球場に戻った後
「そう言えば美桜さん。コイツ、どうするんですか?」
「あぁ。そうね」
葉崎達の姿が見えなくなり、球場の中に戻ろうとすると、うずくまって動かなくなっているケリーに指を刺して美桜にそう問いかける。
微動だにしないが、呼吸をする音は聴こえるから生きてはいるようだ。
もとい、死還人として活動はしているようだ。
「ケリー?聴こえる?聴こえているなら返事をしなさい。死んだフリをするなら本当に殺すわよ?」
真顔でそう言う美桜。
声のトーンも低く、その言葉が嘘では無いのが第三者である僕達にもハッキリ分かる。
当事者であるケリーであれば尚更だろう。
美桜の言葉が脅しでは無い事を理解したのか、ケリーはゆっくりと身体を起こして美桜に向き合う。
「……ガ?(……何故僕を生かした?)」
意外と言えば意外だったし、当然と言えば当然なのだが、ケリーは死還人になっても僕達と同じようにしっかりと意思を残しているようだった。
葉崎に裏切られた恨みからか、生きたいという強い執念からか。
どちらにしても、普通に意思の疎通が出来る以上会話はスムーズに行われるだろう。
「何故かしらね。あんたみたいな外道、殺しておくのが世の為なのは間違いないのだけどね」
「ウガ(言ってくれるね)」
「事実よ。……とりあえず、あんたの質問には答えるわ。あんたを生かしているのは葉崎達アスクレピオス社が何をしているのかを吐かせる為よ。今更アイツらを庇ったりはしないわよね?」
「ウガウ(僕を裏切ったアイツらがどうなろうと知った事じゃない。僕の知る限りの事を教えてやる。その代わり、僕の身の安全を保証しろ。僕に手を出すな。話が終われば僕を解放しろ。それが条件だ)」
「条件を出せる立場じゃないの分かってる?って言いたい所だけど、別に私に損があるわけじゃ無いから良いわ。他の人達があんたの事をどう思ってるかは知らないけど、まぁ大丈夫でしょう。私以外の誰かに殺されないよう精々口には気をつけなさい」
「ウーガ(年増め。足元をみやがって)」
「敗残兵に人権があるとは思わない事ね。それじゃとりあえず球場の中に戻るわよ。あんたは自分で歩きなさい。段差が無ければ普通に歩ける筈よ」
「ウガウガ(はいはい)」
まるで猛獣を手懐けるかのようにケリーを説得した美桜はそのまま球場の中へと戻っていき、それに続いて僕達も球場の中へ戻った。
☆★☆★☆
「おかえりなサイ。無事で良かったデス」
「えぇ。あなたもね。トリスタン」
球場に戻ると、グラウンドには僕達を出迎えるようにトリスタンが待っており、その傍らにはモルガーナ達3人が川の字になって寝かせられていた。
「……その子達の様子はどう?」
「精密な検査をしない事には……いや、精密な検査をしたとしても結果は分からないかも知れまセン。この子達に施された実験は常軌を逸していマスし、鈴君の血液が実際にどんな影響を及ぼしているかはあくまでも推測でしか無いので」
「そう」
「ただ、私の私見で言うのなら、この子達は限りなく人間に近い状態に戻ると思われマス。まだ意識は回復しマセンが、回復し次第彼女達とゆっくり話をしたいと思いマス」
「ありがとう。クズがこの子達にやった後始末を押し付けるようで悪いけど、よろしく頼むわね」
「任されマシタ!……それとミャオミャオ、ちょっと気になる事があるデスけどいいデスか?」
「何かしら?」
「ミャオミャオの後ろのソレ、もしかしてケリーデスか?」
「ボロ雑巾みたいに穢れてて死還人になってるけどクズ……もといケリーよ」
「ガ(お前マジでいつか殺す)」
「身柄を確保したんデスね。でもなんでゾンビになってるんデス?」
「葉崎に裏切られてて、心臓を撃たれて死に体だったのよ。そのまま見殺しにしても良かったんだけど、コイツから葉崎達の情報を聞いた方がよっぽどマシな使い方が出来るから死還人ウィルスを投与して延命させたの」
「そういう事デシたか。でも大丈夫なんデスか?そのほら、ゾンビになったって事は暴れたりして危害を加えられたり……」
「コイツはクズで馬鹿だけどアホじゃないわ。これだけの数の敵に囲まれて暴れようものなら自分がどうなるかはちゃんと理解出来てる」
美桜の言う通り、ここには僕や錬治を含め、久野達や水先達など並々ならぬ戦力が集まっている。如何に戦闘後で消耗しているとは言え、ただの死還人であるケリーに僕達が負ける事は万が一にもありえない。
それを見越して美桜はそう言っているし、ケリーもそれを理解している。
「ガガウ(僕の身の安全が保証されるなら僕から危害を加える気は毛頭無い。その辺は信じて貰いたいものだね)」
「何て言ってるんデス?」
「『僕の身の安全が保証されるなら僕から危害を加える気は毛頭無い。その辺は信じて貰いたいものだね』だってさ。偉そうに」
「へぇ〜……」
普通の人間であるトリスタンにはやっぱり死還人の言葉は理解出来ないらしい。一々通訳するのも面倒だろうし、ケリーにも声帯をつける事を後で美桜に言ってみよう。
「ま、そんな訳だからとりあえず安心して。コイツが私達に危害を加える事は無いから。だから存分に聞かせて貰いましょう。アイツらについてね」
「ガ(フン。好きなだけ話してやるさ)」
渋々と言った様子ではあるが、葉崎達についての情報がケリーの口から語られ始めた。




