隣人
白い羽がゆっくりと降ってくる。
羽は、地面に着く前にいろいろな形に変化している。
一つ一つを眺めていて、屋敷の人たちだと気づく。
最初に落ちてきたのは、怖い顔をした老人、
その着物の裾を掴んで、女性が落ちてくる。
そして、書類鞄を抱えてメガネをかけた年配の男性、
次が若い青年、軍服を着ている?
その白い手袋が縄のような紐を握っていて、
その紐の先に、首に縄をかけられた旦那様が落ちてきた。
そして、まっすぐな姿勢で笑いながら秘書氏が、
最後に喪服を着た孔雀さんが降りてきて、黒い幕を下ろした。
※
掃除をしていてると、どこからかお線香の匂いが漂ってくる。
旦那様からは一度も匂いがしたことがない、秘書氏でもない。
でも屋敷のどこかで、誰かが誰かに手を合わせているように思える。
村にいる時、たくさん家族を亡くしている家ほど、線香の匂いが濃く漂っていた。
その古びた匂いが、悲しみの深さを表しているように思っていた。
それに、芝生の周りには紫陽花や小手毬に混じって、白い花の咲く木がある。
何の花かわからなくて調べてみると「沙羅双樹」という木だった。
お釈迦様が亡くなったとき、悲しみのあまり、我が身で亡骸を覆い隠すようにして枯れてしまった木。
お線香と沙羅双樹、どちらも亡くなった人を悲しみ、慕う印。
このお屋敷には、私が知らない誰かの死があり、その死が棲みついている。
ある朝、いつものように家の周囲を掃き清めていると、隣の門から年配の女性が現れた。
「新しいお手伝いさん?」
「そうです。おはようございます」
「奥様は最近、お茶会を開かないのかい?」
「えっ」
「前はよくお招きいただいたんだけど、最近は忙しいのかしら?」
この人は奥様が亡くなったのを知らない?
「奥様のお茶会には、お茶の作法を知らない人も招いたりして。弁護士だかなんだか知らないけど、
最近は教養のない人が多いのね」
「少しなまっていて」
「方言があったということですか?」
「そうよ、弁護士のくせに、相続をそんぞくって、おかしな人だったわ、奥様と話している時にそんぞくって」
「でもあの茶室、なんだか落ち着かなかったわね、宮大工を呼んで建てさせたっていうけど、音が響きやすくて、門の外の車を通るのが変に伝わって。宮大工っていうのも本当かどうか。奥様に伝えてくださいね。初釜は必ずお呼びくださいって。じゃあね」
相続をそんぞく、音が響く茶室、なぜか耳に残った。




