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冥王様が通るのですよ!  作者: 木口なん
魔族篇 4章・聖杯

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535話 レギンレイヴ会戦②

 血晶武装と呼ばれるものがある。

 それは吸血種ノスフェラトゥたちにとって、自身の分身ともいえるものだ。自らの血液から作り出す武器であり、吸血種ノスフェラトゥたちの膂力にも耐えられる利点がある。しかしその最大の強みは、血の性質を具現化できるところにある。元より瘴血の毒を宿しているほか、特殊な能力が付随する場合もある。

 吸血種ノスフェラトゥデュールの血晶武装は槍の形状だが、異能を解放すれば茨となって広域を襲う。

 ロンディスたちは空間を埋め尽くすほどの血の茨に飲み込まれた。



「人間とは愚かだ。弱い生き物は慈悲に縋り、慎ましく生きるしかないというのに」



 デュールが手をかざすと、密林のように広域を覆いつくした血の茨が元に戻っていく。彼の手元へと集まり、元の赤い槍へと変化した。

 だがその途中、デュールは眉をしかめる。



「血を啜った手応えがない、だと?」



 本来、血の茨は広域を攻撃すると同時に、巻き込んだ敵の血を吸いつくしてしまう。かすり傷一つで失血死まで追い込むことができる凶悪な血晶武装なのだ。

 吸い取った血液は一時的に槍へと蓄えられ、デュールへと還元される。

 血の茨が吸血したであろう血液を自身の中に取り込もうとして、それができないことに気が付いた。彼が急いで茨を引っ込めると、先ほどまで茨が咲き誇っていた場所にとぐろを巻く白い何かがあった。魔力を感知すれば、白い何かの内側に人間たちが集まっていることが分かる。

 つまり何かの方法によって、血の茨は防がれてしまったということだ。



「……面白い。劣等種が私の攻撃を無傷で凌ぐか!」



 歯ぎしりの音がはっきりと聞こえる。

 デュールは分かりやすく憤怒の表情を浮かべていた。あの白い何かが消えた瞬間、再び血の茨を使って殺しつくしてやると自身に言い聞かせる。

 槍を逆手に持ち、その時を待った。

 白い何かは上から順番に解けていく。

 その正体は鞭のような剣であった。内側で守られていたロンディスたちも何が起こったのか理解できていないらしく、目を丸くしている。彼らを守ったのは、一人の少女であったからだ。



「ここは私に任せてください。あの吸血種ノスフェラトゥは私が相手をします」

「君はいったい……」

「私はカーミラです。あちらで魔族と戦っているルークさんの仲間……といったところでしょうか。あなた方はあちらを援護して魔族を倒してください」

「しかし」



 カーミラは鞭のような武器、蛮骨を振るう。

 これはかつて戦ったラヴァという蛮族から剥ぎ取った戦利品のようなもの。骸殻の魔装から生み出された脊椎剣に、カーミラの瘴血を組み合わせて作った血晶武装であった。蛇腹剣はカーミラの意思を反映して自在にうねり、デュールへと迫る。

 予測不可能な動きのためデュールは動けず、赤い槍を持つ右手を切り飛ばされてしまった。



「馬鹿な……ッ!?」

「その武器。魔族の血を使いましたね」

「ぐあッ!?」



 至近距離まで迫ったカーミラが蛮骨を振るう。

 血の刃がデュールの肉体を削ぎ、彼は空へと打ち上げられた。丁度そこに、斬り飛ばされた右手と共に宙を舞っていた赤い槍が落ちてきた。カーミラはそれを左手で受け止め、彼女の瘴血で浸食する。

 それを見ていたロンディスたちは、カーミラに任せれば問題ないということをようやく理解できた。彼らがルークの援護に向かったことを横目に見つつ、カーミラは呟く。



「大人しくしていただきます」



 カーミラは所有権を奪取した赤い槍、血の茨を解放する。

 解けた槍は無尽蔵の茨となって、宙に打ち上げられたデュールを襲った。回避場所のない空中での広範囲攻撃に対し、デュールは為す術がない。彼は血の茨に包まれ、封じられてしまう。



「殺しはしません。あなたは同胞なのですから」



 悲しそうに、しかし慈愛を込めて彼女は呟いた。









 ◆◆◆






 少し離れた場所で深紅の茨が大樹のようにそびえた頃。

 業魔族アールフォロと戦うルークは、攻めきれないことに苛立ちを覚えていた。

 球根の巨人を何度薙ぎ払っても、次々と新しい個体が出現する。ならばと邪妖魔仙を狙ったところで球根の巨人が盾となる。また仮に攻撃を届かせても、すぐに再生してしまうので意味がない。

 嵐唱バアルと同化しているので魔力は問題ないが、神器ルシス同化による体力の消耗が時間制限となる。



(く……こいつら)



 もう一度、力づくで嵐唱バアルで薙ぎ払う。

 扇状に閃光が広がり、球根の巨人たちは焼け焦げて崩れた。しかしすぐに球根は解け、新しいものと結びつき、再び巨人として新生する。

 嵐唱バアルは強力だが、拡散すればどうしても貫通力は低く、巨人の背面などは無事に残ってしまう。その無事な部分が寄り集まってしまうのだ。またこうしている間にも新しい球根の巨人は生み出されているため、一向に減った気がしない。



『我に捧げよ。魔力を捧げよ』

「分かってるっての! 好きなだけ持っていけ!」



 ルークは後先考えず嵐唱バアルの言葉に応える。

 はっきりわかるほど大量の魔力を持っていかれ、嵐唱バアルの青い刀身が神秘的に煌めく。青白い粒子が刃から拡散し、同時に空で雷鳴が轟いた。



『大雨に歓喜せよ。雷鳴の声を崇めよ!』



 頭の内側で強烈な思念が木霊し、同時にルークは『こうするべき』と察する。切っ先を天に向ける形で嵐唱バアルを掲げ、その力を解き放った。

 天と地を光の柱が結ぶ。

 それは一瞬のことであったが、何度も、何度もそれは起こった。

 ルークの周囲で秒間数十もの落雷が発生し、球根の巨人を穿ち、次々と崩壊させていく。総合的にはほんの僅かな時間であったが、この攻撃は球根の巨人を全滅させてしまった。



「はぁッ! はぁッ……どう、だ」



 如何に適性が高いとはいえ、無茶な運用をし過ぎた。

 ルークの周りでは塵となった球根が散らばり、今度こそ巨人として復活する様子もない。ただしルークもまた、ほぼ体力を使い切ってしまっている。まだ本命たる邪妖魔仙が残っているというのに。



「アァー」

「くそ。うッ……動け……」



 いつの間にかすぐ傍まで迫っていた邪妖魔仙の、額にある第三の眼が開く。それは普段閉じられている邪悪な瞳。視線を合わせるだけで強い恐慌や金縛りなどの効力を発揮する。

 邪妖魔仙はサポートや絡め手に特化した業魔族だ。故にルークの能力を一目見て攻撃力に優れたものと見抜き、消耗を強いた。さらには念には念を入れて、体力と魔力を消耗して弱っているルークに弱体化の邪眼を仕掛ける。当然、抵抗力が低下しているルークでは抗えず、動けなくなってしまった。

 後はどうとでも料理できる状態だ。

 邪妖魔仙は環境を操作する異能で土を固め、槍を形成してルークの首元へと穂先を合わせる。そして魔術的な力で射出された。



(死――)



 ルークは慌てて嵐唱バアルを再起動して嵐の鎧を作り出そうとするも、既に間に合わない。死を覚悟する余裕もない攻撃は、しかし彼の首を抉り飛ばす直前で逸れていく。

 いや、攻撃が逸れたのではなく、ルークが横から押し倒されたことで槍を回避したのだ。ルークを助けたのは、連合軍の将ロンディスであった。



「無事か少年!?」

「あんたは」

「彼を一度下がらせよ。陣形を組め。魔族を倒すぞ。奴を打ち取れば帝国軍の士気を挫くことも叶う!」



 お互いに言葉は通じていないためルークは抵抗したが、すぐに連合兵士たちによって下げられた。また盾持ちの連合国兵が前に出る。長槍を使って遠距離から圧をかけ、素早く陣形を作る。その間、邪妖魔仙は微動だにしなかった。

 明らかに侮っている態度だが、それが許されるほどの実力差がある。

 邪妖魔仙は連合国兵を見て、いつでも好きな時に殺せる容易い雑魚だと判断したのだ。故にその視線はルークへと向く。



「ッ! 嵐唱バアル!」



 ほとんど反射で嵐の鎧を作り出した。

 同時に足元から大量の蔦が飛び出し、鋭い棘の先端でルークを串刺しにしようとする。間に合った嵐の鎧が防いでくれたが、蔦はルークを囲い、動きを封じてしまう。

 大量の蔦はついでとばかりに大楯を構える連合国兵を押し流し、一瞬にして陣形を崩す。そこから鉄より鋭い棘を生み出し、脆弱な木の盾や革鎧ごと貫いて血の花を咲かせた。断末魔の重奏は恐怖をばらまき、巻き込まれなかった連合国兵も総崩れとなった。

 それを目の当たりにしてすぐにロンディスは鼓舞する。



「恐れるな! 魔族はここで倒さねばならん!」



 すると兵士たちは元気づき、生き残った者たちで陣形を組み直す。盾兵たちは蔦と棘を押しのけて進み、槍兵たちが隙間から突きを放った。それらの一部は邪妖魔仙まで届くが、残念ながら穂先は弾かれてしまう。まるで硬い岩でも突いたかのような感触で、彼らは自分たちが決して勝てないことを察した。

 業魔族ともなればある程度の迷宮魔力を宿している。その効力により強い魔力を伴わない攻撃は簡単に弾かれてしまうのだ。



「諦めるな! 抑え込め!」



 ロンディスの鼓舞は彼らの絶望を払拭してくれるが、それで戦況が変わるわけではない。攻撃を通せなければ、待っているのは死だけだ。

 だからロンディスは託していた。

 迷宮神器アルミラ・ルシスを有する少年に賭けたのだ。

 そしてその通り、ルークは応えた。



「もっと俺を持っていけ! だから力を差し出せ嵐唱バアル! 魔族を殺す力を寄こせ!」

『よかろう。後悔するなよ』



 ルークの身体から雷撃が放射され、彼を封じる蔦が焼き切れる。暴風は鎌鼬を発生させ、鋭い棘を引き裂く。思うがままに嵐唱バアルを構えた結果、それは突きの構えとなった。刃は白熱するほど輝き、ルーク自身ですら肌で熱を感じる。

 激しい雨は刀身に触れた瞬間蒸発していた。



「はぁッ!」



 泥濘の地面に脚が沈み込むほど踏みしめ、気迫と共に刃を突き出す。すると切っ先から陽電子の雷光が放射され、一直線に焼いた。閃光が通り過ぎたのは一瞬であったが、その一瞬で邪妖魔仙は頭部を吹き飛ばされ、断面の首は黒く焦げている。

 これは勝ったと誰もが思った。ルークも勝利を確信していたし、ロンディスたち連合国兵も強い魔族を討伐したと鬨の声を上げようとしていた。

 しかしそれはほんの数秒でぬか喜びとなる。

 首から上が消失した邪妖魔仙は、瞬時に再生して元の姿に戻ってしまったのだ。



「アァァー?」

「ば、馬鹿な……これほどの再生力があるというのか。本当に不死身か?」



 連合国兵の要であったロンディス将軍ですら打ちひしがれた。これでは兵士たちを元気づけることもできず、正しく運用することもできない。将を失った軍隊の末路は悲惨なものである。また頼みの綱であったルークも力を使い果たし、既に嵐唱バアルとの同化すら解除されていた。今の一撃は負荷が大きかったらしく、もはや立つこともままならない。

 万事休す、であった。



(仕方ありませんか。ルークさんの力を見るつもりでしたが、業魔族はまだ早かったようですね)



 本来であれば、彼らの末路は惨めな死であった。

 ただここには運命を覆す強者がいる。カーミラ=ノスフェラトゥという圧倒的切り札がいる。

 突如として邪妖魔仙アールフォロは燃え上がった。黒い炎がその身を焼き、苦しめ、絶叫させる。精霊秘術クリフォト術式で地獄の黒炎を召喚したのだ。

 それを皮切りにカーミラは連続して蛮骨を振るい、邪妖魔仙を守る蔦ごと肉を削り取った。再生しながら畏怖の絶叫を放つも、精神的な揺さぶりはカーミラに効かない。これはつまり魔力を使って魂に恐怖と刻み付ける術の一種であるため、魔装を覚醒させた彼女には通用しなかった。というより、魂に働きかける攻撃は大抵、冥界の加護で打ち消せる。



「ルークさん。もしもまだ意識を保っていられるのであれば、私の戦いを見学してください。戦いの中では常に冷静でなければならず、正気を失った者から死んでいきます。捨て身は後へ託す人物がいなければ、無意味な自滅だと覚えておいてください」

「あ……」



 気絶しそうになっていたルークは、カーミラの言葉で一気に覚醒した。相変わらず体は動かないが、意識だけは保てている。気合で首を動かし、どうにか戦いを見ることができるようにした。

 ロンディスたち連合国兵はカーミラの言葉を理解できなかったが、それでも大人しくしていることを選択した。彼らもすでに戦意を失っていたのだ。



「《獄滅ゲヘナ》、《召屍アズラ》」



 クリフォト術式で地獄の炎と不死属を召喚し、邪妖魔仙を拘束する。固定の性質を持つ獄炎は動きを鈍らせ、さらに不死属系魔物の骸骨たちが物理的に抑え込んだ。こうしている間にも苦痛の炎は邪妖魔仙を蝕み、赤子のような甲高い声で鳴く。それは見る者の同情を誘うものであったが、カーミラは一切動じなかった。



「デュールという吸血種ノスフェラトゥが使っていた血の茨。あれはあなたの血が由来ですね。私には感じられます。であれば、あなたは新しい武器に丁度いい」



 蛮骨を何度か振り回して勢いをつけ、鞭のようにしならせつつ鋭い突きを放つ。先端部分は瞬間的に音速すらも凌駕し、獄炎と不死属によって拘束される邪妖魔仙を容易く貫いた。そして蛮骨を構成する血の刃は、その体内で弾ける。

 鋭い棘へと形態変化した血の刃が内側からずたずたに引き裂いた。当然だが核たる魔石すらも砕き、ついでとばかりに蛮骨を介して吸血する。



「ア……キゥ……ァ」

「終わりです」



 カーミラが蛮骨を引き抜くと、容易く邪妖魔仙の肉体は砕け散った。魔石を破壊されたので再生もなく、ただの血肉と骨になって飛び散る。

 同時に、カーミラは吸収した血を左手で再構築し、真っ赤な槍を形成した。茨の意匠が浮かぶそれは、吸血種ノスフェラトゥデュールが持っていた血の茨と全く同質のものであった。いや、血の濃さでいえばそれすら上回っていた。





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