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冥王様が通るのですよ!  作者: 木口なん
魔族篇 4章・聖杯

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539話 ベルフリート地下遺構

 スラダ大陸で最も栄える都はどこか。

 もしもそんな問いを投げかけられたとすれば、各大国は自国の首都こそがまさしくそうであると答えるだろう。しかしそれは狭い見解だ。客観的な評価をすれば、プラハ帝国の帝都アンブラこそ最高峰の都市だといえる。摩天楼の立ち並ぶ光景を目の当たりにすれば、誰もが認めるはずだ。

 近年拡張された新地区には新しい皇宮が建てられ、それが帝都アンブラの象徴となっている。三つの尖塔からなる巨大な摩天楼の城は、隔絶したプラハの技術力を証明していた。



「――以上がルーインとの戦況報告となります」

「ご苦労。座ってよい」

「はッ」



 報告していた国防省長官は着座し、ハンカチで汗を拭う。

 あまり良い報告とは言えないため緊張していたのだ。しかし叱責されるほどのものではない。



「ルーインがシュリット神聖王国と組み始めてから膠着が続くな。元はと言えばかの国がルーイン州を攻撃したからこうなったというのに……面の皮が厚い奴らだ」



 そう語るのはプラハ帝国の第三代皇帝、イシュヴァル・ラー・ファルエル・パルティアであった。

 今はイシュヴァル皇暦九十二年。

 先代皇帝フレーゼが崩御して以降、シュリット神聖王国による攻撃は頻度を増していた。それは聖守の資格を保有していたフレーゼの死により、シュリット神聖王国は再び聖守を確保できたからだ。本来の七代目聖守であったフレーゼはなかったことにされ、七代目聖守ロールズを立ててシュリットは力を増した。

 イシュヴァルはシュリット神聖王国による侵略行為に悩まされてきた皇帝なのだ。恨み言の一つや二つ……それどころか百や二百はある。



「ねぇイシュヴァル。本気出さないの?」

「セフィラ……ルーインもプラハの民の一部だ。滅ぼすわけにはいかん。それに今は赫魔共が活性化していて、そちらに大部分の戦力を割く必要もある。それに冥王様が直々に動いてくださっているのだ。我が国はただ待てばよいだろう」

「そう? 暇だなぁ」



 ふよふよと漂うセフィラを見て、イシュヴァルは目頭を押さえた。

 これでも豊穣の祈り(セフィラ・キエナ)により信仰を集めるプラハの偉大な女神だ。このような姿を見せてほしくはなかった。

 しかしイシュヴァルも慣れたもので、すぐに切り替える。



「まぁいい。もののついでだ。北部の対赫魔戦線についても報告を聞こう。財務省と国防省からそれぞれ議題が上がっていたな。まずは財務省長官から報告してくれ」



 プラハ帝国はルーイン州の独立に対して、本気の対処をしていなかった。

 ただ獲物を待つ狩人のように、時が来るのを待っていた。







 ◆◆◆






 封魔連合の王アポロヌスの作戦に乗ったルークたちは、西に向けて出発していた。西には連合国の一部となったルーイン氏族連邦があり、この国は北側でシュリット神聖王国と接している。現状、サンドラ帝国が封魔連合の北部国境線を圧迫しているため、ルーインを経由した道程が最も安全となっていた。



「おお。あれがエウレハですな。ルーク様、ご覧ください。シュリット神聖王国の街です」

「あれが……かなり大きな街ですね」

「先触れを出しておきましたから、そろそろ迎えが来ると思います」



 脚獣ゴウラの轡を並べつつ、ルークとロニは話し合っていた。

 今回の重大な作戦のため、アスラン王国の王子アーガスは元将軍ロニを送り出した。今はアスラン戦士団を名乗る元王城兵たちを率い、ルークを助けてくれている。とはいえクレバストロと協力してアスラン王国奪還戦も進める必要があるため、小さくまとまった人数ではあった。




「しかし随分と物々しいですね。商人や傭兵の出入りも多いように見えます」



 同じく脚獣ゴウラに跨ったルゥナが口を挟んだ。

 ルークとロニは初めて訪れる街なので判別がつかなかったが、何度か訪れたことのあるルゥナからすると異質に見えたらしい。戦力であり、同時に案内役としてアポロヌス王が貸してくれたルゥナのお陰で初めての土地でも迷わず済んでいる。

 目が良いらしく、遠くにいるうちから魔物を発見してくれるので道中も比較的安全だった。



「もしかして帝国軍が?」

「その可能性はあります。ルーク様もご注意ください。私たちは封魔連合の旗を掲げておりますので攻撃されないと思いたいところですが、傭兵などが誤って仕掛けてくる可能性はあります」

「そんな物騒な」

「戦直前ともなると、突拍子もない行動をとる人物もいるということです」



 もしもそんなことが起これば厄介だったが、幸いにも事件は起こらずエウレハからの使いがやってくる。先触れの者たちを伴い、馬に乗った白い衣服の一団で、封魔連合の旗を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。

 彼らの中で先頭にいた男が話しかけてくる。



「失礼。私は聖ラスター第二教会の司祭をしております、フェルデナントと申します。お話は伺っております。長旅お疲れでしょう。私からエウレハ聖石寮へと案内させていただきます」

「お出迎え下さりありがとうございますフェルデナント司祭。私はルゥナ。封魔連合王国が国王、アポロヌス陛下の名代として参りました。この度はお話を受けてくださりありがとうございます」

「いえ……ここまで来ていただいたというのに大変申し訳ございません。実は使いを頂いた時より状況が変わりつつありまして、すぐに協力というわけにはいかなくなってしまったのです」

「それはこの物々しい人の出入りと関係が?」

「はい。詳しくは街へ入ってから」



 フェルデナントは馬を反転させ、街へと向けて進む。

 それにルゥナも続き、慌ててルークたちも追いかけた。二人ともどこか釈然としないような、小難しい表情を浮かべている。その理由は先ほどの会話で使われた言語にあった。



「知らないはずなのに理解できる……相変わらず妙な気分だ」

「同感です。こう……頭の中がむず痒いといいますか。とはいえカーミラ殿には感謝しておりますが」

「ああ、まぁ」



 名前を呼ばれたことに気が付いたのか、カーミラが顔を向けてくる。何でもないと首を振ると、それ以上は追及してこなかった。

 ルークもロニも、当然だがシュリット語を話すことはできない。アスラン戦士団の面々も同じくだ。ルゥナや彼女が連れてきた者たちは喋れるらしいが、ともかく言語の壁というものは大きな問題となる。それを解決してくれたのがカーミラだった。

 少し前、ルークに封魔連合語を理解させた時と同じように、血を介してカーミラの記憶を分け与えたのである。自分の知らない知識が記憶として存在することになるため、少しばかり気持ち悪さを覚えるのは確かだ。ただ、何一つ言葉が通じないよりはマシである。



「ところでルゥナさん。その、セイ……セイなんとかって何ですか?」

「もしや聖石寮のことですか?」

「あ、それです」

「エウレハまでもう少しありますから、その間に説明いたしましょう」



 横並びとなり、ルゥナは話し始める。

 近くにいたロニをはじめ、アスラン戦士団の一部も気になるらしく耳を傾けていた。



「シュリット神聖王国では星盤祖マルドゥークと呼ばれる存在が信仰されています。それを祀る聖教会という組織があるのです。フェルデナント司祭は星盤祖マルドゥークに仕える御方ですね。聖教会が民衆の心の拠り所となる組織である一方、聖石寮は武力で以て脅威を排除する組織です」

「軍ではないんですか?」

「シュリット神聖王国の軍は別に存在します。聖石寮は対魔物や対魔族に特化した戦闘集団です。そして聖教会の教えを尊重する組織でもあります。いえ、お互いに尊重していると言った方がよいでしょうね」

「お互いに……?」

「はい。聖石寮には術師と呼ばれる人々が所属し、彼らの上には九聖という九人の偉大な術師が立っています。その九聖よりもさらに上の、聖石寮の頂点には聖守と呼ばれる人物が就くのです。そして九聖は実力によって選ばれますが、聖守は違います。星盤祖マルドゥークの預言により決まるのです」

「なるほど……? はぁ? なるほど?」



 アスラン王国では自然信仰があり、山や川や風などに神を見出す。自然物の中に意思が宿っていると考えているのだ。レビュノス家は嵐神ベアルを信仰していた元レベリオ人だが、そういった経緯もあってアスラン人の中に馴染んでいた。

 こういった文化的違いもあり、ルークからすればシュリット神聖王国の在り方はよく分からないものだった。



「その聖守……って人は強いんですか?」

「どうでしょうか。実際に私は見たことがありません。しかしシュリット神聖王国において偉人とされているのは確かです。エウレハの街にある聖ラスター第二教会は、八代目聖守ラスターの名から取られたとか。シュリット神聖王国の各街にある聖教会は、必ず偉人の名を冠すると聞いております。そして偉人の大抵は聖守であるとも」

「へぇ……ちなみに今の聖守は何代目なんですか?」

「十代目です。少し前に十代目聖守の就任式があったところですので、間違いありません」



 想像より遥かに詳しい説明だったので、ルークは感心した。

 普通、他国の事情など詳細に知れるものではない。実際、レビュノス領はサンドラ帝国と接していたが、ルークはそれほど帝国の内情を知っているわけではなかった。エリシュ含め、まれに帝国領から流れてくる傭兵たちが唯一の情報源だった。

 自分の知らない知識は興味深く、ついつい聞き入ってしまう。

 そんなことをしているうちに、目的地であるエウレハへ到着したのだった。




 ◆◆◆




 同時期、アポロヌスは封魔王国を離れてルーイン氏族連邦の領土を訪れていた。六年前にプラハ帝国から独立して以降、この国は戦が続いている。幸いにも帝国の攻撃は消極的で、一息に滅ぼされるようなことはなかった。

 しかし戦いが長く続けば、民は疲弊する。

 兵の徴用で男手は減り、人々は貧しくなる一方であった。それが原因で戦争意欲は下がり、やはり帝国に恭順するべきではないかという空気を隠しきれていない。

 それを覆すため、アポロヌスはここに来たのだ。



「お気を付けくだされ陛下。ここは古代文明の地下遺構。どのような仕掛けがあるか、全てを解明したわけではありません」



 アポロヌスはこの遺構を調査する学者たちに案内され、地下通路を進んでいく。明かりによって照らされる通路はほとんど塗装が剥げており、オリハルコン本来の色が見えている。

 ここベルフリート地下遺構は封魔連合王国が国策としている古代文明研究の一端で調査されてきた。発見は封魔連合が成立する前からされており、当時まだ冒険家でしかなかったアポロヌスが訪れ、初めて内部調査をしている。今案内している学者も、それに同行した人物であった。



「ザック。随分変わったな」

「ええ、まぁ。後悔は人を変えるのです。そして今でも後悔しております。好奇心で機構を作動させ、あの化け物を解放しかけたことを」

「……ああ。大切な仲間を何人も失ったからな。俺も決して忘れないさ」



 二人はしばらく口を閉ざし、遺構の奥に進み続ける。

 道中は所々に破壊の痕跡が残り、乾いた血が黒い染みとなって過去の惨劇を思い出させる。何度か階段を降り、昇降機で地下へと降り、地下深くに到達する。そこでは人工の証明が大量に灯され、幾人もの学者が遺物の研究をしている部屋があった。

 彼らはアポロヌスの姿を見ると緊張して作業を止めてしまう。



「皆、気にせず作業を進めてくれ」



 すると学者たちは顔を見合わせ、一瞬迷った後に少しずつ自分たちの作業へと戻り始めた。先ほどより少し静かになったが、再び各所で発掘や議論が再開される。

 そんな学者たちを統率するザックは、近くに置いてあった巻物を手に取って開き、アポロヌスに説明を始めた。



「文字は地獄域で発見された古代遺物と一致しておりましたので、解読は難しくありませんでした。しかしここは古代の研究施設か軍事設備のような役目があったようで、専門的な名詞の解釈に難儀しております」

「つまり兵器を研究していたというとこかな?」

「ええ、まぁ。『銃』と呼ばれる兵器の遺物が複数見つかっておりますので。倉庫と思われる区画に大量保管されておりました」

「それらは使えそうか?」

「難しいでしょうね。兵器は複雑な機構で、古代の魔力技術が使われています。刻まれた術式も劣化してほとんど読み取れず、再現するにも……一応、文献からどのような動作をするかは分かっております。魔術により金属の塊を高速射出するというもので、小型の投石機のようなものですな」

「それは強いのか……?」

「勿論ですとも。陛下、ご想像ください。目に見えぬほど速く、しかも一瞬にして何十発と金属の塊を射出する兵器です。そしてこの兵器が全ての兵士に与えられ、横並びとなって一斉に使うとすれば……」



 それを聞いてアポロヌスも納得した。

 投石機でたとえられたのでよく理解できなかったが、小型投石機を弓矢のように運用でき、さらに連射も可能となると話は変わってくる。戦争の常識すら塗り替わることが想像できた。



「ザック。たとえばだが、その兵器を槍騎兵部隊に対して使う場合どうなると思う?」

「相手にならないでしょうな。騎兵はこちらに届くより早く壊滅します。この兵器のゆえに、古代では剣や槍や弓のような武器がなかったのでしょう。発見される刃物は短剣ばかりですからな」

「よく分かった。研究は続けてくれ。きっと大きな力になる」

「承知いたしました」



 とはいえ、銃という古代兵器が本題ではない。

 アポロヌスはこの部屋の奥にある大きな封印へと目を向けた。分厚い金属の隔壁によって閉ざされ、さらに透明な結晶によって覆われている。

 隔壁の周辺は特に破壊の跡が激しく、壁や天井も崩れてしまっている。研究のために幾らか除去されたが、まだかつての過ちが思い出される程度にはそのままだった。



「そうでした。このベルフリート地下遺構に封じられていたかの化け物について、名前が判明しました。文献によると不死身の魔物として恐れられ、封印するしかなかったと言います。この地下遺構を保有していたコルディアンという古代の国家は、化け物を大魔術によって凍結させ、ここに封じたと」

「そこまで分かったのか。素晴らしい発見だぞザック! それでその化け物の名は?」

「『タマハミ』……そう、記されておりました。何か意味を持つ言葉なのかもしれませんが、今のところは固有名詞として理解しております」



 他の学者たちはいつの間にか作業を止め、アポロヌスとザックの会話に耳を傾けている。ここにいる者たちは全員知っているのだ。かつて興味本位で封印を解き、恐ろしい化け物を解放してしまった事件を。

 そして今、アポロヌスは再びその封を解くつもりでいる。



「陛下。本当に可能なのですね?」

「勿論だ。俺はできると確信しているよ。化け物……タマハミを俺の力で縛り、操る」

「……分かりました。我々は安全のため結界を作動させ、その外側にいます。逆に言えば結界の内側に入り、タマハミと対峙する陛下は簡単に逃げられないのです」

「君たち学者は自分の命を優先してくれて構わないよ。それに前回も、俺はタマハミを封印の中に押し込めた。何とかしてみせるさ」



 そう語りながらアポロヌスは進む。

 結晶により封印された巨大隔壁の前で立ち止まると、学者たちは結界を作動させた。古代の遺構を調査することで幾つかの装置は起動に成功しており、この結界装置もその一つであった。



「出番だ晶鱗具メルクリウス火滅マルス。俺の魔力を捧げる。俺と同化しろ」

『いいでしょう』

『よかろう』



 アポロヌスは二つの神器ルシス同時・・に同化した。



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― 新着の感想 ―
またタマハミが… こいつ登場するたびに関わった人みんな不幸になるからもう怖いわ
魔神となったアリエットは覚醒魔装士を使ったタマハミと融合して力を手にいれたし、喰った魂を残機として使えるのが強すぎる。 戦争でタマハミに大量の魂を集めさせれば、賢者の石をもう一つ作れないかな?
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