第10話 視察にきた王子様
ルアンにペンダントを渡してからと言うものの、
月の国にすぐには帰ろうとしなかった。
「月見祭まで俺がいないと、お前倒れるまで働くだろ…?」
そう言って、なんだかんだ月見祭まではいることになりそうだった。
ここ最近はステラは月見祭の準備も追い込みで忙しい。
当日売り出すバザー品や、屋台、寄付してくださる
貴族の来賓のおもてなし準備、飾り付けなどなど、
子どもたちも手伝ってくれるが、その多くはステラが担っていた。
今回のバザーが叔父に評価されなかったら、存続の危機になってしまうために、ステラは必死だった。
子どもたちの世話の合間や、寝静まったあとも、
ステラは準備に取り掛かっていた。
そして夜に一息つき、広間で紅茶を飲むのだが、
ここ最近はその時間が、なんとも楽しくなかったのだ。
理由は一つ。ルアンがここ最近来ないからである。
ルアンの小屋の方を覗いても、
明かりがついていない。
時々ルアンとここでたわいもない話をすることが、
ステラにとっての癒しの時間であったため、
物寂しさを感じていた。
「どこ行ってるんだろうなぁ。…」
そう思いながら紅茶を飲み終えると、
ステラはトボトボと部屋に戻り、眠りについた。
翌朝、ルアンは朝食の準備をしていた。
「おはよう。」
「おはよう。もうすぐできそう。」
その目は少し寝不足そうであった。
昨日何時に帰ってきたんだろ?
まさか夜遊びしてるのかな…?
ステラは思ったが、自分が聞く権利もないと
思ったのでルアンには何も聞かなかった。
すると、エミリア先生がこちらに駆けつけてきた。
かなり慌てた様子である。
「お嬢さま、大変です。テルス王子様がいらっしゃいました。突然で申し訳ないのですが、今訪問してもよろしいかとおっしゃられてまして。」
「えっ!?私にですか?テルス王子って確か時期王位継承第一候補の方ですよね?」
普段はこのような来客が見えた場合は、叔父が対応するのであるが、あまりにも突然だったのでステラが対応することとなった。
小さな応接間に向かうと、座っていた金髪でエメラルドのような瞳を持った王子様が椅子から立ち上がり、丁寧に挨拶をした。後ろには従順そうな護衛騎士が1人ついていた。
「突然のご訪問で申し訳ありません。私は王国の第一王子テルスと申します。」
「お初にお目にかかります。テルス王子殿下。
どうか、お座り下さい。この度はこのような場所に足をお運びいただき、誠に光栄です。」
「いやはや、噂に聞いた通り美しいお嬢さまですね。」
「あ、あの、殿下、失礼ですが、この度はどう言ったご用件でしたでしょうか?」
「はい、実はこの孤児院の評判を噂に聞きまして。
ここを卒業した子どもたちは皆優秀な人材だと伺っていたのです。何より、みな精神が安定しておられると。
我が国でも孤児問題は深刻となっております。
私も王子としてなんとかしなければならないと思っておりまして、あなた様がよろしければ、参考に視察させていただきたいのです。」
「視察ですか?本当に大したことはしてないのですが、光栄でございます。」
ステラは少し躊躇いながらも、王子のお願いとなれば断ることができなかった。
「ありがとうございます。では、来週、お伺いいたしますね。」
その時の王子は太陽のように明るい表情だった。
話がまとまり、護衛に囲まれながらテルス王子は馬車に乗って帰って行った。
「た、大変なことになったわ。」
ステラは急な出来事に顔が真っ青になっていたが、
王子様の視察ともなれば国からの支援などが期待できると思い、心は浮き足立っているようだった。
ルアンはその様子を見ていて、面白くなさそうに見ていた。
(なんだったんだ、あいつは…)
チッと舌打ちをして洗濯の仕事に戻って行った。
数日後、約束通りテルス王子が視察にやってきた。
国の王子が視察に来たので、
子どもたちは緊張気味だった。
それに気づいたテルスが護衛に今日は離れるように伝えた。
「皆さん初めまして。私はこの国の第1王子、
テルスと申します。
本日は皆がここで元気に過ごす様子を
見せてもらいに来ました。
今日は僕もステラ先生と同じように過ごすので、
みんな私と遊んでくださいね。」
「えっ!?殿下?殿下は見学だけの予定でしたよね?」
「国を治める者として、民の暮らしを知って
おかなければならないのです。
本日はよろしくお願いします。ステラ先生。」
テルスはニコニコとオーラを放ちながら言った。
ステラは見学だけと思っていたテルスの突然の
職場体験に頭がついていかなかった。
「さぁ、皆さん〜まずは外で遊びましょうー
ついてきてください!」
「はーい」
テルスはジャケットを脱ぎ、身軽な格好になって
子どもたちと外に出ていった。
王子とは思えない行動に、ステラは目を丸くして驚いていた。
「まさか王子様があそこまでやってくれると思わなかったわ…」
ルアンも彼の突然の参加に思わず驚愕していた。
(は?なんなんだあいつ…)
とんでもない1日の始まりだった。




