人間到る処青山あり
1.人間到る処青山あり
秘書室は、業務が山積みで仕事が上手く回ってなかった。
次回定例会の場所と日時変更を該当部門への連絡通知、その為の会場の確保及び準備、通常業務の各部所からの報告書回収、申請書の仕訳。承認書の仕訳、統轄長のスケジュール管理、報告書の翻訳。
先日の会議で決まった来年度新入社員の指名の集計、開示等々。
藤堂と廉、玲音は当分の間、秘書室の業務から外れるため、尚更だった。
柊木から藤堂の携帯に悲鳴の連絡があった。
「藤堂室長、無理です。仕事回りません。
どうにかしてください!俺では無理です。どうか助けて下さい」
「柊木さん?貴方は今、室長代行ですよね?」
「その肩書きは飾りではありませんよ?
肩書きに合う仕事をちゃんとしてください」
「私に頼ってばかりでは困ります。私は、私の仕事があるのですから」
「そんなこと言わずに、なんとかお願いですから助けて下さいよ。
廉様も玲音様も居ないんですよ?」
「何時も言ってますが、彼らバイトですよ?宛にするのは根本から間違っていますよ!その考えも改めて下さい」
「でも、このままでは、本当に定例会に、間に合いません。
どうやっても無理です。どうか、助けて下さい!お願いします!この通りです」と電話の向こうで見えないのに頭を下げて居るみたいだ。
藤堂は大きな溜め息をつく。
「統轄長の所に行って今の現状を説明してください」
「え?怒られます。勘弁して下さいよ」
「最後まで、話をちゃんと聞いて下さい」
「それで打開案として、分室の山崎氏及びその部下5名を助っ人として要請してください」
「5名も居れば、幾らなんでも、仕事は、はけるでしょ?」
「私が、言って許可が出ますかね?」
「そんなの私にはわかりませんよ!
頼み方次第では?」
「室長、早く帰って来てくださいよ?」
「では、頑張って下さい」と言って切る。
「先輩、厳しいですね?」と傍で聞いていた廉が言う。
「甘やかしても育ちませんよ。ちょっと電話しますね」
「統轄長をお願いします。お忙しい所すみません藤堂です。
柊木から秘書室の業務が回らないとの泣き言が有りました。分室の5名を助っ人の要請に来ると思いますのでどうか許可してやって下さい。よろしくお願いいたします」と言って携帯を切る。それを聴いた玲音が
「ちゃんとフォローはするんだね」
「出来て無いと幾ら部所を離れていると言っても私の裁量を疑われますからね。
人材リスト集まりました?」
「全グループの事務局のでしょ?」
「まだ、半分だよ……」
「出来るだけ早くお願いいたします」
「先輩の生徒会執行部の時の他のメンバーは何処にいるの?」
「会計と書記ですか?」
「うん」
「会計は拓哉の下に居ますよ?田辺 薫さん、覚えて無いですか?島で会ってると思いますよ?
書記は 周藤 秀一、彼は何処に配置になったのかな?ジャーナリスト志望でしたからね」
玲音はパソコンから検索をかける。
「周藤秀一と…テレビ局に居るね。報道部みたいだよ」
「そうですか」
「齋藤先輩ってあの若さで、あのポストって異例ですよね?何したんですか?」と廉が興味津々聞く。
「何したか?そうですね。色々、拓哉は仕出かしていましたね。
今も昔も発想が奇想天外ですからね。
拓哉は元々は建築士希望だったんですよ?なのに何血迷ったか都市交通の橋の設計のデザインコンペで優勝して、注目集めたし、バイト先の建築事務所に建設予定の病院の建設費の削減案を勝手に出してみたり。
本社ビルの設計案なんかのコンペにも参加して居ますよ?
ここのロビーのデザイン少し変わっているでしょ?統轄長が気に入ってロビーだけは取り入れたんですよ。
学生時代思いつくまま色々してましたね。
だから、かなり注目されたんですよ」
「橋かぁ、どこの橋なんですか?デザインした橋を見てみたいな」と廉は興味を示す。
「あぁ。何処にもありませんよ?建設技術が追いつて無くて強度が出せなかったみたいです。計算上は出来るんですけどね施工法がなかった。
しかも、拓哉は出来ない事は分かってて応募したんですよ?」
「なんで?作れないと分かってて応募したの?」
「デザインコンペだから斬新な方が受かると理論上は施工出来るから問題ないって」
廉は苦笑する。
「統轄長が拓哉に初めて会った時に、『これからは施工出来る構造物を設計してくださいね』って言われましたからね」
「今も施工出来ないの?」
「出来るでしょうけど最低でも普通の橋の倍以上の費用はかかるから設計した本人も『あんな橋を、作るなんて頭が足りないと自白しているようなもんだ』って言ってますからね。
ブルックリン橋は世界最大の長大橋で長年かけてでも施工する価値あったでしょうけど拓哉のは見た目だけの代物ですからね。作る意味はありませんよ」
「そのデザイン見てみたかったなぁ」
「廉君!拓哉の喜ぶような事を、言ってはダメですよ?」
「これで、全部リスト揃ったよ」
「ありがとうございます。統轄長が帰ってこられたら詰めていきましょう」
藤堂の携帯が鳴る。
「悪魔の噂をするんじゃなかった……」
しぶしぶ携帯に出る。
「なんですか?」
「十碧なんだよ。親友に対してその一声は。相変わらず冷たいなぁ~」
「忙しいから、切りますよ?」
「 十碧。今、自宅療養中で暇なはずだろ?何で忙しいんだよ?頼みが有るんだ!」
「休暇扱いでなく自宅で仕事すると言う事なので仕事は山積みなんですよ!
拓哉のように現場で無いと出来ない仕事では無いんですよ!」
「もう~相変わらず冷たいよなぁ~。これが幼馴染みに対する態度かな………」と言うと同時に藤堂は携帯を切った。
「ありゃ。切って良かったの?」
「いいんです」
直ぐにまた携帯が鳴る。
「先輩、携帯鳴ってるよ?」
「玲音様、出て用件聞いて貰えますか?」
「分かったよ!もしもし?」
「十碧!携帯切る事は無いだろ?切る事は…。って十碧??」
「先輩忙しいから、用件を聞いてくれってさ」
「玲音君?」
「そそ、俺が齋藤先輩の悩み聞いてあげよう」
「………。う~ん……十碧は??」
「仕事してるよ。今本当に忙しいんだ………」
「う~ん……。加藤さんは、今何処に居るか知ってる?」
「加藤さん?」
「うん、伊集院教授が島の探索始めたんだがスタッフの移動に加藤さんの船使いたいらしいんだけど連絡が取れないから。
秘書室で加藤さんの予定と居場所調べて欲しいのと、今度の定例会の報告書の作成を手伝って欲しいなぁ~。と」
「前者はともかく後者は……。
齋藤先輩も、怖いもの知らずだね~」
「玲音君でも、いいだけどなぁ~」
「何とかしてあげたいけど、今回は僕も今忙しいからなぁ~。
まぁ、藤堂先輩と相談してまた掛け直すよ?」
「よろしくな!特に後者!」
携帯を切ると。藤堂は溜め息をつきながら言う。
「どうせ報告書の手伝いの要請でしょ?」
「凄いなぁ。何で分かるの?」
「親より一緒にいる時間が長いですからね。性格は全て知り尽くしてますよ。お互いにね。それに拓哉の他力本願は今に始まった事では無いですからね」
「後、加藤さんの居場所と予定知りたいって」
「ん?加藤さん?」
「何でも伊集院教授困っているらしいよ?」
「それは、調べてやってくれる?」
「OK~」
「取り敢えず、定例会用の暴露用資料が出来上がりました。後は、部数印刷するだけです。一応、確認お願いします。」と廉が報告書を藤堂に渡す。
「ありがとう。廉君。休憩してね」
「加藤さん本社に居るよ?親父のとこじゃないの?」
玲音は携帯で時宗に連絡する。
「もしもし?親父?」
「なんだ玲音、今忙しいから切るよ?」
「待ってよ!加藤さん居る?」
「あぁ、居るよ」
「なら、齋藤先輩と言うより伊集院教授が連絡欲しいみたいだよ伝えてあげて、じゃあね」と伝言して切る。
「後、齋藤先輩の報告書はどうするの?」
「甘やかしても育ちませんよ!と言いたいとこですが、あれ以上育っても困りますね………。仕方ないな……。あぁ甘いなぁ~私も」
と一人苦悩している藤堂だった。
統轄長室
玲音から携帯が切れた後、時宗は大きな溜め息をつく。
「雅治、誠が連絡して欲しいみたいだよ」
「ん?何だろ?」
雅治が携帯を見ると伊集院と齋藤からの不在着信が並んでいた。
「なるほど」
「取り敢えず雅治。わざわざ御足労だったが、悪いが今は何も言えない」
「俺は、お前の友人では有るが、この会社を取りまとめる役職についている。
なので今は会社の機密事項については言えない。
近いうちに全て調べて公表するからそれまで待っていてくれ」
「そう言う事では無いんだがな。仕方ないなぁ~。
時宗は言い出すと曲げ無いからな………」
「心配しなくても雅治や誠、私の親い人材には、悪い様にはしないさ。
悪いがちょっと本当に忙しいんだ。今日は素直に帰ってくれよ」
「………。俺は自分の立場とかを心配しているのでは無いんだがな………。まぁ今日は大人しく退散するよ。
面倒な報告書も残っているからな」と言って加藤は立ち去った。
何とか全ての資料及び手筈が調った。
世間では、大きなニュースになり波紋を呼ぶだろうが、内密に穏便に済ますと言う事は時宗の選択肢にはなかった。




