I'm coming home.
1.I'm coming home.
診察室
担当医がじっと食い入る様に藤堂の骨折部のレントゲン写真をみている。
「先生何か?」と不安そうに藤堂が聞く。
「いえ、何でもありません」
でも、ちらちらレントゲン写真の方をみている。
「あの~。正直に教えて下さい。心の準備はある程度出来てます。たぶん……切断とかで無ければ………」
どう見ても心の準備は出来て居ない藤堂が言う。
「あ~。すいません。不安にさせましたか?申し訳無いです」
「??」
「いや、こう言う骨の折れ方するとなかなか綺麗にくっつかないものなんですよ?
殆ど複雑骨折の一歩手前な状態なので手術で、ボルトで固定するとか骨の移植とかするんですけど運が良かったんですね。
応急処置もかなり良かったんですね。山奥で折れたんですよね?なかなか医者が居ても山奥でこうまでは……。ここ見てください。ちゃんと噛み合ってるでしょ?凄いなぁって見てたんですよ。記念にこの写真欲しいくらい素晴らしい応急処置ですよ!」と担当医は楽しそうに答える。
「そうですか?運が良かったのか~」
「さて、全身打撲は完治しましたね。右腕まだ痛いですか?」
「いえ」
「後は、足の骨折だけですね。どうします?退院して自宅療養にされます?」
「会社に出勤できますか?」
「………。タクシーか何かで?」
「電車で………」
「…………。まだ、入院にしておきましょうね」
「はぁ」
最近は車椅子の扱いも馴れてきて、庭で日向ぼっこするのが楽しみになっていた。
(何か、この生活に馴れると、本当に窓際になりそうだなぁ~)
すると携帯が鳴る。例によって拓哉からだったので思わず切る。
(多分、人事の催促だよなぁ~)
また、携帯が鳴る。
「うるさいなぁ~」と声に出してもう一回切る。
「十碧、俺の電話は無視して切って呑気に日向ぼっこかよ?良い身分だよな?」と背後から声がする。
「え?」
振り向くとそこには、見るからに不機嫌そうな齋藤がいた。
「拓哉、仕事は?」
「十碧の質問の前に、俺の質問に答えろよ!」
「いやぁ~。なんと言うかさぁ~。この幸せなひと時を、満喫したくて。ついね」
「いい度胸だな!俺を無視するなんてなぁ。十碧君?」
「拓哉。珍しく偉くご機嫌斜めだな?」
「斜めどころか直角に折れてるよ?」
「拓哉、そんなに怒らずに。まぁそこのベンチにでも腰掛けて、少し話しようか?ほら早く腰かけろよ」
しかし、藤堂の後ろに立ち「さぁ。病室に帰るぞ!」と車椅子を押す。
「おい。病室でなくても、いいだろ?」
「病室でないと話せない」
「ん?」
病室に着くと、いきなり齋藤が尋問を始めた。
「どこまで、定例会の話を聞いた?」
「玲音様から大体は………」
「今日、統轄長に呼び出された」
「なんで?」
「社内でやはり統轄長と加藤さんの関係、俺と十碧の関係が会社の規律を乱して居ると言う声があるんだと。
リゾート開発部のセスナ購入も槍玉に上がってるし、廉君や玲音君を度々特定の部門の仕事手伝わせて居るのも影で言われて居るらしい」
「玲音様や廉君は、まだ社員じゃないから関係無いだろ?アルバイトをどこで使おうと本人達の同意があれば」
「社員じゃない人間に、会社の上層部の定例会の報告書を手伝わせるって事だよ」
「なら、他のバイトが秘書室でやってる仕事は?」
「だから、人事部の嫌がらせなんだよ!」
「統轄長はなんて?」
「統轄長は何も言わないが、種火は消さなければいけないだろ?前から申請はしているとはいえ、私事がきっかけでセスナ購入認めたし、統轄長の親友と言う事で加藤さんの部だけ大きくしたとか言われてるから。
こないだ加藤さんの報告書の作成の手伝いを廉君どころか統轄長まで手伝っていたと言う事が大きいんだよ」
「今、社内どうなっているの?」
「人事の件をかわきりに予算や設備投資の見直しが求められてる」
「呼び出されて、統轄長からなんて言われたんだ?」
「セスナ購入の稟議書を早急に提出して欲しいと。できるだけ、どのくらい必要かを詳しく書いて欲しいと。
後、デスクワーク要員の必要性も具体的にと…。
島で人事部の案を見たとき千景君達言ってただろ?配属に偏りが有りすぎると」
「まぁ。人事部のトップて誰だっけ?」
「タヌキ親父だよ…」
「あ~ぁ。統轄長の遠い親戚の速川さんね。あの人まさか統轄長の座を狙ってるの?」
「あわよくばとか、思ってんじゃねーの?
あのタヌキ親父、食えない野郎だからな、色々好き勝手してるし、何より、俺の部所を掃き溜めの様な扱いしてやがる。
何とか失脚させたいから十碧、手伝え!」
「何を?」
「あのタヌキ親父を隅々まで調べろ!」
「調べろって、ここに居て何が出来るんだよ?」
「統轄長のピンチだぞ?俺の一大事だぞ?何とかしろよ!」
「後者は、まぁ置いておいて前者は確かに問題だな」
「十碧!俺の一大事はどうでもいいのかよ?」
「もう冗談だよ、怒るなよ」
「俺は、機嫌悪いって言ってるだろが!
今、冗談なんか受け流せるかよ!」
「まあまぁ、怒っても、損することは有っても、得はないぞ?取り敢えず着替えるから少し待ってくれ」
「着替えるって?」
「統轄長に会いに行くのに、この格好は流石に不味いだろ?」
「どうやって行くの?」
「拓哉、車だろ?お前の車なら車椅子も乗せられるだろ?問題ないだろ?
しかし、ズボンが…。どうやってはくかな?」
すると後ろから
「何をやってるの?藤堂君?」
「え?なんでここに?統轄長?」
「和也から全身打撲は治ったから自宅療養でもいいが、どうするかと聞かれたから、相談に来たんだが?」
「あぁ、それ先程、担当医から言われました。調度今、統轄長に会いに行こうかと思ってた所です」
「自宅に帰りたいかい?」
「自宅だと仕事しずらいので…。会社からも遠いですし……。まぁ正直どこでもいいんですがそれより、統轄長定例会の件………」
「齋藤君からきいたのかい?」
「いえ、玲音様が………」
「なるほどね。私もちょっと軽率だったからね。面目ない」
「拓哉、お前は部屋の前で見張りしろ」
「あぁ、わかった」
「ん?なんだい?」
「すいません」
藤堂は今回の人事部に於ける騒動の件の詳細を話す。
「なるほどね、人事部が訂正したがるわけだね。しかし、君達も……」
「でも、人事に偏りが有りすぎるのは確かです。玲音様や廉君から色々来年度の新入社員の事を聞きましたが、人事部がらみの部には優秀な人事で、リゾート開発部と海洋開発部には、癖のある扱いずらい面々が配置されてます。
拓哉は定例会報告書を任せられる人材が居ないから通常業務後、自分でやってると言ってます。これってかなりの負担です。
加藤さんも同じなんでは?」
「そうだね。同じ事を言ってたね」
「統轄長、いい機会なので各部所の内密調査させて貰えませんか?」
「誰がやるの?」
「私が……。後、出来れば廉君と玲音様を貸して頂けば調べます。
多分社内に居ない分、動きやすいと思います」
「そうだね。私が横浜事務所内の雅治の部屋で報告書作成を手伝った件が何故漏れているのか?裏でどんな事あるか気になるし、公表するか?しないか?は別として調べて見て。報告はここで受けるから調査が終ったら連絡して」
数時間後、廉と玲音が病室にやってきた。
「今日から当分ここで先輩を手伝えと言われたんだけど………。齋藤先輩、今日は本社事務所に出勤ですか?」
「あぁちょっとな面倒なことになって………」
「うん。ちょっと色々有ってさ。よろしく頼むね?2人とも」
「大きな声では言えないけど……。人事部のパソコンの中入れる?」
「ある程度は出来ますが………」
「ここでは環境が………。ネット環境良くないですからね……… 」
「無理かな?」
「先輩、退院出来るんですよね?」
「ん?まぁ」
「なら動けるようになるまで俺達の家に来ませんか?往き来の時間が要らないし、先輩の世話しやすいし」
「え?」
「それに師匠が居ますし、最新の機材が揃ってますよ?先輩は俺の部屋使って下さい。俺、玲音の部屋に移りますから。
ここでは、面会時間とか有りますし。話しにくい事も有るでしょ?それに……」
「ん?何?」
「俺、ここ来る度、問診させられてるんですよ、毎日は嫌だなぁと」
「あ~。本来なら検査するはずだったんだもんね?しかし、俺、車椅子だよ?」
「取り敢えず室内はリハビリ兼ねて松葉杖で移動してもらえれば大丈夫ですよ?」
「玲音様は、いいの?」
「ん?廉なら別に一緒の部屋でも構わないよ?あーでも【玲音Jr.】だけは先輩の部屋で預かってね」
「あーぁ!あのパンダのぬいぐるみ!!」と齋藤が叫ぶ。
「それか?実家の方に行く?部屋いっぱい余ってるよ?親父が居るけど……」
「千景がどう言うかわかんないけど、そっちの方がいいかな?」
「ちょっと相談してきます」
廉は病院の庭で千景に電話をかける。
「千景?今、電話大丈夫?」
「ん?急用?」
「まぁ」
「ちょっと待って移動する」
廉は千景に電話で、事の詳細を話す。
「あー、俺のせいでそんなことになっちゃったかぁ~。どうしよう?」
「手伝ってくれるか?」
「そりゃあね。俺のせいだしな、それなら家より、お前達の実家の方がよくね?」
「俺、バイト先から近いし…」
「わかった。おじさんに聞いてみるから、動ける準備はしておいて」
廉は、病室に戻る。
「先輩。俺、一度会社に寄ってきます」
「あぁ、廉君、拓哉に俺のアパートのKey渡してやってくれる?」
「今日はこっちに泊まるらしいから」
「あぁ、はい」
「十碧の部屋は相変わらず?」
「いえ、ちゃんと片付けてますよ?」
「そう、よかった。寝る前に掃除しなきゃダメかと………」
「拓哉…。嫌なら泊まらなくても結構ですが?」
「いや、十碧助かるよ。今月ピンチなんだよ!」
「何時も辺境の地に居て何でピンチになるのか?理解出来ない」
「部下に、フランス土産品頼まれてさぁ。全員に買ったら結構な額になったんだよ……。
いつもは女性社員みんなでってひとつを渡してたけど…。野郎どもから、少しは俺達にも、買ってこいと。
しかも会議後、腹立つから、帰国して部下と飲み歩いてさぁ……。部下に飲み代を支払わすことは出来ないだろ?奴等ただ酒は底無しだからな……」
「……………」
「それじゃあ俺、会社に行ってきます。玲音はどうする?」
「行っても親父に会うだけだろ?嫌だ!俺は、ここに居る!」
「迷惑かけるなよ!齋藤先輩、こっちに泊まるなら家に夕飯食べに来ては?」
「え?いいのかい?」
「ええ、3人分も4人分も変わりませんから。その代わり、そこのパンダの調教をお願いします」
「あぁ、でも俺に出きるかな?調教……」
「かなり難しいですね?」と藤堂は言う。
廉は苦笑しながら会社に向かった。
廉が去った後、3人で新入社員の候補者の説明と選定をしていた。
廉は、時宗の会議が終わるまで秘書室の手伝いをしていた。
会議が終わったと聞いて統轄長室に行くと、加藤がいた。
「あっすいません。お話し中でしたか?」
「あぁ構わないよ?入って来い」と加藤が廉に言う。
加藤は、ソファに座っているがどう見ても機嫌が悪そうだ。
「こないだは、報告書の手伝いさせてすまなかったな」
「いえ、僕は全然構わないのですが……」
「そう言えば、齋藤に来年度の新入社員の情報教えたんだろ?俺にも、教えてくれないか?」
「デスクワーク要員ですか?」
「齋藤と被るか?」
「教えてもいいですが、重なった場合は、お互いで相談して決めて下さいよ?」
「あぁ、頼むよ」
加藤の要望を聞いてざっと候補者示す。
「なるほどな、やっぱり人事部と経理部に集中してやがる。この浅田慎二って奴は本当の所どうなんだ?」
「変わっていますが、彼の心を掴めば大きな戦力になると思いますよ?反対だと大変ですが……」
「なるほどなぁ~」
「ところで廉、用事があったのでは無いのか?」
時宗から話をふられる。
「えっと…」
「雅治なら気にしなくていいよ?隠し事はしてないからな?会社機密情報以外の事に関しては…だが」
「あの事も、いいのですか?」
「なんだ?あの事って」
「あぁ、ある意味、当事者だからいいよ」
廉は、加藤に経緯を話した。
「おまえらが、人事部のデータを改竄したのか?」
「すいません。齋藤先輩大変そうだったので」
「そう言う時は俺の所もしとけよ!俺と廉の仲じゃないか?薄情な奴だなぁ~」
「いや、流石にそこまでやるとバレるでしょ?」
「で、作業場なんですが………」と詳細を話す。
「家に来てもいいかというより、このまま帰って来ればどうだい?」
「千景が………」
「部屋はいくらでも空いてるから、家に下宿すればいいのでは?」
「う~ん、それでは本来の意味の自立が出来て無いような?」
「どうせ、卒業したら同じ部所で働くんだから一緒の方が無駄な時間を費やさなくていいのでは?
それに1年のうち半年位、時宗は居ないんだから今とそう変わらんだろ?」
加藤が時宗の為に助け船を出す。
「その件は少し時間下さい。よく考えて見ます」
「私もママも帰って来て欲しいなぁ~」
「善処します」
「そうか、ママに連絡しておくよ」
「いや、まだ……」
「で、いつからくるの?」
「藤堂君も来るんだよね?」
「はい」
「部屋掃除させておくよ。明後日以降なら何時でも引っ越して来ていいからね」
「だから……」
「雅治、今日は飲み行くか?お前の好きなだけ奢るぞ」
「やけにご機嫌じゃないないか?さっきまでとは大違いだ」
「おじさん?まだ…………」
加藤が廉の耳元で囁く。
「あれはもう無理だ、何も聞こえちゃぁいないよ」
「ええ~」
廉は帰って来て、ダイニングに4人食卓を囲んでいる。
「なんで廉、帰ることになってるんだよ?」と玲音が言う。
「なんでだろうな?」
「俺は?俺、一人でここ?」と千景が不安そうに言う。
「おじさんは千景も下宿すればいいって」
「十碧も怪我が直るまで統轄長の家か?」
「はい」
「まぁあの家なら車椅子でも不便無いわな
何時から引っ越すの?」
「いや、引っ越すとは……」
「もう諦めて実家帰ったら?」
「う~ん…」
「俺は、パンダの実家の方が大学もバイト先も近いからその方がいいけどな。
あっ、家賃いくらなの?あそこ相場高いよな?」
「払わなくていいよ!親父が言い出した事なんだから」
「玲音は?」
「俺?俺はどっちでもいいよ?親父は、ほとんど居ないし。たまにママに会えるのはうれしいかな?」
「なら仕方ないから戻るか?」
「しかし、統轄長の家となると十碧に会いに行きずらいなぁ」と齋藤はブツブツ言っていた。
「後、先輩」
「ん?」
「加藤さんに来年度の新入社員の情報教えてしまいましたので重なった場合は、よく話し合って下さい」
「加藤さんの所は、うちの部所とセットの様なもんだからな……。ただデスクワーク要員だけは死守したいな?」
「加藤さんのお目当ては村山さんですから囲碁将棋のあの人なら、まだ目を着けてませんよ?」
「そうなのか?掘り出し物なんだよな?」
「一緒に仕事したことは、無いけど。
将棋の相手を頼まれた時の対応や将棋の相手してる時はいい人だったよ?
俺、嫌な奴とは関わらないもん」
「名前は何って言ったけ?」
「吉野…なんだっけ?智樹だ」
「吉野智樹君ね」




