ケリーと葉崎①
「ウガウ(お前達がどこまで知っているのかは知らないが……まぁ、最初から話してやる)」
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僕がアイツと出会ったのは、ゾンビ共が日本中に溢れ返り始めた頃のことだった。
その時の僕は、神農製薬が保有する薬品や機材を保管している倉庫施設に身を潜めていた。
いかに僕といえど、無秩序に襲いかかってくるゾンビを相手に勝ち目はない。
だから僕は、あそこで籠城しながら、窮地を脱する好機が訪れるのを待ち続けていた。
幸いにもそこには、研究に必要な機材や薬品が揃っているだけでなく、発電機とそれなりの量のガソリン、さらには水や食料、毛布や衣類もあった。
僕一人が生き延びるには、十分すぎる環境が整っていた。
しばらくは悠々自適に過ごすことができた。
あらゆる出入口を完全に封鎖し、人どころか虫一匹でさえ入れないよう徹底した。
物資に限りはあるものの、それが尽きるまでは絶対に安全な牙城を築けていると思っていた。
――だから僕は、少し油断した。
あと一人くらいなら招き入れても問題はないだろう。
ゾンビ共の研究をするために、僕以外の労働力があっても困ることはないはずだ。
そんな、軽率な油断を。
ゾンビが日本に溢れかえってからというもの、僕の研究は完全に滞っていた。
資料やデータは本社のサーバに保管してあるから手元にはない。だが、それは別にいい。すべて僕が完璧に記憶している。
しかし、研究は実験を重ねなければ進展がない。
どれだけ頭の中でシミュレートしても、それは机上の空論に過ぎない。
僕は、目の前で闊歩している恐ろしくも興味深いゾンビ共を研究したくて堪らなかった。
ゾンビを研究することで、僕自身の至上命題に一歩近づける可能性があったからだ。
そう考えたからこそ、僕は早急に労働力を必要としていた。
それも、できるだけ屈強で従順な労働力を。
僕はそんな人材を求め、倉庫の窓から、日中は可能な限り外を眺め、生きた人間が近くを通らないか観察した。
ゾンビ共が溢れかえっているとはいえ、案外生存者はいるものだ。
子供を抱えた女、中高生くらいのガキ、太ったオヤジ。
何人も倉庫の前を通っていくのを見ていたが、僕が欲しいのはそんな足手まといではない。
僕を守り、僕の言うことを聞いてくれる人間が欲しかった。
だから僕は、ひたすら吟味した。
持ち前の観察眼で、倉庫の前を通る人間が自分にとって必要かどうかを。
そうして捕まえたのが、葉崎だった。
アイツはこの倉庫に来るなり、扉をガンガンと叩き、水と食料がないかと確認してきた。
もし分けてくれるなら、俺があんたを守ってやる……とも言っていた。
正直、この時点で怪しむべきだったのかもしれない。
僕はあの倉庫施設に籠って以来、一歩も外に出ていない。
窓からもゾンビ共から極力姿が見えないように隠れて外を窺っていた。
それにもかかわらず、アイツはこの倉庫の中に人がいると断定し、水や食料の有無を問い、守ってやろうかと訴えてきたのだ。
だが、どれだけ怪しかろうと、あの時の僕は屈強で従順な労働力が一刻も早く欲しかった。
実際、葉崎は遠目にも分かるほど筋骨隆々で、背には狙撃銃を背負っていた。
従順かどうかはともかく、万が一の時には頼りになるだろうと僕は判断した。
だから僕は、葉崎の呼びかけに二つ返事で応じ、すぐに倉庫の中へ招き入れる事にした。




