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死に戻りに疲れた傾国王子、生存ルートを模索する  作者: 沓子
番外篇

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傾国王子after 〜従者ガーシュによるネタバレその4〜終




 しわぶきの一つも聴こえない。

 カズサは真剣に考え込み、マリアはみかんを剥きながらガーシュを睨みつけている。

 ソル司祭は目を閉じて祈りを捧げバレルは頭を抱えていた。




「……な、なんで私たちが知らされ……」

 ようやく声を振り絞るバレル。



「皆さんが一番面白そうだったので」

 変わらない胡散臭さで城主が笑う。



「ああ、繰り返しますが『この物語はフィクションです。実在の人物や団体には一切関係ありません。』ですよ」

 誰が信じるか。




「じゃあ余興にそのフィクションを『真実として』語りましょう。つまり並行世界?」

「どうでしょう。私に言えるのは、可能性が高かった一番目と二番目の道筋が潰えたとだけ」

「ツェーレンは死なないのね?」

「人並み以上に生きますね」

「ならいい。何かあれば全力で治癒を打ちこむわ……もっと鍛えなきゃ、できれば蘇生まで」

「───そうなれば、あなたも聖女様ですな」

 力なく笑う司祭。




 黙り込んでいるカズサは、ハヤテ〝たち〟と念話をしていた。

 ガーシュだけでなくカズサにだって誰にも言わないことがある。ハヤテの能力やかれの真名、そして眷属がかれだけではないこと。

 ハヤテの特徴のひとつ。人の性質を見抜くことができ、善を助け悪を挫く。

 そしてもう一体の守護獣と協力することで可能となる能力がある。



 

 流暢に人語を操るハヤテはそれを隠してカズサだけにしか話さない。最もマリアとは時々会話しているようだが。

 ツェーレンには最初は会わせてやれなかった。仕事を頼んでいたから。

 カズサだけで会ったのを散々愚痴られた。



『澄み過ぎだ。ヒトとしてぎりぎり成り立っている。危ういな』

 義弟の本質をハヤテはそう評した。



『あれは、───そうだな、自然の気配に近い。言ってみりゃ樹や川や風みたいなもんだ。我々には心地良いが、あのまんまじゃ同一視されいつか取り込まれるぞ』

「自然に?」

『危ないのは山だな、特に日本の山。取り込まれるか或いは攫われて神の嫁だ。我らがいれば大丈夫だが』

「日本に連れてく事はないけど、こっちでも気をつけとくよ」

『三男坊が惹かれるのも道理。ヒトに好かれるがそれ以上に人外に好まれる』

「……人間にもかなり好かれるのにあれよりって……、」

 自然か神か魔王、どれもツェーレンを欲するとは思いもしなかった。





 界渡りのなか偶然にも手に入れる事となった二柱目も狼神だ。

 かれの名はガルム。ハヤテとは別の地域にルーツを持つ。カズサの守護獣は両名ともに神の系譜、アレスの百葉は神獣の顔も持つが精霊や妖怪の方に近い。

 もっとも針でもなんでも祀る日本においては神と魔の境界なんて曖昧だけれど。




〝もっと高位神にはなれるけれど役割分担が増えて縛りがきつくなるから嫌。面倒。ツェリのとこにいたい。〟

 そんな思考を百葉から感じたことがある。 

 ちなみに兄のソウジュはもちろん龍神である。天候を操る領域にあるかれは上位神だ。




 どうやら守護獣たちはアレスターの事情を当たり前に知っていたらしい。

 今話していて〝それが?〟という感じに返された。

 ツェーレンの件も同じく。訊かれたのでも命令されたのでもないから触れなかったと。

 人が出来ることは人で、というスタンスだ。ただ百葉はツェーレンの仇をやっつけたくてうずうずしていたという。





 ともあれやられっ放しは性に合わない。スカした従者にやり返したい。

「ガーシュ、次は俺に語らせてくれよ。〝フィクション〟をさ」

 手札を一つ晒すことになるが、まあいい。別にこの従者は敵ではない。

 ハヤテとガルム、二柱が揃えばカズサにだって「フィクション」を語れるのだ。




 ******************




 ガーシュにも知らないことがある。



 本来のルートでの話。

 かれは魔王の右腕となる筈だったこと。

 血塗れ公爵の二つ名を得たが、厨二だとアレスターが笑ったこと。

 史上最強と恐れられる二人だったこと。ふたりの傍らには常に、禍々しく呪いを撒き散らす荒神と成り果てた九尾の狐がいた。




 誰かに止めて欲しくて、でも止めて欲しいひとはもういない。

 まるで愛を捧げるように、人の血で大地を埋め尽くした。

 優しいあのひとが叱りに来てくれるかも知れない、そんなあり得ない希望をほんの少しだけ抱きながら。





 このルートでも司祭は手記を遺していた。聖女ツェーレンの数奇な運命と早すぎる死、かれを喪い狂った男の狂乱の宴が続く現況が書かれていた。

 国を名付ければ魔王が生まれる、その神託を守っていたのに何故こうなったのか。司祭はそれも調べていた。

 荒れ果てた王城の金庫に、通称とされる「ネームレス」を使用した書類を発見した。外国との条約締結のおり、たった一度だけ。もしやこれが国名と見做されたのだろうか。真相は分からないまま。




 手記の締め括りは信仰対象への問い掛け。

 〝神よ、なにゆえ聖女を奪いたもうた。彼から、そして我らから。”




 百数十年後に手記を偶然手にした辺境伯の次男は勇者を志す。ツェーレンの次兄の子孫だった。

 イェルレヒト王国にだけは魔の手は及ばず、生き残った人々の避難先となっていた。

 愛ゆえに狂った魔王と右腕を(ことわり)のうちに還すため、ツェーレンからある騎士に贈られたとされる飾り紐を剣に、義兄に贈ったという黒真珠の髪飾りを革紐に通して身につけていた。




 魔王は抵抗しなかった。腕を広げて迎え入れられ困惑しながら、かれの由来を知る青年は聖剣でその胸を貫いた。剣が魔王に届く直前、割り込んできた狐共々に。

 魔王と狐はさらさらと消滅していく。

 もう甦る事は無い。かれはあまりにも多くを殺め過ぎたので、輪廻の輪に戻るのは難しい。

 もし生まれ変われてもおそらく虫からだ。ヒトになるには気の遠くなる年月が必要だろう。





 魔王の右腕はどこか満足げに微笑み、手を出そうとはしなかった。自らの心臓に手を当てると、かれもまた砂のように砕け散っていった。

 最凶最悪のふたりの終焉だった。






 それは可能性が最も高かったシナリオ。もう紡がれない、歩んだ筈の本来の道筋。





 ******************





「───なかなか興味深い『フィクション』ですね」

「ありがちな結末だろ。俺に創作は向いてないよ」

 ガーシュとカズサのやり取りに誰も口を挟まない。




 長い沈黙ののち、徐にソル司祭が席を立つ。

「お、王家に書類の確認をしなければ。私はこれで失礼する」

「───私もちょっと気分が。も、もう帰ります」

「落ち着いて司祭様、バレル副師団長。ここ王国ですらないから自力帰宅は無理よ。みかん召し上がれ」

「大丈夫ですよ、おふたりはつい先日、魂結びしましたからどのルートにも行きません」

 ガーシュの言葉に立ち上がっていたふたりは動きを止めた。おいフィクションの建前が崩れてんぞと今更ながらカズサは内心突っ込む。

「魂結び?」

「おふたりの寿命の残りを足して等分に分配し死ぬ時は同時。更に生まれ変わっても結ばれる」

「げ。何その呪い」

「ツェーレン様は喜んでましたからロマンチックって言ってあげてください」

「……あの子ってどっかずれてるわね。ああでないとアレスターにはついてけないだろうけど」

「あー、アレス高位の魔術師だから寿命はだいたい二百年くらいか。ざっくり百七十年残ってるとして、仮にツェーレンのが無くてもふたりともあと八十年以上生きるワケだ」





 魔力の多い人間は老いが緩やかで長命だ。聖女は生命力を削る務めから長生きではないが、若々しさは保つ。

 ツェーレンが多少の無茶をしても、魂結びのおかげで寿命の心配はない。





「……魂結び。団長の開発したものですか。そんな報告聞いてません」

「一般的ではありません。呪術も絡んだ術式なので発表は出来ませんね」

「やっぱ呪いなんじゃない。ソル司祭、バレル副師団長、飲んで飲んで。とりあえず忘れましょう」

「泊まって頂くつもりでしたが、ご希望ならばお送りしますよ。食休みなさってください」

 ふざけるな、こんな所にいられるか! 俺はもう帰る! と誰かが言い出せばホラー展開だなとカズサは思った。




 結局酔い潰れて三人が仲良くテーブルに突っ伏すこととなる。

 司祭と副師団長は眉間に皺を寄せ、時々寝言を呟き魘されていた。





「あ、やっぱもう一匹……、神様だから柱か。いたのね。ワイン? それとも大吟醸? この芋焼酎も美味しいわよ」

『全部貰おう』

「ガーシュ、大きなボウルない?」

「ただいまお持ちします。こちらをどうぞ」

 作り置きを入れたマジックバッグから更につまみが追加された。

「ありがとう。鍋だったし揚げ物嬉しい」

『よく食うのう』

「教会で治癒奉仕の日だったの。魔力すっからかんだからいくらでも入る」

 漬けマグロの山かけ、春雨の酢の物、軟骨揚げにチーズ揚げが畳に並ぶ。

 こたつは寝ている三人が邪魔で皿が置けないので、マリアは畳でハヤテたちと飲み続ける。山芋揚げと揚げ出し豆腐を用意してからガーシュも酒宴に加わった。




「結局なんだったのこの集まり」

『マリアよ、この吸血鬼はたぶん何も考えておらん』

『そうだな。面白そうだったとぬかしてただろ、それが全てだ』

「ただの自慢です」

「ん?」

「私のあるじたち、凄いでしょう」

 聖女に魔王、たしかに凄いが。

「……まあ、幸せそうで何よりね。あなた含め」




 この吸血鬼だって大概だ。弱点らしい弱点はないし真祖の系譜ってやつかとマリアはひとりごちる。

 グレイシアで平和に従者をやっていてくれて本当に良かった。

 つくづく物騒な一族だが、自分もそこに加わってしまった。自分がいつか産むだろう子どもは普通であって欲しい。




「世界の平穏に乾杯ー」

「我が主、アレスとツェリに」

『吸血鬼よ、饗応の礼にお主に何か賜ろうぞ』

「お気持ちだけ。今は満たされています」

『ああそうか、これはお前の祝いなんだな吸血鬼』

「? どーいうコト」

『魂結びで、まだ当分アレスターたちと生きられるからな』




 守護獣とて主人との別れは哀しいが、それも人の営みと消化できる。神として違う次元を生きる存在ならではの考え方だ。

『だがお主は元人間だし百葉は妖狐であるゆえ人間くさい。あの夫婦を〝人間らしく〟深く愛しておるのだな』




 きょとんと珍しい表情をしたガーシュが、やがて破顔する。

「さすが神獣です。そうか、私は嬉しかったんですね」

「んじゃガーシュに乾杯ー。みんなの幸せにも」

『ヒトは面白いのう、大和の狼神よ』

『人って言うか、……まあ人でいいか』

「気分が良いので取って置きを出しましょう。海底で百年寝かせたワインです」




 とうに夜半を過ぎても、人間と人外の奇妙な宴はまだまだ続いていく。





 

「珍しくガーシュがいないな」

 膝に頭を乗せた百葉を撫でながらツェーレンが隣の夫に話しかけた。

「ずっといたのが珍しいんだよ。十年消えたりしてたらしいから」

「自由だなあ」

 アレスターは産まれてくる子の名付けに悩んでいる。

「カズサみたいな和風も捨てがたいし、ツェリの名前を取り入れるのもいい。うーん。どうしようかなー」




 ツェーレンはガーシュから囁かれたので、男の子の三つ子だと知っている。

 アレスターに言うと面倒だからと軽く口止めされていた。ただでさえ過保護で心配性な夫だ。出産で大変になるのは確実だから、何をしでかすか分からない。また休んで付き添うと言い出しかねない。





「アレス、義兄様たちやガーシュにも考えてもらおう」

「ツェリはいいの? 自分で付けなくて」

「センスがない。思い浮かばないし」

「ノエルはもっとないよ」

「センスがないってより独特の感性だよな、ノエル義兄様。マリア義姉様に任せよう」

 幸せだなあとツェーレンはしみじみ感じる。自分がこんなに穏やかな結婚生活が送れるとは予想していなかった。

 アレスとは生まれ変わってもずっと繋がっていられる。百葉も新しい名前でそばにいるんだろう。

 きっとガーシュもまだ生きている。




「ねえ、ツェリ」

 アレスターがツェーレンの頬に優しく触れて切り出した。

「ん?」

「ずっと言いそびれてたんだけど……ツェリが妖精の悪戯で飛ばされた時のこと」




 他のルートでできなかったのを、アレスターはやっと告げることが叶う。

 そうして紡がれる、まだ誰も知らない新しい物語。それはきっと、ハッピーエンドで閉じられるに違いない。




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