後、2人は会場を抜け出し、
ステラとルアンが最初に会った湖に来ていた。
遠くから、まだ続いてる祭りの明かりをぼんやりと 眺めていると、ルアンが話しかけた。
「ステラ」
「なに?」
「このペンダント、やっぱりお前に返す。」
「なんで?これは大事なものなんでしょ?
これがあれば帰れるんでしょ?」
「いや、これはお前の大事なものだ。
俺はお前に持っていて欲しいんだ。悪かったよ。」
そしてルアンが後ろに立ち、ステラの髪をそっと避ける。
「帰らないって事なの?」
「そうさ。俺はまだ力が弱いだけで、いつか自分の力を使って帰る事だってできるようになるはずなんだ…
ペンダントで兄様の力を借りるなんてダサい真似はしたくない。」
「そっか。」
「それに…」
「?」
ルアンは真剣な顔でステラの首元で金具を止めていた。
その距離が近く、ステラは緊張で固まっていた。
そして、ルアンがペンダントに手をかざすと、
光りを放ち始めた。
「やっぱり、とても似合ってる」
「これ、なに?すごく綺麗。」
「俺の守護の力も宿しておいたのさ。何かあればこいつが助けてくれるはず。」
ルアンはそう言って、ペンダントにキスをした。
ステラは照れ臭くなり、急いで話し出した。
「さっき何か言いかけたよね?」
そして紫の瞳が真っ直ぐとステラを見ていった。
「お前の隣にいたいんだ…」
そう言われてステラは一瞬何も音が聞こえないような
感覚に陥った。そして数秒後、魂が帰ってきたようだった。
「え…?ちょっと待って…」
ステラは顔が真っ赤になった。
それを見てルアンも真っ赤になっていた。
「今は俺も力がないし、
どうにもできないけど、ステラも、子どもたちのこともほっとけないし、ステラの力になりたいと思ってる。だから…その…お前の隣にいてもいいか…?」
ルアンは一度言葉を切った。
「これからもずっと」
そう言った瞬間、ステラが泣き出してルアンは焦った。
「な、なんだよっ泣くなよ?」
「ごめん、嬉しくって。私、ルアンが最近夜いなかったからずっと寂しくて、このままどこかへ行っちゃうかと思ってたの。また、1人になるのが怖かったの。」
「大丈夫…もう勝手にどっか行かないから。」
「これからも一緒にいてくれるのが嬉しいわ。」
ルアンはステラの頭を優しく撫でた。
その日の月は満ち溢れ、幻想的な光を帯びていた。
そうしているうちにあっという間に月見祭は
無事に終わった。
………………
その日の夜、ステラはまた夢を見ていた。
いつもの湖に紫の花が咲いている。
いつも立っている白髪の青年もいる。
でも今日は知らない女の人もいる。
その青年が、女のひとに月のペンダントを付けていた。
(あのペンダント……私が持っているのと同じ)
そこでステラは目覚めた。
頬には何故だか涙が伝っていた。
________
今回の月見祭はバザーや寄付などたくさん集まり、
大盛況だった。
「皆んな本当にお疲れ様。」
翌日、片付けをしているステラ達の下に、
テルスが現れた。
ステラは慌てて姿勢を正し、挨拶をする。
「殿下、昨日はありがとうございました。」
テルスは月見祭には来ていたものの
ステラが忙しそうだったのと、
自分がいては騒ぎになるということで、遠くから
王子の身を隠して来ていたのだった。
ステラとは一瞬の挨拶しかしなかった。
ステラはテルスに酔っていた時の失態を思い出し、 急に恥ずかしくなってしまった。
「あと、先日のお食事、ご迷惑おかけしました。」
「いえいえ、お気になさらず。とっても楽しかったですよ。」
「恥ずかしいので忘れてくださいね…」
すふとテルスはニコニコと笑顔で続けた。
「気にしないでください。
それはそうと、昨日はあなたのご活躍を
側で拝見しておりました。
そして、この孤児院を我が王国としても、
支えていきたいと心の底から思いました。
どうか、私と共に国営化を目指して貰えますか?」
「国営化ですかっ。滅相もございません。
ですがおっしゃる通り、
現在も孤児院では身寄りのない
子どもたちが日々運ばれてきます。
私どもの力だけでは、
到底支えきれない状況でございます。
殿下がご協力してくださるのならば、
子どもたちの幸せはより大きなものとなると
思います。」
「もちろん、力になりたいと思ってます。」
「ありがとうございます。今度当主である私の伯父も
御挨拶させて頂けますでしょうか?」
「?ステラさんが代表なのではないのですか?」
「はい、運営は伯父がやっているので、私が勝手に色々と決めれないのですよ。」
「そうでしたか、では一度伯父様にもお会いしますね。」
そう言ってテルスはにこやかに話し、去っていった。
「国営化か〜本当に実現できたらいいなっ」
ステラの目はキラキラ輝いていた。
「……そうだな」
ルアンは笑った。
けれどその笑みは、どこか冷えていた。
テルスが自分が成し得ない事をして、
ステラを喜ばしたからだ。
「あいつ、最近やけに来るし、気に食わないな」
ルアンは紫の瞳を不快そうに細めた。
_________
ステラはローゼン伯爵邸に向かった。
月見祭の収益報告、そしてテルスとの国営化
についても話し合っていた。
「ご苦労だったな。あんな役立たずな孤児院も
これだけ収益を見出せたなら今回はまだ
存続してやろう。」
ステラは伯父の言葉を不快に思ったが、
存続してくれるという事が確認できたので安堵した。
「国営化についても良い話だと思う。
そもそも孤児院をうちが善意で運営する
必要などなかったんだよ。
やっと手放せるチャンスだ。この王子、よく分かってるな。私が話をさせてもらおう。」
「…手放す?」
「ステラ、お前は出しゃばる癖があるから、王子との会議の時は席を外していろ。」
「ですが…」
「話がわからなかったか?」
「いえ…」
ステラはそう言って悔しながら伯父の執務室から
退室した。
(どうして、伯父様は私の気持ちをわかってくれないのだろう………)
_______
ステラが退室したあと伯父は何かを考え込んでいた。
「テルス王子…テルス…聞いたことある名前だな…」
その時伯父を頭痛が襲った。
「またか…」
伯父は頭を抱え込んでいた。
そして過去の記憶を思い出していた。
-亡くなったはずの弟であるステラの父が、
盗賊から金髪の子どもを助けている姿…
-事故に遭い、血を流して倒れている弟の姿…
-懸命に働く母の姿…
-母が譲り渡そうとした月のペンダント…
「あぁ、やめろ。やめてくれ。」
伯父はそう言いながら頭の痛みに苦しんでいた。
その影にはどす黒く、嘲笑うような姿が伯父を包み込んでいた。




