李下に冠を正さず
1.李下に冠を正さず
玲音達は司法修習も無事に終え家に帰ってきた。
2人はリビングのソファに座って話している。
「俺はやっぱり検事になりたかったな~」
「まだ言っているのか?」
「廉だって検事に興味が有ったんだろ?」
「俺は玲音の御守りをしないなら、他の道に進むから検事やら弁護士とかには興味は無いよ。進む道が違うから……」
「廉は、何になりたいのさ~」
「言ってどうなる?堂々巡りだろ?玲音の秘書をすると決めたんだからいいじゃないか?
もし、俺がしたいことを玲音に言ったら俺は俺の好きな様にさせてもらえるのか?
玲音の傍で支えにならなくて他の道を進んでもいいのか?玲音がそれでいいと言うなら、今すぐにでも俺は俺のやりたい様にするぞ?」
「それは………」と言って玲音は下向き押し黙る。
「『古楽府・君子行』の【瓜田不納履、李下不正冠】って言葉を知ってるか?
誤解を招くような行動はすべきではないという例えだ。
李 の木の下で曲がった冠をかぶり直すために手を上げると、あたかもすももを盗ろうとしているような格好に見えて誤解を与える。瓜畑で脱げた履を探していると瓜を盗もうとしていると疑われる事になりかねないという諺だ。
玲音は俺に傍に居て欲しいんだろ?なら、そんな言い方はするな。
何になりたいかと言えば一緒に居ることを諦めてくれる様に聞こえるぞ?」と廉は玲音の肩を抱き言う。
「廉は、俺の傍に居ることは………」と玲音は不安で最後の方には声になってない。
「嫌ならとっくに傍から離れてるよ!
でも俺は、お前の奴隷ではないぞ?俺にもちゃんと意思はあるし、自由もある。
玲音が自分のやりたい事を我満してまで、おじさんの後を継ぐのだから俺は、お前の為に支えになると言っただろ?
玲音、お前が俺の事を心配してくれて法定血族関係に拘るから、俺はちゃんとおじさんの養子にもなったじゃないか?いったい何が不満なんだ?
でももし、お前が自分勝手に検事になりたいと言って検事なるなら、俺は止めはしないが 俺も玲音の傍から離れて、俺の好きな道を行く。
自分のやりたい事はしたい、でも、俺を傍に置きたいとか、全てお前の思う通りには世の中いかないぞ?」
「俺は……。廉が傍に居てくれて、お互いが支えになるならそれが一番いいよ」
「どちらかと言うと【お互い】でなく、【玲音の支え】だかな」と廉は笑う。
「!!!俺だって【廉の支え】にくらいなれるよ!!」
「そうだな?お前の優しさは、誰にも負け無いな~。
"Kind hearts are more than coronets."
(やさしい心は宝冠にまさる。)
しかし、お前は、暴走するのがたまに傷だな?」
玲音の頭を叩きながら廉は、席をたつ。
「あっそうだ…。前、言っていたNYに1年の留学の件、おじさんに頼んでもいいか?」
廉は、リビングの扉まで進んで玲音の方に振り返りながら言う。
「いいけど………。俺も付いて行くぞ?」
「お好きにどうぞ」と笑う。
廉がリビングから出ようとしたとき、ふらふらしながら千景が入ってきた。
「お帰り千景?どうした?ふらふらしているぞ?」
「ん?ちょっと頭痛が……」と言って廉に倒れかかる。
「おい千景!大丈夫か?玲音。車を呼んでくれ、凄い熱だ、病院に連れて行く」
「わかった」といい、タクシーを呼び、千景の実家の病院に連絡する。
病室で千景は点滴を受け寝ている。
そこに千景の父親がやって来た。
「すまなかったね。連れて来てくれてありがとう。風邪をこじらせて、肺炎になりかけていたようだ。用心で2、3日入院すれば治るよ」
「そうですか、良かった。千景が体調崩すの初めてなんで………。びっくりしました」
「千景は、初等科の頃は病弱だったんだけど廉君は覚えてないか………」
「え?」
「よく、一緒に遊んでて自分の体調をわきまえず今回の様に突然倒れて、廉君がこの病院まで千景おぶって連れて来てくれたことが何度か有ったんだが……。
まぁ無理に思い出すような事でも無いがな。
ところで廉君は、ここ最近定期診断来てないよね?今日はちゃんと受けて帰ってよ?」
廉は苦笑する。
廉が診察に強制連行されている間、玲音は千景の様子を見ていた。
(そう言えば昔、千景が俺の家来た時も、いきなり風疹発症して強制的に連れ戻されて行ったりしたな……。あの時、俺も移ってこの病院の同じ部屋で2人隔離されたよな?)
玲音はふと昔の事を思い出す。
すると、千景が目を覚ました。
「パンダ。何ニヤニヤしてるんだ?気持ち悪い」
「酷いな、病院に連れて来てやったのに!」
「あぁ、面倒かけてすまなかったな」
「"Physician, heal thyself." (医師よ、自らを癒せ)って千景の為にあるんだな~」
「まぁ確かに不養生だったな………。気を付けては居たんだがなぁ………。それより廉は?」
「ん?最近診察サボってたから連れて行かれた」
「なるほどな……。で、パンダは何を人の寝顔見て笑ってたんだ?」
「いやぁ~。千景が昔、病弱だったって聞いて、そう言えば俺の家で風疹発症して俺にも移ってここ病室で2人隔離されたなぁと」
「あー、そう言えばそんな事が有ったな……。不思議とその時は廉には発症しなかったんだよな……。」
「そう、俺と同じ様に一緒に居たのにさ………。何故か平気な顔してさ」
「俺達が治って入れ換え位に発症したんだったよな?」
「廉は、覚えて無い見たいだから言ってはダメだよ?また考え込むから」
「あぁ。分かってるよ」
何時間かして廉は、げっそりして病室にきた。
「お帰り」と千景が言う。
「もう、ちょっと検診に来なかったら体中を調べられたよ」
「さぼるお前が悪いんだよ!」
「しかし、千景が倒れるのは珍しいな?
"Physician, heal thyself."だな?」
「パンダと同じ事言うなよ!」
「気分はどうなんだ?」
「あぁ、お陰様で熱も引いた様だし大丈夫だ。もう、ここには居なくてもいいんだが……」
「まぁ、たまには実家でゆっくりしろよ」
「あぁそうだな」
廉は、病室を見渡しながら千景に聞く。
「そう言えば、玲音は?」
千景は、ため息をつきながら答える。
「そう言えば、どっかに行ったな?
また看護士といちゃついてるんじゃないか?廉からも言ってくれよ、この病院では辞めてくれと………」
廉は、笑いなから玲音の弁明をしてやる。
「玲音はナンパや口説いて居るつもりは無いんだがな………。まぁ相手をその気にさせるのは悪い癖だよな?一応は言ってはおくけどさ……… 。
玲音は何も言わず笑って居ても口説き落としているようなもんだからな? 」
千景は、天井をみながらいう。
「ある意味、あの笑顔は魔性だな……」
廉は笑いながら
「そうなると【パンダ】と言うより【大天使ルシフェル】だな?
心癒す天使にも手に負えない悪魔にもなる」
千景は廉を見ながら言う。
「堕天使かぁ?その創造主をも魅了する大天使ルシフェルが創造主に反乱するのは何が原因だ?玲音が堕天するとすれば、差詰め一番の原因は廉お前だな?」
「創造主?原因?」
「ルシフェルは美貌と叡智で神にも愛されていたんだろ?それがある日、神に逆らって大天使ミカエル達と戦い破れて堕天し、サタンになったと」
「創造主……神……」
「ん?おい、どうした?廉!」
「ん?ちょっとサタンになった気持ちに………」
「何言ってるんだ?びっくりさすなよ!検査のし過ぎておかしくなったか?」
「そうだな?はっはは」と廉は笑う。
(何となく創造主を知っている様な気がする。そう何か光に包まれた……。それは神と呼ばれる……。流石になぁ~。それは勘違いだよな……。検査のダメージかぁ?)
ふとあの黒いスーツ姿の人物が脳裏に浮かぶ。
その頃、玲音は院長室で五十嵐と話しをしていた。
「廉君の検査結果なんだけど…」
「どこか問題が有るの?」
「脳波の乱れが増えてるのが気になるんだけど、最近発作とかは出てる?」
「時々考え込む節は有るけど昔の様に意識が飛んだり、倒れるのは無いよ?少し頭痛は有るようなんだけど言わないから………。
一応は、見張っては居るんだけどね」と心配そうに言う。
「そうかい、まぁ他に問題ないから、また注意して見ててあげて、千景にも言っておくから………。後、ちゃんと検診来るようにもね?」
「廉、NYに留学したがっているんだけど無理?」
「倒れたりしなければ問題無いがNYの病院に定期的に検診行ってくれればいいんだが………」
「提携先の病院を教えてくれれば俺連れて行くよ」
「なら、正式に決まったらまた連れて来てくれ」
「うん、わかったよ」
2.At a difficult age.
千景の病室に五十嵐がやってきた。
「具合はどうだ? 」
「もう、大丈夫だよ。明日にでも退院するよ」
「そんなに急いで退院しなくてもいい。しっかり養生しろ。
ところで、そろそろ家に帰ってこないか?何時までも時宗の所にやっかいになる必要は無いだろ?
それに大学病院に勤めても家に勤めても一緒だろ?ここにも大学病院と同じ設備はあるし、患者数はそれ以上だ。
大学教授もここに定期的に来てくれているから条件は同じだろ?」
「もう何度、同じ話を繰り返す。俺は、臨床医では無く研究医になりたいんだ。
ここの病院では病理研究はしてないだろ?」
「なぜ臨床医を嫌う?臨床医しながら研究しても良いだろ?」
「ここに帰れば臨床の仕事に流されて研究医の仕事出来なくなるのが見えて居るからだよ!」
「なら、そのうち研究施設を作ってやるから」
「病院経営はそんなに簡単じゃ無いだろ?大きな病院でも次々潰れているこのご時世に……。うちの病院も、これだけの施設だって玲音のおじさんの援助や出資のお陰だろ?一般の総合病院に研究施設なんか無理に決まってる、見え透いた嘘つくなよ!」
そこに時宗と藤堂が見舞いにやって来た。
「取込中だったかな?と時宗は、ばつが悪そうに言う」
「いや、構わんよ。見苦しい所みせてすまない。時宗、帰りにちょっと廉君の事で話がある。いいか?」
「何か良くないのか?」
「いや、今日の検査結果だ。玲音君には説明したんだが、お前にもと思ってな」
「あぁ、わかった。千景君は大丈夫か?」
「すいません。心配かけて、大丈夫です」と千景は言う。
「千景なら寝てれば治るよ」と五十嵐は千景を見ながら言う。
「なら藤堂君、千景君を見てやってくれ、私は和也と話ししてくる」
「わかりました」と藤堂は2人が病室を出ていくのを見送る。
残った藤堂と千景が病室で話ししている。
「どうして五十嵐先生に突っかかるの?千景君らしくない」
「親父は何時も自分の思う通りに俺達を使うから………。病院をここまで大きくして、継がせたいのも分からなくないけど………。俺にも色々な夢見てもいいはずなのに、小さい頃から医者以外の選択肢認めようとしなかった。
それに、玲音が日本に帰って遊び相手におじさんから頼まれると俺達は否応なしに玲音の家に連れて行かれた。俺に相談して頼むなら未だしも、学校から帰るなり連れて行かれてた。子供にだって約束があるのに。子供の意思を無視して………。医者としては尊敬するが父親としては最低な人だよ」
「医者以外、何に成りたかったの?」
「う~ん、考えても無駄だから考えた事は無かったな………。でも考古学には憧れて居たよ。まぁ運動神経あまり良くないし体力も無いから向いてないのは分かって居たけどね」
「廉君や玲音様もなりたい職業にはなれて無いよね?多分なりたい職業になれる人は極僅だよ?
玲音様ならその気になれば宇宙飛行士に選ばれる事も有名な学者になることも可能でしょう。
でも才能あっても、いくら情熱が有っても無理な事も有るんですよ……。五十嵐さんは色々な夢見させて現実に向き合う時の絶望感を味合わせたくなかったのでは無いですかね?私が知る限り五十嵐先生程の名医は居ませんよ?その名医の下で働いて研究に活かす方が日本の医療の発展になるのでは無いですか?
まぁ今すぐで無くて、色んな病院で働いていいとこ、悪い所体験してからこの病院変えて見てはどうですか?
研究施設を作りたいならおじさんが統轄長に協力を頼んだ様に千景君が玲音様に協力を頼んでみては?
玲音様ならよろこんで力になってくれると思いますよ?
何も無いところから始めるよりあるものを上手く使った方が、かなり楽ですよ?
大概の人は何も無い所から初めて途中で終わってしまいますが、千景は既に余りあるものを受け継ぐのですから可能性はかなり広がりますよ?」
「そうですね。でも当分の間は反抗してやりますが、折角おじさん達の援助受けてここまで大きな病院になったのだから放って置くわけにも、変な奴に潰される訳には行きませんからね」
「千景君の歳で反抗期とは遅すぎですよ?」
和也と時宗が話ししている。
「検査の結果は少し脳波の乱れが気になる程度でこれと言ってはない。
ただ通院の間隔か延びているから、データがな……。どの程度で起こっているのか?もう少し頻繁に来てくれると症例として解析できるが、今の状態だと判断つきくい状態だ。
後、NYに留学を望んでいるらしいが、環境が変わるから小まめに診察受けて欲しい」
「NY行かせて良いものか?」
「まぁ好きな事させるのがストレスにならないからいいと思うぞ」
「それ言うなら、千景君もそうじゃ無いのか?和也はまだ隠居する歳でも無いんだからこの病院で無く他で修行させるのもいいと思うが……」
「千景は、あまのじゃくだからな、あのように言った方がいいのさ。もう少し千景をお願いしていいか?」
「それは構わないし、色々と助けられて居るから居てくれると助かるんだが……。和也はいいのか?」
「なんやかんやで顔を見せているからな。それで構わないよ。仕事で忙しいから家に居てもなかなか会わないからな」
「お互い素直になればいいものを……困った親子だな?」
「時宗、お前には言われたく無いよ!」
「俺は、ちゃんと素直に言っているぞ?」
「そうだな?玲音君には頭上がらないし、廉君には助けられてばかりだもんな?どっちが親かわからないよな?」
「…………そんな事は………」
完全に否定できない時宗であった。




