第15話 月見祭
数々の準備を終え、
いよいよ月見祭は当日を迎えた。
今日は朝から伯父家族がやってきた。
「お前に任せて初めての月見祭だな。
まぁ、悪くはない。最後までヘマをせずにやり抜きなさい。」
「はい、もちろんです。」
そこへマリーもやってきた。
「ステラ〜お疲れ様。随分大変だったでしょ?
貴族来賓の対応は私に任せてね。
私にも殿方と良い出会いがあるかもしれないでしょ?」
「分かったわ。よろしくね。」
伯父家族は手伝いなどする気はさらさらない。
主に協力してくださっている貴族たちへの形式上での
社交を計るのみである。
まるで、自分たちが日々苦労しているかのように
言いふらし、ステラのことなどは話さなかった。
ステラはそのことに対して多少の不満はあるものの、
特に何もいうことはなかった。
マリーは、来賓たちが集う席に向かおうとした
その時だった。
すれ違ったルアンと目があったのである。
マリーはルアンの美しい顔立ちに立ち止まった。
(あんな人がここにいたなんて、どこかの令息かしら?
いや、それにしては格好は平民のようね、
遊び相手にはちょうど良さそう)
マリーはニヤリと笑っていた。
祭が開始してから、
次々と客が祭りに参加をしにきている。
この祭りは平民から貴族、孤児院の卒業生など様々な人が入れ替わりで来るのだ。
そのためステラはとても忙しく、
ルアンは荷物を運んだり、子どもたちの催しの手伝いをしたりと、裏方としてフォローをしていた。
ルアンは何度かステラに声をかけようと思ったが、
とてもそんな隙はなかった。
(菓子でも作ったんだけど、
それどころじゃなさそうだな。
でもあいつも休まないと倒れるぞ…)
そう思っていたその時、ルアンの後ろからわざとらしい甘ったれた声が聞こえてきた。
「あの〜ちょっとよろしくて?」
声をかけたのはマリーだった。
「…何でしょう?」
「あなた、ステラの孤児院の手伝いをしてるんですって?
あの子にこき使われて大変でしょ〜
こんなところで働かせてごめんなさいね。
代わりにお詫びといっちゃなんだけど、
今夜私が遊んであげますわ。」
マリーはそう言って、ルアンの頬を触ろうとしたが
一瞬で顔が固まった。
そして、
気づいた頃にはその手をルアンに掴まれていた。
ルアンの紫の瞳は光が消え、冷たい眼差しで
マリーのことを睨みつけていたのである。
まるで穢らわしい獣を見るかのように。
「勝手に触れないでもらえますか?
そして、お言葉ですが、
私は自らの意思でここにいるのです。
ステラの妹君であれば、
このお菓子を配るのを手伝ってくださいませんか?」
「な、なんのよ。無礼ね。
好きでこんなところで働いてるなんて、
やっぱり平民は平民ね。
わ、私は来賓の貴族のお相手をする
仕事があって忙しいのっ!」
そういって、逃げるようにその場を去っていった。
(あんな奴がステラの妹だなんて…)
ルアンはマリーがステラと同じ家族とは思えない
品の違いに嫌気がさしていた。
月見祭もひと段落を終え、
残りは夜のダンスパーティを迎えるだけだった。
ステラは屋根裏部屋で休憩をしていた。
(ここまで、なんとか終わってよかった…)
その時、部屋をノックする音が聞こえた。
「はい?」
「俺だ…やっと話せるな」
ルアンであった。
「ルアン、どうしたの?何か問題でもあった?」
「違う。」
「?ならどうしたの?」
「これ、お前に渡したくて。」
「え?」
ルアンはプレゼントをステラに渡した。
「え?私に?なに??」
貴族にとってプレゼントは祝い事の度に贈り合っているもののはずなのに、ステラはとても驚いていた。
「開けてみろ」
「うん」
ステラはゆっくりと開け、そして声を上げた。
「これ…まさか、」
中から出てきたのは夜空のような色をしたドレスであった。
「お前、この前ドレス売ってたろ?
今日着る服ないだろうから、買ったんだ…」
「だから酒場で働いてたの…?」
「そうだ!その…お前に似合うと思って。」
「ありがとうっ。私なんかのために。でも…」
「でも…?」
「もう無理はしないでね。」
「ああ…分かった。それと、」
「ん?」
「この後俺と踊ってくれませんか?」
ルアンは紫の瞳を真っ直ぐに
ステラに向けてお願いをした。
その顔はいつものお調子顔ではなく、
真剣な顔だった。
少し照れくさそうでもあった。
「わ、私なんかでよければ…」
返事を聞いてルアンの顔はとても嬉しそうだった。
「あとこれも」
ステラの瞳と同じ、スカイブルーの花束だった。
「うわぁ、綺麗。」
「これもお前に似合うと思って。」
「ありがとう、嬉しい」
その時、子どもたちが下からルアンのことを呼び出した。
「ルアンーー、ちょっと荷物運ぶからきてーーー」
「ちょっと行ってくる。じゃあまた後でな。」
そう言ってステラの部屋を出ていった。
ステラは顔を真っ赤染めドレスを抱きしめた。
寝不足になりながらも自分のために
働いて用意してくれたドレスが、
なんとも嬉しかったのである。
そして花束を花瓶に飾り、ステラは着替え始めることにした。




