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第27話 なんやかんや言ってうちの子が一番かわいい その2


 翌日、ルクシアは昨夜の約束通りストラスバーグ家に来ていた。ラルフはお土産を選びに行ってもらっている。シンディとシリウスはオルディアーノ家でお留守番だ。

 アランとキャリルはルクシアが一人で来たことに首をかしげていた。ルクシアは誰かと会わせたいと言っていたが、その人物の姿が見当たらない。


「中隊長、誰と合わせるつもりだったんですか?」


 アランが不思議そうに尋ねた。ルクシアはふふっと笑い、少し上を見て「どうぞ」と声をかけた。

 すると、アランとキャリルの目の前をふわりと何かが舞った。火の粉だ。続いて姿を現したのは赤い光を纏った女性だった。髪は炎のように鮮やかな赤色。瞳も緋色の光を湛えている。


「炎の上級精霊ですわ。お二人の加護を与えたいそうです」

「俺たちに? どうして……?」


 アランとキャリルは炎の精霊を見上げる。炎の精霊は微笑んでいた。


「お忘れですか? この子は小さいときにお二人に助けられたと聞いていましたが」


 アランとキャリルはしばし顔を見合わせたが「あ!」と声を上げた。


「もしかして、あの時の!?」


 アランが声を上げると、精霊は嬉しそうに頷いた。キャリルは目を輝かせて精霊を見ている。

 二人の記憶に、雨上がりの木の下で消えそうになっていた小さな精霊が蘇る。


「高等学校に入学する時、加護を貰い損ねたことがあったでしょう?」

「そういえばそんなことも」


 ルクシアの言葉にアランはちょっと前の記憶を掘り出した。加護を与えられそうになって、結局何も貰えなかった。

 高等学校に入学する時、加護や祝福を貰う儀式がある。貰えない者も多いが、途中で頓挫するのは非常に稀だ。それでアランは学生時代、精霊に見放されたとからかわれた時期もあった。


「あれは炎の精霊王があなたに加護を与えたい者がいるからちょっと待ってほしいって頼んでいたんですの。それが、彼女ですわ。その時はまだ十分に力がなく、あなたに加護を与えられなかったのです」


 ルクシアの説明に炎の精霊は少し照れ臭そうに頬をかいた。


『今度は、私が二人を守るから』


 炎の精霊はそう言って、両手をアランとキャリルの頭にかざした。温かな光が二人を包む。

 アランは自分の中に温かい何かが入って来るのを感じた。


「さあ、アラン。帰ったら特訓ですわよ」

「へ?」


 ルクシアはにっこり笑うが、アランは顔をひきつらせた。


「加護を貰ったら簡単に使えると思っているのですか? 何事も練習は必要です」


 当たり前だろうと言いたげな口調でルクシアが言う。

 炎の精霊はやる気満々の表情を浮かべた。


「あ、あのルクシア様。私も練習させてもらえませんか?」


 キャリルの申し出に、アランとルクシアは驚いた顔をする。


「せっかく加護をいただいたのに、使えないのは申し訳ありませんもの」

「そうですね。ストラスバーグ侯爵の許可があればお引き受け致しますわ」


 ルクシアは考える素振りを見せて答えた。さすがに独断では決められない。


「キャリルにまでやらせるんですか!?」


 思わずアランが叫んだ。ルクシアはムッとした顔になる。


「あなたと同じことをさせるわけないでしょう」


 ルクシアの言葉にアランは少しだけホッとした表情を浮かべる。

 キャリルは父に許可をもらってくると、屋敷の方へ駆けて行った。彼女の父ストラスバーグ侯爵はルクシアの下でなら、とすぐに許可を出してくれた。


 こうして、アランとキャリルの特訓が始まった。


 騎士団の宿舎の隣にある運動場の隅で、アラン、炎の精霊、キャリルの順で横に並んでいる。ルクシアは三人に手をつながせてお互いの魔力を感じ取るように言った。三人は集中するため目をつぶっている。

 自分の魔力ではないものが手のひらから流れ込んでくる。嫌な感じはしない。加護を貰った時と同じような温かさがある。


「精霊の魔力を感じ取ったら、それと自分の魔力を混ぜるイメージで馴染ませてください」


 ルクシアの指示を受け、アランとキャリルは言われた通りに自分の魔力と精霊の魔力を混ぜていく。

 五分ほどその動作をさせ、ルクシアはポンと手を叩いた。


「はい、少し休憩にしましょう」


 ルクシアの言葉を合図に、アランとキャリルがため息をつく。


『二人とも、すごく筋がいいよ』


 ルクシアの隣にいたファントムが褒めた。アランとキャリルが小さく笑う。間にいる炎の精霊も嬉しそうだ。


「精霊の力を最大限に引き出すには、わたくしたち人間と精霊の魔力を同調させることが大事です。それを知らずに使っている人は多い、のですが……あなたたちは何でここにいるんですの?」


 ルクシアは野次馬根性丸出しの部下たちを見回した。彼らはルクシアの後ろから特訓の様子を見ていた。


「俺、今日休みっす」

「俺も」


 一応、仕事がない者だけが来ているらしい。ならば叱責する必要はあるまい。


「俺も加護持ちだから参考までに」


 と、言ったのはラルフだった。アランが首をかしげる。


「何の加護なんですか?」

「光の下級精霊だ。そんなに大きくない」


 ラルフがそう言うと、彼の肩にポンと軽い音を立てて手のひらサイズの男の子が現れた。銀色のふわふわした髪でのほほんとした表情を浮かべている。

 精霊が現れたのを見て、ルクシアはニコッと笑う。


「あなたもやります?」

「いや、いい。寝る」


 ラルフはそう言うと、欠伸を噛み殺しながら宿舎へ戻っていった。夜勤明けだったようだ。同じく夜勤明けだった者はつられて宿舎へと戻っていった。


「そう言えば、お前に名前ってあるのか?」


 アランは炎の精霊を見た。ファントムに名前があるように、彼女にも彼女の名前があってもいいはずだ。炎の精霊は頷いて微笑んだ。


『私の名前はイグナス』

「そっか、よろしくな。イグナス」

「よろしくお願いします」


 アランとキャリルも笑顔になる。

 ルクシアは心の中で「まだ名前聞いてなかったのか」と思ったが口にはしなかった。


 小休憩を挟み、先程と同じ工程をする。

 二人の魔力がイグナスの魔力と良く混ざってきたところで、実際に魔法を使うことにした。ルクシアはファントムに頼んで的になる幻影を作ってもらう。


 火魔法「ファイアボール」


 アランとキャリルが揃って魔法を放った。通常は野球ボールくらいの大きさの火球になるが、二人が放ったそれははるかに大きかった。

 アランはバスケットボールくらいの大きさに、彼より魔力量が多いキャリルはさらに大きな火球が出来た。

 イグナスは無邪気に喜んでいる。しかし、全く異なる魔法を放ったような気分の二人は唖然としていた。


「あの……中隊長。これって?」


 アランは説明を求めるようにルクシアを振り返る。彼女は満足げに頷いていた。


「これが精霊に加護を貰うということです」

『二人ともすごいよ!』


 ファントムはパチパチと拍手を送る。


「さあ、この調子でイグナスの魔力との同調を続けていきますわよ。意識しなくても同調できるようになるのが最終目標です」


 そこからのルクシアは(アランにのみ)スパルタだった。

 様々な火の魔法を使わせ、やれ威力が弱いだの、やれ魔力が乱れているだの、と指摘を繰り返す。魔力操作が得意なルクシアは些細な乱れも見逃さない。

 ファントムも攻撃対象となる的をいくつも出して大忙しだ。


 二人に疲れが見えて少ししてから、本日の特訓は終了とした。朝から特訓して今は昼前だ。


「アランは昼食後、午後から仕事に戻りなさい。キャリル様はゆっくりお休みになってくださいな」

「ふぁい……」

「ありがとうございました」


 ルクシアの言葉に、二人は元気なく答えた。アランはキャリルにご飯を食べに行こうと食堂へ誘った。二人が宿舎の食堂へ向かったのを見送り、ファントムがルクシアに声をかける。


『あの二人、飲み込みが早いね』

「ええ。このまま行けば、アラン一人でも余裕で新人たちの相手が務まりますわ」


 ルクシアはフンと鼻を鳴らした。正直、炎の精霊の加護がなかったとしても、内地の新人に負けないくらいアランを鍛えているという自負はある。

 自分たちが日々相手にしているのは人間よりもずっと強靭で言葉の通じない野獣だ。半端な鍛え方はしていない。


 だが、基本は団体戦の新人大会だ。大会要項を確認して作戦を立てる必要がある。

 カデルの嫌がらせで連絡が来なくなるといけないので、クラウスに直接、大会要項を送ってもらうよう頼んである。そろそろ届く頃だろう。


 ルクシアが執務室に戻ると、シンディが机の上から出迎えた。


《御主人~。お手紙が届いてるの》


 彼女の言う通り、机には手紙がいくつか届いている。その中にクラウスからものがあった。ルクシアは他の手紙の差出人を確認し、クラウスの手紙を最初に開ける。やはり、今回の新人大会の要項だった。


 ルールは自分のチームの宝玉を守りつつ、他のチームの宝玉を破壊すること。

 四チームで一試合とし、最も宝玉を壊した数が多いチームの勝利とすること。


 複数人が参加することを前提としているため、このようなルールになるのは当然である。

 アランは一人で宝玉の守りと他チームのへ攻めをしなければならない。


 ルクシアはふむふむと考え込む。考えた結果。


「アランなら大丈夫でしょう」


 と、言う結論に達した。


 大会に日付は約一か月後。会場は帝都の闘技場だ。

 クラウスの手紙の最後には医療班としてラルフを貸してほしい旨が記されていた。先日の騒動で彼の優秀さに目を付けたのだろう。ラルフは面倒くさがりそうだが、師団長のお願いを断るわけにもいかない。

 ラルフ以外にも医療班はいるのでメラルの町は数日間彼がいなくても平気だ。


 あと、大会を見学に行けるとしたら中隊長であるルクシアくらいになる。他の皆にはタブレットで中継を見てもらうことにしよう。


 ルクシアは当日の流れも確認していた。

 今年の大会はトーナメント方式ではなく一試合きりになるらしい。新人たちの鍛錬の場であるため、勝敗はそれほど重視されないようだ。


(カデル、とか言いましたか。アランと当たらなかったらどうするおつもりなのかしら?)


 アランに勝つと息巻いていた青年が浮かんだ。

 今回の場合は宝玉を壊した数とかで勝負を決するとか言い出しそうだ。


《アラン君の特訓はどうなの?》

「いい調子ですわ。大丈夫です」


 不安そうに尋ねるシンディにルクシアはにっこりと微笑んだ。



 一方、食堂では疲れた顔でアランが昼食を口にしていた。向かいに座るキャリルもちょっと疲れている。


「おう、アラン。だいぶしごかれてたみたいだな」


 マクシムが笑いながら声をかけた。


「お疲れ様です。いや、マジできついですよ。あんなの呼吸するようにできる中隊長って、やっぱりバケモノっす」


 アランが特訓の感想を口にした。ルクシアのことはすごいと思っていたが、同じことするとよりそのすごさがわかる。


「精霊の加護持ちで指導に適任なのは中隊長しかいないからな。みっちり鍛えてもらえ」

「はーい」


 マクシムの言葉にアランは間延びした返事をする。


「で、そっちがお前さんの婚約者さんか?」

「はい、初めまして。キャリル・ストラスバーグと申します」


 マクシムがキャリルに目を向けると、彼女は食事の手を止めて頭を下げた。名前を聞いたマクシムはギョッとする。


「ストラスバーグって……あのストラスバーグ侯爵家のお嬢様か!?」


 キャリルは頷いてニコッと笑顔になる。


「こりゃ、新人大会は負けてられんな」


 マクシムはアランにそう言った。アランは水を飲んで尋ねた。


「新人大会って、何するんですか?」

「さあな。俺は中途採用みたいなもんだから出たことないし、試合内容も毎年違うって話だ」


 マクシムも首をかしげる。彼も出場経験がないので、詳しくは知らない。


「ただ、中隊長は一年目で出た時にほぼ一人で全チームをコテンパンにしたから二年目以降は出禁くらったって噂は聞いた」

「わー。やりかねない」


 アランは力なく笑った。もう笑うしかない。あの中隊長ならやりかねない。絶対に地獄絵図だったはずだ。

 そこへルクシアとシンディがクラウスからのお知らせを持ってやってきた。


「アラン、今年の内容がわかりましたよ」


 そう言って、大会要項をアランへ渡す。それを読んだアランの顔が青ざめていく。どう見ても一人でできる内容ではない。キャリルは心配そうにアランを見やる。


「中隊長、こんなの俺だけでどうにかなる内容じゃないですよ」

「何を言ってるんですか。イグナスもいるんですよ。余裕です」


 青ざめるアランにルクシアはドンと構えて言った。何が余裕なのかアランにはわからない。


「アラン、あなたはまだ精霊の力を知らないのです。イグナスほどの精霊がどれほど心強いか。しっかりと学びなさい」


 ふふんと自信たっぷりに微笑む中隊長に、アランは安心と恐怖を覚えた。


 その後一か月間、アランはルクシアに付きっきりで精霊との戦闘を叩き込まれた。

 毎日、闇の精霊王VS炎の上級精霊のバトルが繰り広げられ、学校が休みの日は子供たちが運動場の外からアランの応援した。遊んでくれるアランは子供たちに人気だ。


 キャリルは魔力の同調に注力し、火の魔法の精度を上げていった。訓練がお休みの時は裁縫が得意なマクシムと刺繡をしてお裁縫仲間になっていた。


 こうして仕上がったアランはたった一人で新人大会へ送り出された。



 つづく

お読みいただきありがとうございます!

アランの応援をよろしくお願いします!

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