第12話 私の知らない顔をして
「わぁとっても美味しそうです。」
テルスに案内された店は庶民たちで賑わっていた。
「普段はあまり外食されないのですか?」
「はい、子どもたちと一緒に食べることがほとんどで」
「あなたは本当に愛のある方ですね。」
「そんな事はないですよ…」
すると、食事と一緒にワインも出てきた。
「お、お酒ですか?」
「はい。あ、ごめんなさい。お酒苦手でしたか?」
「苦手というか、お恥ずかしながらまだ飲んだ事がなくて。」
「そうなのですね。では、もう少し軽いカクテルもありますけどそちらはどうでしょう?もちろん無理なさらずで結構ですよ?」
「いいえ…でも前からちょっと試してみたい気持ちはあったので、カクテル飲んでみようかな。」
ステラがそう答えると、テルスは笑顔で注文をしてくれた。
「では、今日の夜に乾杯。」
2人は小さくグラスを鳴らした。
そして、テルスから話し出した。
「実は私は、将来国王になることが夢なのです。」
テルスはそう言って静かに笑った。
「殿下なら絶対に叶えられますね。」
「いえいえ…まだまだ勉強中の身です。
ステラさんは何か夢はありますか?」
「夢か…そうですね…この孤児院の子どもたちの未来が幸せにする事が夢ですね。」
「素晴らしいですね…」
続けてテルスが話し出した。
「私が国王となった暁には、あなたのお父上に何か恩返しがしたかったのですが……」
「はい……」
「お父上が事故で亡くなられたと聞いた時、その願いは叶わなくなってしまいました。」
テルスは少しだけ視線を落とした。
「私はずっと、やりきれない思いを抱えていたのです。」
そしてしばらくの沈黙の後、テルスは再びステラを見る。
「ですが今日、あなたにお会いして考えが変わりました。」
「私に……ですか?」
「ええ。」
テルスは優しく微笑んだ。
「お父上は、何も遺さずに去られたわけではなかった。」
「……?。」
「孤児院も、子どもたちも。」
「そして、あなたも。」
「あなたの中に、お父上の想いは確かに生きています。」
「父がですか?」
「ええ、だから私はあなたの力になりたいのです。」
「父もきっと喜びます。私も精一杯尽くしますので、どうか宜しくお願いします。」
そう話し、2人はしばらく食事を楽しんだ。
「ステラ先生。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫なのれす…」
ステラは顔が火照り、呂律が回らなくなっていた。
完全に酔っ払ってしまったのである。
「申し訳ありません。無理をさせてしまいました。」
「いえ…今日はとっても嬉しかったのです。
実は私、最近寂しかったのです…」
「寂しい?」
テルスはステラのその言葉を聞いて驚いた。
「はい…ルアンが全然夜に会いに来てくれないのでずぅ…」
「ルアンさんがですか?」
テルスは自分がいなくて寂しいのかと思ったが、
ルアンの名前が出てきて少し残念な表情をしていた。
「私、ルアンと夜に、いっつも紅茶を飲む時間が大好きだったんですが、最近来てくれなくって、もしかしたら孤児院も離れてしまうんじゃないかって思ってて…」
「大丈夫ですよ、例え彼がいなくても今日は私が側にいますから…」
「私、ルアンがいなかったら……」
ステラは俯いた。
「きっと今頃、この世界で笑えていなかったと思います。」
「そうですか…食事も終えましたし、一旦お店を出ましょう。」
そう言って、テルスはステラの肩を持ち、歩き出した。
夜風にあたり、ステラは少し気を戻していた。
「殿下、もうじわけありません…」
「いえいえ、お気になさらず。」
すると、ステラは突然溝に向かって走り出した。
吐き出したものにはモザイクがかかっていた。
テルスは突然の行動に焦っていた。
(す、すごく酔っている。
え、全然飲んでなかったよね…
吐いちゃったよ、こういうとき、どうすればいいんだ、)
テルスは後ろにいた護衛に目線を送ったが、
彼も戸惑っていて使えそうになかった。
「大丈夫ですか!?」
「殿下…お見苦しいところ申し訳ありませんでした。
その……出したら治りました。
少しだけここで、休んでからいきます。
お先に帰って頂いて結構ですので。」
「何をおっしゃいますか!
夜に女性を1人にさせるわけにはいきません。
あちらのお店でお水でものんで少し休んでから
帰りませんか?」
「あ、ありがとうございますぅ。」
そう言って2人は夜の客で賑わう酒場へと入っていった。
この店はおそらく小貴族向けの店であろう。
先ほど食事をした店とは違い、少し暗かったが、
小綺麗で大人な雰囲気の店であった。
ステラはこの雰囲気に慣れておらず、
少し怖くも感じた。
それを察したテルスが、ステラをエスコートし、
席に座らせようとした時だった。
奥でルアンがスーツ姿で女性客たちに囲まれているのをステラが目撃したのである。
「ルアン君、今日こそ私と遊んでよ〜」
「いや、私の方よ〜」
女性客はそう言ってルアンの胸元に手を回していたが、
彼はその手を優しく振り払い、
「折角のお言葉大変嬉しいですが、ご覧の通り本日も忙しいので残念です。」
と、笑顔で答えていた。
「なーにつまんないのー。」
そして、女性客たちの元を離れた瞬間、
ステラとテルス王子の存在に気づいたのである。
「ルアン…?」
「ステラ……?」
ルアンの顔から笑みが消えた。
「なんで、お前がここにいるんだ……?」
ステラの目は今までにないほど曇っていた。




