鸞鳳堂のこと〜小鳥のおみくじ〜
「鸞鳳堂」は、酒、たばこ、菓子、弁当から日用品、文房具まで、
生活に必要なものはひと通りそろえて、商いをしていた。
店は昔、旅の途中、人や馬が休んだり、荷物の受け渡しをしていた木造の建物で、
使わなくなったのを曳家といって、
家を丸ごと引っ張って移動する人に頼み、運んできた。
がらがらと引き戸を開けると、入ってすぐの右手前にはジュースの自動販売機とアイスクリームの入った冷凍ケース。
左側の奥はガラスケースがあり、洗剤や鉛筆、裁縫道具、毛糸いろんな品が雑多に並べられている。
真ん中にタバコケース。右の奥には酒、その前にはお菓子や新聞。
近所の男の子が配達するために毎朝、取りに来ていた。
買う時は、お客さんが欲しいものを指さし、こちら側から取って、代金をもらうか、帳面につけてから手渡す。
帳面には、誰それさんに0月0日、納豆1つ、酒一升瓶1本など、日付と名前、売った品と金額を記して、月末にお金をまとめてもらう。
その帳面のおかげで、いつ、どんな時に何が売れたかを把握することができた。
祖母は「もうすぐ運動会だから、お稲荷さんの揚げがいるね」
「お彼岸だからお線香と蝋燭を少し仕入れておこうか」と、帳面をめくりながら仕入れていた。
今思うと、みんながゆったりしていた。
帳面には、子供が小学校に入学したとか、結婚して村を離れたとか、ちょっとした暮らしの変化も記してあり、誰かが亡くなったときは、読めないほど小さくて、手が震えているような走り書きもあった。
買い物と暮らしが寄り添いあっている帳面が、私は温もりがあるようで好きだった。
そして鸞鳳堂の名前、その理由は店の一番奥にある小鳥のおみくじ。
細長い竹籤で編んだ鳥籠があり、手前の小さな賽銭箱に10円を入れると、ヤマガラがチョンチョンと飛び跳ねて小さな鳥居をくぐり、おみくじをひとつくちばしにくわえて戻ってくる。
そして台にちょんと置く、その仕草がたまらなく愛らしい。
おみくじには、祖母が朝、仏壇に手を合わせた後に手書きした短い文字が書いてある。
「中吉 色々あるけど大丈夫」
「吉 頑張ってえらいね」
ただその日に思いついた言葉を書くだけなのに、不思議と当たると評判で、
旅の途中にわざわざ店に立ち寄る人もいた。
「大吉 良き出会いあり」は、祖母が一番好きな言葉。
これを引き当てた人は、みな表情に光がさしたように明るくなった。
ヤマガラは、白いコテをした白い髭のおじいさんが連れてくる。
「旅が長いと可哀想だし、閉じ込められているのも可哀想だしなあ」と言って、
1年に一度、新しい鳥を連れてきて、今までの鳥はどこかへ連れ去っていく。
後からそのおじいさんは、ここからずっと先にある小さな村の出身で、
その村は 昔、呪術を担う人たちだけの集落だったと聞いた。
おじいさんの口癖を思い出す。
「人はね、おみくじぐらいがちょうどいいんだよ」




