A stuffed panda
1.A stuffed panda.
廉達が、久々に家に帰って見ると千景が、ふて腐れていた。
「やっと、帰って来たと思ったら、また半年も居ないのかよ?なんかこの広い家に一人なんて、寂しさが倍増するんだが?」
千景も、バイト先と研修中で家にはあまり居ないのだが、廉や玲音が居ないのは、寂しいらしく。廉が横浜に居る時は時々電話をかけていた。
「俺なんか小さい頃からこの環境だぞ!」
「パンダ君、寂しかっんだね」と千景は玲音の頭を軽く叩く。
「!!千景のアホ!子供扱いは辞めろよ!」
玲音は手を払いながらすっと避けた。
「でも、ドイツか~ぁいいな。俺も、休み取って一緒について行くかな?」
「そうなると悠貴も誘わないと、また拗ねるぞ?」
廉は玲音に向かって言う。
「悠貴は今回伊集院教授のお供だから、はなから行く予定だよ?」
それを聞いた千景は廉の両肩をつかみ向き合いながら言う。
「えっ?何?俺だけ外されてたの?酷いな……。俺、仲間外れか?廉!お前はだけは、そんな事する奴じゃないと信じて居たのになぁ~」
「大袈裟だろ?それに千景、遊びに行くわけで無いんだからさぁ……。それにお前は、誰より忙しいじゃないか?」
廉は千景に苦笑しながらいった。
そこに、藤堂と時宗が帰って来た。
「何か廉君達が居ると居ないでは違いますね」
「やっぱり家族がいるのはいいな」と時宗はかなりご機嫌が良い。
「親父がそれ言うか?」と玲音が呟く。
その言葉を聞き風向きが悪いと瞬時に、時宗は感じて「私は着替えて来るよ」と逃げる。
藤堂はネクタイ緩めながら、
「で、何しているんですか?」と聞く。
「千景が拗ねてるんだ。ドイツに行けなくて」と玲音が答える。
「そうじゃ無いだろ?行こうと思えば行けるよ!お前らが俺だけ誘ってくれないからだろ?」
千景は玲音に、反論する。
「では、同行したらどうですか?帰りの飛行機のチケットは必要ですが行きは、今回はチャーターしますから同乗できますよ?」と藤堂は提案する。
「ほんとに?なら行こうかな?明日バイト先に言って、休み取るわ」
「帰り一緒でよければチケット手配しますよ?どうせ拓哉のも一緒に手配しますから」
「お願いします。ドイツかぁ~。何が美味しいかな?。パンダ!もう誘拐されるなよ?」
千景は嬉しそうにはしゃいだ。
「俺は、誘拐なんか、されてないだろうが!!」
「千景こそ、変な女連れてくるなよ!!」
玲音と千景はいつものようにふざけあって居たが、廉はそんな2人をよそに
「悪いが俺、寝るわ~疲れた」と言って自分の部屋に行った。
「どうされたんですか?」
いつもと違う様子に藤堂は玲音達に聞いた。
玲音は、廉の部屋の方向を見ながら、少し怒った口調で言う。
「廉、結局海洋開発部の事務仕事を殆ど一人でやっていたんだ。
佐藤ってやつ、廉が仮設事務所に行っている間も仕事貯め続けて、サボってた。
なのに廉、言うだけ無駄だから、そんな時間使う位ならさっさと処理していく方が早いと、何も言わず仕事してたんだ。
周りも手一杯で薄々は分かって居たんだろうけど忙しさにかまけて見てみぬふりだし。あのまま、あそこに居続けたら廉、倒れたかもね」
「加藤さんは何も言わないんですか?」
「あそこまで仕事してないとは思ってなかったみたいだよ?部下も報告あげて無かったみたいだし、だからさぁ、今日1日中、廉の御機嫌悪くて、大変だったんだから~」
「ただ単にパンダが廉に構って貰えなかっただけだろ?」
「…………」
「それは、そうと玲音様」
「ん?なに?なんか嫌な予感………」
「廉君と一緒に一時帰国して司法試験を受けられるんですよね?」
「ん?まぁ、その予定だけど………。うん~受かるかな?」
「願書の用意だけはしておいてくださいよ?ドイツからでは出来ませんよ?」
「わかったけど………。ねぇ先輩。何?重点的に勉強すればいいのかなぁ?」
「えっ………。もしかして、全然対策してないんですか?」
玲音の言葉を聞き藤堂は驚く。
「時期が来たら廉と一緒にしようかなぁ~?とは思って居たけどさ。廉、密かにしてるんだよね?
俺さぁ、六法全書を見てると必ず睡魔に襲われるんだよねぇ………」
玲音は頭かきながら苦笑いしながら言う。
「パンダ、諦めろ!受験料と時間の無駄だ」
「!!!!」
「残念ながら多分、このままでは受かりませんね。ご愁傷様」
「えっ?藤堂先輩まで!!見捨てないでよ~」
「"An uncut gem does not sparkle."
玲音様にピッタリな諺ですね」
「磨いていない宝石は輝かない?」
「石ころ磨いても、石ころだぜ?パンダ!!」
「そう言う千景こそ!国家試験落ちろよ!」
廉は、自分の部屋で、こないだ見た遺跡の中の事を思い出していた。
昨日まで忙しくて考える暇が無かった。正しくは考えない様にしていた。
初めて入るはずなのに、何度も入った事の有るような違和感。
発掘されてない部分も記憶の断片が脳裏を横切る。この感覚は何なんだろう?
島の火山、結局登りそこねてしまったが、でも見たことが有るような感覚。
火山は玲音の話を聞いて登った気になったのかと思っていた。
でも、今回の事で違う様な気がしていた。このもやもや感はなんなんだ!
デンドゥール神殿の展示場所で起こった黒いスーツの人物と何か関係があると思っているが繋がらない。
今でもはっきり思い出せる。あの人物の言葉。
『やぁ、久しぶりだね。その様子だと、まだ僕の事を思い出せて無いようだね?
このままでいいのかい?
何度も言っているはずだよ?
時は刻一刻と流れていると。
多分これが君に警告できる最後のチャンスかな?
この神殿のお陰で姿を現せたけど、その代わり僕の持ち時間は無くなってしまった。
いいのかい?最後に問うよ!
"君は誰?君は何の為にここに居る?"』
この言葉通り昔から事有る毎に頭の中に響いていた『思い出せ、お前の使命を、時は流れているぞ』と言う言葉も聞こえなくなった。
しかし、それはタイムリミットが近づいていると言う事だと思った。
俺は誰?橘廉?
何故に玲音が俺の記憶に現れ交差する?
あの人物は誰?
俺はあの人物をよく知っている?
しかし、何故にあの島が??
あの遺跡が?
どういう繋がりだ?
いくら調べても分からない。
でも、時間が残り少ないと危機感はひしひしと感じていた。
「おい!廉!廉!」
「ん?玲音?何でお前は勝手に俺の部屋に入り込むんだ?ノック位しろよ?」
気が付くと玲音が部屋に入り込んで廉俺心配そうに覗き込んでいた。
「何度も、ノックしたし、廉を呼んだけど反応しなかったんだろ?体調おかしいのか?俺が入って来ても気が付きもしなかったってことは、また意識飛んだのか?
発作が起きたのか?顔色も良くないぞ。病院いくか?」
「大丈夫だよ!考え事していただけだ。意識は飛んではしない。頭痛もしてない。大丈夫だ。それより、何か用か?」
玲音は、心配そうに廉の顔をみて廉の額に手をあて熱を計る。
「熱は無いみたいだね。本当に発作起きた訳で無いんだね?」
「あぁ、大丈夫だ。体調悪ければちゃんと玲音に言うからそれで良いだろ?」
「本当に、ちゃんと言えよ!」
「あぁ、それで何の用だ?」
「……………。千景とさぁ。藤堂先輩が…………」
「ん?どうした?」
廉は玲音を見上げながら聞く。
「このままでは司法試験受からないって………」
玲音は少し恥ずかしそうに言った。
「………………玲音。誰しも楽して取れるなら皆取って居るだろ?」と溜め息をつきながら言う。
「それは、分かって居るけど……。廉、どんな勉強しているのかなと………」
「玲音、俺、目眩がする」
「えっ?」
「お前の愚かさ加減に」
「………………」
「こないだ学内模試あったよな?
あの成績は?」
「ん?持ってくる~」
玲音は模試の結果と勉強道具類一式持って来た。
「玲音、ここで勉強する気なのか?」
「うん、一人より、2人の方がね~」
と言いながら廉の前に椅子を移動し、テーブルをはさんで座る。
「判定Bか……。論文式の選択科目は何にするんだ?」
「廉は?」
「なんで俺なんだよ?」
「一緒にした方が勉強しやすいじゃん?」
「いや、勉強するのは玲音、お前自身だから俺は関係ないだろう?」
「まぁ、廉に合わせるからさ~」
「俺は 国際関係法の公法系だが?」
「なら俺も、それで」
「判定Bなのは選択科目決めて無かったからじゃ無いのか?」
「そこだけ最低ラインぎりぎりじゃないか
そこを重点的にしろよ!」
「廉の模試の結果見せて~。
流石、廉!ちゃんとA判定じゃん。
これで心起きなく俺に教えられるね~」
「こう言うのは、教えるも教え無いも、自分でコツコツしないとダメだろ?」
「でも、さぁ眠くなるじゃん」
「……………いいか?今日はここで寝るなよ?自分のベッドで寝れよ?」
玲音は、廉の話は上の空で喋る。
「藤堂先輩がドイツ行く前に出願書類の準備だけしておけってさ。
ねね、廉、もし、司法試験に受かって、弁護士、裁判官、検察官好きな職に就けるとしたらどれ選ぶ?」
「う~ん、その3つの中では検察官かな?」
「何で?」
「悪い奴の弁護したくないし、人を裁く事もしたくない」
「ふーん、同じか~ぁ。廉は裁判官選ぶかと思ったけどなぁ」
「まぁ好きな職に就くなら、司法試験は受けないよ………」
「何になりたいの?」
玲音は目を輝かせながら聞く。
「いいから黙って勉強しろよ!合格したいんだろ?」
次の日朝、食卓で廉は、玲音に対し一言も喋らないでいた。
「廉、ごめん。そんなに怒んなくてもいいじゃんか?」
そこへ時宗が入ってきた。
「朝から、何?騒いでいるんだ?」
「おはようございます。おじさん」
「おはよう。親父」
「おはよう。で、喧嘩の理由は?」と席に着きながら聞く。
「……………勉強してて眠くなって……」と玲音は、ぼそぼそと喋る。
「ん?」
廉は、溜め息をつきながら説明する。
「玲音、昨夜俺の部屋に来て、勉強するのはいいんですが、そのまま眠いと言って、また俺のベッド占領して寝たんですよ。仕方ないから玲音の部屋で寝ようと思っても、ベッドに【玲音Jr.】居座っているし、捌けているしで、寝にくかったんです」
時宗は呆れながら
「廉が玲音を叩き起こして追い出せばいいだろ?甘やかす事はないよ」
「次回からはそうします」
「!!!酷い!!」と玲音は立ち上がる。
「玲音!どっちがひどいのかよく考えなさい」と時宗は珈琲を飲みながら冷静にいう。
「むうぅ」
「ドイツ行く準備は、できたのかい?」
「まぁ半年なんで……。玲音?お前、もしかして……」と廉は喋りながら自分の考えに不安を宿す。
「ん?何?」と玲音は不思議そうな顔をする。
「あり得ないと思うが……」と廉は、言葉を詰まらせる。
「何?」
「【玲音Jr.】連れて……」
「当たり前じゃん!【玲音Jr.】を連れて行かないなんてあり得ないよ?」
「………………………」
時宗も廉も固まった。
「かわいそうじゃんか?半年もお留守って」
「【玲音Jr.】はぬいぐるみだぞ?感情はないよな?」と廉は言う。
「いい歳なんだから、もうぬいぐるみは卒業したらどうだ?なんでそんなに、あのぬいぐるみがお気に入りなんだ??」
時宗も呆れながら言う。
「可愛いからに決まってるじゃん。それに傍に置いて置くと安らぐし、愚痴聞いてくれるし~」
「もしかして……玲音。お前にとって【玲音Jr.】と俺の存在って同じ?」
「廉、何にバカな事を言っているの?同じな訳無いじゃん!」
「そうか、ならよかった」
「【玲音Jr.】は一緒に寝ても怒らないし~、文句も言わないよ?」
「……………………」
「廉?何怒っているのさ?」
「玲音、【玲音Jr.】はドイツには持って行けないよ?いいかい?」
「なんでだよ?親父!」
「もういい年なんだ。少しは精神的にも自立をしなさい。それが嫌ならここでぬいぐるみと一緒に留守番してなさい。いいね」と言って時宗は朝食を済まし立ち上がり時宗は部屋に戻っていった。
「おはようございます」
「おはよう」と入れ替わるように藤堂と千景がやってきた。
「ん?どうされたんですか?」
微妙な雰囲気に藤堂が気付いて聞く。
「おじさんにドイツに【玲音Jr.】持って行くなら留守番だと言われて拗ねてるんですよ?」と廉は、2人に説明する。
「あのでかいパンダのぬいぐるみを持って行く気だったんですか?」と藤堂も呆れる。
「いいじゃんか?別に………。かわいそうじゃんか?こんな広い家に半年も放って置かれるなんて………」と言いながら玲音は、拗ねている。
「……………」
千景は溜め息をつきながら玲音の方に向き
「パンダ!仕方ないから俺の部屋に預ってやるよ。
別に、餌やったりしなくていいんだから。人が居ればいいんだろ?俺の部屋に置いて置けば?」と言った。
玲音は、明らかに表情が一変し喜びながら「雑に扱うなよ?」と言った。
「あぁ、分かってるよ。パンダ!お前、情が入りすぎ!絶対に、動物何か飼うなよ!周りが迷惑する」と言って千景は朝ご飯たべる。
「藤堂先輩、俺も休み取れたんで、ホテルと帰りのチケットお願い出来ますか?」と千景は話題を変える。
「私達と同じスケジュールでいいですか?
それとも、もう少しゆっくりされます?」
「いや、そんなに休み取れないから同じでお願いします」
「わかりました」
「千景ありがとう」と言って玲音は席を立つ。
藤堂は玲音が部屋に戻っていく姿をみながら「なんで、あんなに気にいったんですかね?」
「小さい頃におばさんに買って貰った、かなりお気に入りだったパンダのぬいぐるみに似てるのでは無いですか?
小さい頃、いつも傍に置いていて余りに汚くなりすぎて玲音の不在時に新人の家政婦が勝手に捨られたパンダのぬいぐるみに、Jr.程は大きくは無かったけど子供の背丈なら比率的にも合ってるんじゃないかな?」と廉は説明する。
「成る程な…。しかし、廉、パンダがよくそんな事話したな?」
「ん?」廉は意表をつかれた。
「パンダはそんな事は、なかなか話さないだろ?特に自分のトラウマは………」
「まぁ、そうだけど。玲音の部屋で小さい頃の写真見て思っただけだよ」
廉は咄嗟に嘘をついたが、何でそう思ったのか?樹里亜から送られた時、あのぬいぐるみ見て凄く懐かしい感じがした。玲音が欲しがるのもすぐにわかった。
何故?俺に幼少期の記憶は無い…でも、玲音の幼少期の記憶は感じる。細かい事が分かる訳ではない。あぁ、こう感じて居るんだろうなとか、こう反応するなって。
「おい、廉!廉?」と千景は廉を呼ぶ。
「ん?どうした?」はっと廉は我に返る
「どうした?じゃない!急に黙って反応しなくなるから。お前、発作が起きているじゃ無いだろうな?」
「考え事していただけだよ。大袈裟だな?辞めてくれよ!また、病人扱いは!」
藤堂が何処かから帰ってきた。千景とアイコタクトしながら言う。
「予約取れました。廉君、今日午前中私と一緒に病院に行きましょう。ちょうど私も診察日だったので、NY行った時の件も有りますし、ドイツ行く前に診察受けておいた方がいいですから」
「えっ?大丈夫ですよ?本当に考え事してただけだよ」と廉は、焦りながら言う。
「廉、大丈夫なら別に問題無いだろ?検査引っ掛かる事も無いんだし、お前、忙しさにかまけて、定期診断受けてなかったろ?
親父からクレーム来るから、ちゃんと行けよ!行かないで倒れたりしたら俺が親父から怒られるんだからな!!医師失格だって!まだ医師免許持ってないってのに……。
早く病院行く支度しろよ?今日は大学に行くから行く前に送り届けてやるから。
藤堂先輩、支度できたら教えて下さい。俺は、部屋に居ますから」と言って千景は席を立つ。
廉はまた、大きく溜め息をつく。
「病院一人で行くのは憂鬱ですよね。だから、一緒に付き合って下さい」
「今日はリハビリの方もいくんですか?」
「えぇ、早く治さないと色んなところに迷惑かけますから。人間の筋肉って使わないとすぐ落ちゃうんですね…。でも、筋肉はなかなかつかない、困ったもんですよね」と藤堂は笑う。
「なら診察済んだら先輩のリハビリに付き合いますよ」と廉は、観念して言う。
「ありがとうございます」
病院に向かう千景の車の中で
「パンダ!なんでお前まで病院に行くんだ?」
「藤堂先輩の付き添い」
「玲音、俺が居るから……」
「廉は、今日1日体の隅々まで調べて貰え!!こないだから、ずっと変じゃないか!」
「変って………。玲音!誤解招くような事言うなよ!」
「まぁ、さっさと行きましょう」
藤堂は苦笑しながら言う。




