ケリーと葉崎③
葉崎は壊れた扉から2〜3メートルほど後方に立ち、肉眼と狙撃銃のスコープを交互に使いながら外の様子をうかがっていた。
そして数分後――
ズガァァン!
激しい銃声が響いたかと思うと、かなり先の方で人間らしきものが倒れるのが見えた。
おそらくゾンビだろう。
ズガァァン!
僕が倒れた影を確認している間にも、葉崎は狙撃を続ける。
だが今度は、どこに倒れたのか分からなかった。
外したのか?
そう思いはしたが、僕は何も言わなかった。
こんな生死のかかった極限状態で、命中率100%などという神業は、熟練の軍人でもまず不可能だ。
だから僕は自分の安全と葉崎の安全を確保するため、できる限り他の入口の防備を固め、最悪の場合に備えて別の場所から脱出できるよう準備を進めた。
ズガァァン!
ズガァァン!
その間も銃声は何度も響いたが、それが聞こえているうちは葉崎も無事なのだろうと高をくくり、僕は彼の様子を見ることなく作業を続けた。
やがてしばらくして準備が一通り整うと、最悪の事態を想定しつつ、その対応が可能になったことを伝えるため、壊れた扉の出入口へ向かった。
すると葉崎は、近くの椅子に座り、くつろいだ様子で煙草をふかしていた。
「終わったぜ」
僕を見るなり、ただ一言そう言って、また煙を吐き出す。
「馬鹿な……」
その時、僕がそう呟いたのは、戦闘が終わるのが早すぎたからではない。
あまりにも綺麗すぎたのだ。
扉を破壊したゾンビの肉片と血液、そして扉の残骸以外、何も変わっていない。
つまり葉崎は、複数のゾンビがこの出入口へ向かっていたにもかかわらず、それらすべてを遥か遠方で処理していたことになる。
僕が準備をしている間に聞こえた銃声は13発。
僕は外へ出て、周囲の確認を始めた。
最初に倒れた人影はやはりゾンビで、全身に酷い噛み傷があり、生者でないことは明らかだった。
さらに、そのゾンビから見て左側の家屋の屋根。
そこにも、落ちる寸前の位置で人が倒れているのが見えた。おそらくそれもゾンビだろう。
ちょうどその位置は、倉庫の中にいた僕からは死角になっていた。
つまり二発目も、葉崎は外してはいなかったのだ。
まさかと思いながら、さらに周囲を調べる。
そして驚くべきことに、場所はばらばらながら、合計13体のゾンビの死体が見つかった。
しかもすべて、眉間を正確に撃ち抜かれている。
葉崎はあの極限状態で、一歩も外に出ることなく、ゾンビを完璧に仕留めていたのだ。
その事実に頼もしさと同時に、底知れない恐ろしさを覚えた。
もし、あの狙撃の腕を持つ人間が、僕に敵意を向けたとしたら。
きっとアイツの目で僕が捉えられている限り、死を免れることは出来ないだろう。
僕はこれから葉崎とどう付き合うべきかを考えた。
彼に従い、敵にならないように振る舞うのも一つの手だ。
だがそれでは自分の研究を進めることはできない。
ならば最初と同じく、あえて高圧的な態度で接し、対等な関係を維持するべきだろう。
少なくとも僕は彼の実力を知って恐れているが、葉崎にとって僕は、まだ得体の知れない存在のはずだ。
何を考えているのか分からない人間を、簡単に排除はしない筈だ。
そう判断した僕は、狂気じみた研究者を装いながら、あくまで対等を装って葉崎と接していくことにした。




