Today you, tomorrow me.
1.Today you, tomorrow me.
箱根の閑静な別荘地帯の一角に時宗の両親は東京から離れ移り住んでいた。
朝一番で時宗と玲音は車で向かった。
「今日は絶対、泊まらないからな?用が済んだら、すぐ帰るんだからな?聞いてんのか?親父!」
「分かってるから、騒わがないでくれるかい?寝れないだろ?こう見えても疲れて居るんだ」
時宗は到着するまで車内で玲音からの愚痴を回避するため寝ていた。
別荘地帯で一番眺めのいい大きな邸宅の前に車が滑り込んで玄関前で止まる。
「こんな所に居たら早くボケてしまいそうだが………」と時宗は決まってそう呟く。
車を降りると昔からいるお手伝いの澤さんが出迎えてくれる。
「時宗様お久しぶりです」
「澤さん元気そうだね。これ澤さんや他の使用人さん達にお土産、足りるか分かんないけど皆で食べて」
「何時も、ありがとうございます。でも、実家に帰られるのに心使いは無用ですよ」
「そんなたいした物でもないよ。親父は居る?」
「親方様は散歩に出掛けられましたが?」
「もう……。ちゃんと連絡したのにな」
「母さんは居る?」
「はい奥様はいらっしゃいます」
「そうか、あがらせて貰うよ」
「どうぞ」
「澤さんこんにちは」
「玲音様ちょっと見ないうちにまた大きくなられましたね」
「そうかな?澤さんも元気そうで何よりだね。お邪魔します」
奥の部屋に進みリビングまで時宗はすたすたとあがって行く。リビングまで来てみるとリビングの窓から出た庭で花の手入れをしている時宗の母親がいた。
「母さん、ただいま」
「あぁ時宗。お帰り早かったね?」
「朝一番に、行くといったろ?」
「お前の事だから時間通りには来ないかと…」
「心外だな……」
「ばあちゃん、こんにちは」
「おぉ、玲音も来たのかい?」
「うん」
「澤さんにお茶入れて貰おうね。
来るならシュークリームでも用意しておくのに……。あれ?今日は廉は居ないのかい?」
「あぁ、仕事手伝って貰っているから、東京に残って仕事やってるよ。俺達も用事が済んだらすぐに帰るからさ」
「そんなこと言わず折角来たんだから泊まっていきなさいよ」
「いや、本当に忙しいんだよ。お母さん」
「なら、玲音だけでも泊まっておいで」
「俺も忙しいよ。親父が一人では帰……」
途中で時宗は玲音の口を塞ぐ。
「親父は、どのくらいで帰ってくる?」
「そろそろ帰って来るとは思うけどね」
「玲音、こっちきておやつでも食べて」
「うん、ありがとう」
「時宗は、ソファに腰掛ける」
「母さんは、こんな山奥で不自由なんじゃないの?」
「東京の暮らしはもう御免だね。ここは温泉も出るし、気候もいいし、車あれば不自由しないよ?」
「そうなの?」
そんなこと話していると、時宗の父親が帰ってきた。
「ただいま。時宗?思ったより早かったんだな?」
「お帰り。俺だって何時も時間を守らない訳ではないよ?」
「じいちゃん。おかえり」
「おー、玲音も来てたのか?今日はゆっくりしていけるんだろ?後で……」
「じいちゃん、俺もこう見えて忙しいんだよ?親父の用事済んだら帰るよ!」
「折角、こうして来たのだから玲音だけでも泊まっていきなさい」
「だから!俺も忙しいの!」
「父さん、ちょっと相談と言うか話しあるんだ。座ってくれないか?」
「ん?仕事の話しか?」
「あぁ」
「俺は会長となってるが、名ばかりで、ほぼ引退して全部、時宗に任せているんだから、お前の好きなようにすればいいじゃないか?お前のすることに何も意を唱えてないだろ?」
「まぁ、取り敢えずこの資料見てくれよ」
時宗の父親はソファに座り、差し出された資料に目を通す。
「………。判明したきっかけは?」
「まぁ、色々と……」
「それでは答えになってないだろ?」
時宗はしぶしぶ経緯を話した。
「お前は、公私の区別も付けられないのか?」
「しかし、セスナの件は前から要望が有ったし、玲音の身代わり誘拐された玲音の友達を体をはって助けてくれた訳だから。
しかも、仕事に無用な物を与えるわけで無いから、お礼じゃないけどそう言う融通で申請通したんだよ?
雅治の件は、うかつだったが、秘書室が回って無いのに遅れれば秘書室がパンクするだろ?
俺と廉でそれを回避しただけで、何時もしてる訳ではないよ?
それに、この事でこの件が発覚したんだ。俺が全部の部門隅々まで目が回るわけも無いだろ?
俺が起用した人材ならある程度、監視もできるが、昔ながらの一族の部門は俺の目は行き届かないし、周りは誰も言えなかったんじゃ無いかと思う」
「ふむ」と時宗の父親は渋い顔する。
「この資料の出所は?信憑性はあるのか?」
「孫の仕事を信用するかどうかは、親父次第だ」
「玲音が調べたのか?」
「俺だけでないよ?廉も千景も、悠貴、潤、藤堂先輩で調べたんだ」
「そう言えば、何時も一緒に居る秘書が居ないんだな?」
「ああ、骨折して自宅療養中だ」
「で、時宗はどうしたいんだ?」
「どうって……。それもう、刑事事件だよ?刑事告訴するしか………」
「そうだな?このまま見逃す訳にもいかんが……。下手するとお前の責任も問われるんじゃないか?」
「あぁ、責任を問われば、退くよ。しがみつく必要は俺にはないからな」
「そうしたら玲音に継がせるのか?それはないよ?誰か他の適任者を指名するさ。
一族の中で無くていいだろ?問題起こしたのは一族の中からなんだから。
しかし、そうすると……。あのグループは空中分解するぞ?それは俺の責任では無いだろ?」
「まぁ、お前が黙認してたわけでも、隠して居たわけでもなく、告発するんだからな。責任とまでは言われないだろうが………。問題はその後人事だな?
また一族の後継者据え置くか一新するか?」
「お前は一新したいんだろ?」
「あぁ、でも一族の反発が凄いのは目に見えているからな。だから相談に来たんだ」
「玲音。玲音ならどうする?」
時宗の父親は玲音に聞く。
「ん?何で俺?」
「ゆくゆくは玲音。お前が継ぐだろ?」
「じいちゃん、それとこの事件関係無いよ?別に俺で無くてもいいじゃん。
それに、親父がやることに従えない一族なら俺のやることにも従わないだろ?
んなもん、俺、継がないよ!」
「おい、玲音?お前が継ぐってこないだ決めただろ?」と時宗の父親は焦る。
「おれは、正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると、胸をはって誰もが言えない様な悪事が蔓延る会社の面倒なんか見れないよ!」と玲音はキッパリ言い放つ。
それを聞いた時宗は、苦笑している。
「玲音が、ああ言うんだ。時宗お前の思うようにしろ。親族の方は俺が何とかするよ」
「ありがとう。親父」
「その代わり1日程、玲音を置いていけ」
「え?」
「少しは、孫と一緒に過ごしたいだろ?
イギリスの方にはちょくちょく行ってるらしいじゃないか?こないだも行ってきたんだろ?」
「いや、そこまでは、行ってないよ?」
「いいから、玲音は泊まっていかせろ。
明日責任持って東京に送り届けるから
いいだろ?玲音」と時宗の父親は言う。
「ちょっと玲音と2人で話してくるよ」
時宗は玲音を連れて庭にでる。
「親父!約束違う!また俺をはめたな?」
「いや、そんなことは無いんだが………。親父言い出したら折れないからさ~。ここは素直に……」
「だから、俺は行かないっていったろ?」
「今日、ここに泊まってくれたら約束していたシュークリーム15個だったのを倍の30個にするからさ。おやつに毎日2個づつ15日間届けさせるから…な?
だから残ってくれ。それで何もかも丸く収まる」
「……………………。30日間だ!廉と千景と藤堂先輩分も!」
「ああ、わかった。毎日8個づつ1ヶ月届けさせる」
「今回、だけだからな?本当に今回だけだよ?」
「あぁ。分かってるよ」
時宗は玲音の痛い視線を一心に背後に受けて帰って行った。
「お帰りなさいませ。あれ?玲音様は?」
出迎えた執事の後藤が言う。
「うん、まぁ、明日帰ってくるから……。
後藤さん明日から1ヶ月間ここのシュークリーム8個づつ届けさせてくれる?
一応前日、玲音に要るかどうか確かめて」
「はぁ、わかりました」
「廉は?」
「事務所に行ったままです」
「そう」
時宗は家に入っていく。
書斎に向かうと藤堂が仕事していた。
「お帰りなさい。どうでしたか?」
「うん、これからちょっと忙しくなるよ?
怪我はどうだい?次の定例会の出席も難しいかな?」
「次はドイツでしたっけ?」
「いや、今回は特別日本でするよ。秘書室にその変更の知らせを各部署にしてもらってくれ」
「はい。松葉杖姿でいいのでしたら参加出来ますが?」
「まぁ。車椅子でもいいが……」
「あれ?玲音様は?」
「あ~。玲音ね……。明日帰ってくるからよろしくね…」
「え?置いて来たんですか?」
「う~ん、まぁ結果的にね……」
「明日1日中、大騒ぎで大変ですよ?」
「うん。まぁ、事務所には来させなくていいからこっちの仕事手伝わせて」
「それ、私に押し付けてるでしょ?」
「そんなわけないじゃないか……。ハハハ」
「で、これからどうなされるんですか?」
「次の定例会でこの資料を出す。定例会当日までは内密にな。
それで、該当者3名刑事告訴の手続きをとる。当然、定例会当日に懲戒免職だ。
後、膿を出す為、各部署に他にこう言う事がないか全体に通達を出す。
各部署から内部告発もさせる。
その後は今の人事部は解体、新しい人事で行う。
経理部も総務部も上三役は全て降格処分だ。
その人事の配置の検討を手伝ってくれ」
「わかりましたが時間があまり有りませんよ?それに社内の反発や糾弾が起こるのでは無いですか?」
「私の責任追及かい?」
「そうですね。無くは無いと思われます」
「親父からも言われたが、その時は潔く退くよ」
「退いて何されるんですか?」
「小さい会社でも起こすさ」
「私も連れて行ってくれるんでしょうね?」
「藤堂君は残ればいいだろ?
ちゃんと今のポスト保障させるよ?」
「嫌ですよ?他のろくでもない統轄長の御守りは、ちゃんと連れて行って下さいよ!
そうで無いともう御世話しませんからね」
「変な奴だな?給料の保障も無いんだぞ?」
「楽しくない仕事は、しない主義なので………。 お金は二の次ですよ」
「なら、早く怪我を治して俺に協力してくれよ」と藤堂の頭を撫でる。
玲音の居ない夕飯
「明日、俺は実家に帰ろうかな?」と千景は呟く。
「お前、逃げる気だな?卑怯だぞ?」と廉は、千景を問い詰める。
「明日1日中、愚痴ってるぞ?聞くだけで疲れるじゃ無いか?」
「お前、研修先から帰って来てからだけじゃ無いか?俺は、丸1日中だぞ!
しかも、びったり隣について………。
俺、明日は秘書室を手伝おうかな?」
「廉君ダメですよ!動けない私に全部降りかかるじゃないですか!明日は絶対ここにいて下さいよ!」
「まあまあ、親父が親族のゴタゴタ全部引き受けてくれたのも玲音のおかげなんだから愚痴ぐらい聞いてやってくれよ?」
「なら明日は、玲音様は事務所勤務で」
「おいおい、俺は人事配置や定例会資料作成で忙しいんだ。通常業務もあるし、普段以上に忙しいんだぞ!」
「手伝って貰えばいいじゃないですか?
親子仲良く愚痴を聞きながらお仕事して下さい」
「藤堂君?多分そうなると明日の通常業務の予定まで終わらなくなるよ?」
「大丈夫です。今、秘書室室長は代行の柊木ですから。彼の責任です。お給料分働いて貰わないと…」
「先輩……。切り捨てる時はスパッと切り捨てますね?」
「私は万能では有りませんよ!自分の事で精一杯です」
廉に電話がかかって来た。
「ん?玲音からだ」
“Talk of the devil, and he is sure to appear."
(悪魔について話せば、必ず悪魔が現れる)と千景が呟く。
「もしもし?」
「廉!明日迎えに来てくれよ!じいちゃんが1週間くらいゆっくりしていけとか言い出してさぁ。帰してくれないんだよ!」
「でも、約束では明日送り届けるって?」
「車、ばあちゃんが用事で要るからって言うんだ。千景の車を借りて迎えに来てくれよ!」
「う~ん…。ちょっと待ってて、後で掛けなおす」
「え?廉?」
「ちゃんと掛けなおすから待ってろ!」
「絶対だからな!」
「あぁ」
「どうされたんですか?」
「迎えに来いって……」
電話の話しを説明する。
「千景…車…要るよな?」
「歩いて研修に行けと?」
「だよな?」
「車なら私使って貰っても良いですが……。明日の仕事は……」
「困ったもんだなぁ~」
時宗は実家に電話をかける。
「母さん?玲音、明日帰してくれるって、
え?こっちも忙しいだよ?色々としなければいけないし、玲音だって仕事してるんだ約束は守ってよ?
う~ん。玲音そこにいる?呼んで、明後日までそちらに…あっ、切られた……。
廉悪いが、明日迎えに行ってやってくれ
、事務所に先に仕事を貰ってそれからでいいから」
「わかりました」
廉は玲音に電話をかける
「玲音、明日夕方になるが迎えに行くからそれでいい?」
「もっと早く来れないの? 」
「無理、言うなよ…」
「わかったよ。なるべく早く来てよ」
「あぁ」
「先輩、明日車貸して下さい」
「うん、構わないよ?癖がある車だから運転には気を付けて」
翌日、朝一番に事務所に行き藤堂の仕事を貰い帰る。
それから箱根に向かう。しかし、いつも車の後部座席に乗り連れて行って貰っていたため道が分からず、ナビを付けて居たが迷った。
玲音から電話がかかる。
「廉、何してるの?」
「迷った………」
「え?」
「GPS許可して、近くまでは居ると思うんだけどな」
「早く来てよ…」
GPSとナビとでやっと着いた頃には日はどっぷりと暮れていた。
「澤さんこんばんわ。玲音いる?」
「廉様、お疲れでしょう?上がって行かれては?」
「いえ、仕事が有るので………」と話して居ると玲音が出てきた。
「遅い廉!ばあちゃんが、ご飯食べて帰れってさ」
「でも、すぐに帰らないと家に着くのは遅くなるぞ?」
「お腹すくじゃん。食べてから帰ろうよ」
「どうぞ、廉様お上がり下さい」
「では、すいません。おじまします」
「廉いらっしゃい。一緒に夕飯たべましょ?」
「おばあさん、おじいさんお久しぶりです。お言葉に甘えていただきます」
「元気そうだな廉」
「はい、お陰様で」
「立ってないで座りなさい。さぁ夕飯にしよう」
夕飯の途中、
「今日はもう、辺りは暗い。車だろ?事故っても困るから帰るのは明日にしたらどうだ?」
「じいちゃん、そうやって毎日伸ばしても困るんだよ?俺だって仕事してるんだ」
「玲音はまだバイトだろ?時宗にはちゃんと言ってやるから…。それに廉、運転は馴れて無いんだろ?ここまで来るのに迷うくらいだから」
「………はぁ……はい」
「なら明日朝一番で帰ればいいだろ?
ばあさん電話よこしなさい」
廉と玲音は顔を見合わさる。
「時宗か?廉と玲音は、今日はこっちに泊まって帰るから。ん?真っ暗な山道は危ないだろ?あぁ、そう言う事だ」
「今日は諦めるしかないな?明日朝一番で帰ろう」
「ミイラ取りがミイラになってどうするんだよ!廉!」
「玲音がご飯食べて帰るとか言うからだろ?」
「お前達の性格、年々よく似て来てるな……」
「ほんと、時宗が3人居るみたいだわ」
「……………」
翌日の朝一番、玲音達は、老夫婦の引き留めを何とか退け家路にむかった。




