焦眉の急
1. 衣装合わせ
NYに着いた次日の朝
玲音と廉と千景の3人は、礼装一式を揃えに玲音の母親とショッピングに行った。
玲音達はまだ身長も微妙に伸びており、しかも、タキシードなど着る機会なんか滅多に無いからレンタルでいいと言っても「母親の一番の楽しみ奪わないで」と言われ、メアリーは午後からは、樹里亜のドレス買いに付き合うと言うので朝にした。
「ねぇママ。蝶ネクタイでないとダメなの?」と不服そうに、玲音が言う。
タキシードを試着した玲音を見て千景と廉が笑いに堪える。
「パーティーは、夜の7時からだから【モーニング】で無く【タキシード】になるからね。基本は、黒のタキシードに蝶ネクタイよ。玲音かわいいわよ?蝶ネクタイ」と母親が言う。
「確かに【かわいいな】」と千景が笑いを堪えて言う。
廉は、「散々、色んな格好を見てきたが今回だけは強烈だ。本当にパンダが蝶ネクタイしてるようだ。しかも衣裳も白黒だからな」と笑う。
「やはり、パンダの異名は間違いでは無かったな?」と千景は確信している。
「なんだろうな。似合わない訳でも無いんだが、身長も高い方で明らかに8等身なんだがな。【格好いい】じゃないんだよな?
【かわいい】なんだよな?」と笑いを堪えて廉が言う。
しかし、2人もそんな風に玲音ばかりに構っていたら、いくら時間あっても足らないとばかりに自分達の衣裳を選び始めた。
千景と廉はお互い選びながら意見を交換していた。
「【燕尾服】よりは【タキシード】の方がいいよな。日本人絶対あれ似合わないよな?」
「【ピークドラペル】か、【ショールカラー】のどちらのタイプにするかな? 」
「【ダブルブレスト・タキシード】って言うのは無しかな?」
「無難なのがいいよ、目立つの居るから」
「あぁぁ、そうだった」
「取り敢えず、王道を買っておけば何とかなるだろ」と2人はさっくりと選び試着して、ちゃんと着こなしていた。
「2人ともよく似合うわ」と玲音の母親は喜び感激していた。
残る一人は、蝶ネクタイが気に入らないらしくかなり悩んでいる。
「玲音。髪型変えなければ、蝶ネクタイいけてたのにな?髪の毛が黒過ぎなんだよ」と廉は言う。
「そうね、ウエーブで髪にボリュームあればもっと良かったかもね…」とメアリーも同意する。
「!!」
「その髪型、散々だな?」と千景と笑う。
「もう!みんな酷すぎ!!俺に似合いそうな蝶ネクタイ探してよ!」
「似合わない訳では無いんだから、どれでも良いだろ?」
「かわいいと言われるのが嫌なの!!」
「"He that chooses takes the worst. "って諺知らないのかよ?」と廉は呆れる。
「より好みする者は最も悪いものをつかむ?だから!一緒に探してよ!」
しかし、お昼の時間が差し迫り樹里亜が来ると聞いて玲音はあっさり妥協して、さっさと適当に決めた。
2. Do the likeliest, and God will do the best.
玲音達がホテルに帰ってくるとロビーに藤堂がいた。
「もう、買い物は済みましたか?」と玲音達を待って居た様だ。
「はい」と廉達は顔を見合わせながら答えた。
「どうしたの?」と玲音が不思議そうに尋ねる。
「旅先で誠に申し訳無いのですが、ちよっと仕事お手伝いしてもらえないですか?ちゃんとバイト代奮発しますから。人手がどうしても必要で……」
「どんな仕事?」
「日本語の報告書を英文にして欲しいんです」
「どのくらいあるの?」と玲音が聞く。
「ざっと、300ページくらい?どうしても本日中に必要なんです」
「結構ボリュームあるね」と玲音が言う。
ちょうどそこに潤と悠貴が来た。
「潤きたよ」と悠貴が言う。
「おひさしぶりです」
「Homesickは治ったか?」と千景が言う。
潤は苦笑いしてる。
「ちょうどいいや。藤堂先輩、こいつらもいい?」と玲音が言う。
「それは多ければ、多い程、助かります」
「しかし、なんで?」
「私の先輩にあたる人のミスなんですが、まぁ色々ありまして……」
「5人居れば一人60枚かぁ」と廉が言う。
「いえ、他にも私入れて5人居ますから30枚です」と藤堂は答える。
「頑張れば、できるんじゃない?英文だしさ」と玲音が言う。
「お願いします」と藤堂は頭を下げる。
「辞めて下さいよ!頭を上げて下さい。俺達で役に立つなら、なんでもしますよ」と廉がいう。
「ありがとうございます」
NY事務所の秘書室に10人集まった。
玲音達を除いた4人の内2人は日本人だった。
「一応紹介していきますね。一番左側から僕の先輩で君達の先輩でもある 山崎亮さん。隣が僕の後輩で、君達の先輩にあたる伊藤 碧海さん。Mr.リアム メイソン。Mr.ノア スミスです。
助っ人君達は、右から五十嵐 千景君、橘 廉君、櫻 玲音君、下田 悠貴君、葉月 潤君です。
取り敢えず、会議室にノートパソコン用意したので5人はそちこちへ。ここは山崎さんに任せますね、私は彼等に付き添うので。
専門用語の英訳は山崎さんに取り敢えずざっと抜き出してもらって訳してここに書いてあります。人数分コピーあるから取ってそれにあわせて訳して下さい。他に出てきたら随時報告して下さい。では、時間無いのでよろしくお願いします」
玲音達は会議室に移動した。
「出来上がった分から私に原稿下さい。チェックしていきますので、データの保管場所はホワイトボードに書いてあるところに原稿のページ数で保存して下さい。何か質問ありますか?」
「ないよ」
「では始めて下さい」
300ページをチェックの2人外して8人、
内の1人は、微妙にまだ英語の成長途中、ざっと頭数で割っても37.5枚、骨の折れる仕事だ。
夜6時過ぎた頃、時宗が顔出した。
「どんな感じなの?」
「何とかこちらは2/3済んだ所です」
「流石にこれ以上は………。あと秘書室で対応できないの?」
「そうですね」
「いいよ親父!俺達は引き受けたんだからちゃんと最後までやるよ!その代わり潤にホテルの部屋取ってあげて」
「それは勿論だが?無理することは………」
「僕達は、無責任な仕事する方が嫌ですから。それに適度に休憩しながらやっているんで大丈夫です」と千景が言う。
「そうかい、悪いね。夕飯配達させるから何が食べたい?」
「ピザ、シーザーサラダ、ポテト、チキン、サンドイッチ」と玲音がいう。
「玲音、ジャンクフードばかりじゃないか?」
「手軽に食べれる物ってそんなもんじゃん?親父ここからネットで注文してもいい?」
「ああ、いいけど他の人はそれでいいの?」
「はい」
「では、7人分頼んで」
「7人分?」
「私のも頼んでくれよ。私は夕飯抜きかい?」
「ああ、親父もここで食べるの?」
「私も手伝いに入るからね。一緒に食べさせてくれよ」
「統轄長!ちょっとこちらに」と慌てて藤堂がいう。
「ん?なんだい?」
「今日のお仕事は?」
「済んだよ?今朝、藤堂君が言ってたのはね」
「え?」と意外な返事に言葉を失っている。
「あの契約書と内部資料の査定と売上高の確認、全部出来たんですか?」
「ああ、ついでに報告書の訂正指示メールも送っておいたよ?」と時宗は涼しい顔でいう。
「やればできるじゃないですか?普段からそうして下さいよ!」と子供に言う様なセリフが藤堂の口から思わず出る。
「藤堂君、人聞き悪いよ!いつも私が、さぼってる見たいじゃないか?」
「出来る事が出来て無いのは、さぼると言うのでは?」と厳しく指摘する。
「有為転変は世の習いっていうだろ?その日、その日で仕事も変化するでしょ?だからさ、今日出来ても明日は出来るとは限らないよね?」と時宗は明日以降の伏線を張る。
「いえ、仕事増えても減る事は、統轄長の場合に限って無いですから。その日に出来る事はその日にしてくださいよ!」
「藤堂君。そんな怖い顔しないで、チェックは、私がするから藤堂君も翻訳の方に入ってくれ、そうすれば8時には終わるだろ?」
夕飯も食べ終わり、ラストスパートで一気に玲音達の配分は済んだ。
「ご苦労様です。助かりました。ありがとうございます」と藤堂はほっとしながら言う。
「山崎さん達の方は、どうなっているの?」と千景が聞く。
「私が確認して来ます」と藤堂は出て行った。
「廉。昨日、具合良くなかったみたいだけど、大丈夫かい?」と時宗は心配そうに廉を見る。
「大丈夫ですよ。寝不足で眠たかっただけですから」
「なら、いいんだけどね?具合悪いならちゃんと言ってくれよ?」
秘書室
「え?まだこんなに残っているんですか?120ページの内80ページは遅すなのでは?向こう側は、180ページ完了しましたよ?」と藤堂は呆れながら言う。
「でも、出来て無いんですから、これ以上は………」と山崎は困惑しながら言う。
「半分下さい、20ページは責任もって秘書室で明日の朝までには仕上げてよ?本来なら秘書室のこの4人で300ページしなければいけなかったんですからね。毎回、今回みたいに助け舟はないよ?」
藤堂は苦言を言って帰ってきた。
「どうだった?」
「それが…まだ40ページ残ってまして出来ればこちらで20ページ…」
「いいよ、早く頂戴」と玲音は言う。
「う~ん。困ったもんだね」
時宗は厳しい顔で言う。
「すいません」
「藤堂君が謝ることではないだろ?」
「悪いが、あと20ページ皆で手分けしてお願いできるかい?
明日の夕飯は奮発するから頑張ってね。さぁ藤堂君、私達も取りかかろう」と時宗は場を仕切る。
結局7人総動員で翻訳し1時間でできた。
「私達は、チェックして帰るから下に車まわすからそれに乗ってホテルまで帰ってくれるかい?潤君の部屋とったんだけど悠貴君と相部屋で悠貴君は今の部屋移って貰うことになっているんだけどいいかな?
廉達の隣部屋になるのだが……」と時宗は言う。
「構いません。ありがとうございます」と潤は言う。
「こちらこそ、ありがとう。藤堂君、車までよろしくね」
「はい、了解しています」
藤堂が部屋に帰ってきた。
部屋では時宗がチェックしていた。
「後は、私が致しますので」
「乗りかかった舟だし、藤堂君も疲れているだろ?早く済ませて私達も帰ろう」
「ありがとうございます」
「これ、終わったら一応、経緯を聞かせてもらえるかな?」
「はい」
30分後
「これで、全部できたのではないかな?」
「本日は統轄長まで巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」
「私は、会社のただの飾りには成りたくは無いからね。高見の見物は出来ないさ。
私の出来る仕事をしたまでだよ。
それに何時も仕事サポートしてくれる部下が困って居れば手を差し出すのも上司の仕事だと思うが?
だから藤堂君は山崎君に手を差し伸べたのだろ?
それに親馬鹿かも知れないが、あの子達は決して自分の仕事放り出して帰る子達では無いからね。遅くなっても出来るまでやり続けただろう。未成年を夜遅くまで働かせるのは経営者として失格だ。潤君と悠貴君は18歳未満だから法律的にも関わるからね。
では、片付けは明日他部署に任すとして帰ろうか」
「はい、車を手配してきます」
時宗は車の中で経緯を聞いた。
山崎が部下に翻訳の仕事を割り振り、その請け負った部下がその仕事を忘れて放置し、山崎も今日の期限の今まで進行確認もせずにいた。
その抱えていた部下は事態の発覚後、【無理】と言って職場放棄して帰ってしまったと。
たまたま、藤堂がいたので報告聞いて急遽玲音達に手伝頼んだと言うことだ。
「職場放棄した社員は懲戒免職でいいと思うだけどね。山崎君?どうしたものかな?」
「そうですね」
「NYの秘書室は、そんなに忙しいのかい?」
「国民性もあると思います。日本人は協力しあって分担して仕事を進めますが。アメリカでは、仕事を割り振り任すと言うやり方ですから。
それは良くも悪くもあると思います。
ただ今日の様な事が起きると日本と違いフォローが大変です。だから効率が悪かったんだと思います」
「もし、山崎君を入れ換えるとすると藤堂君は仕事やりにくくなるかい?」
「なんとも言えません。今回の失敗は明らかに、彼の落ち度も有りますし、今回玲音様達の力添えで何とかなりましたが、これで軽い処分だと他の社員に示しが付かないと思います。
ただ、私が知る限り山崎氏は仕事の出来る人と思います。環境が合わなかっただけで。山崎氏を左遷と言う形で日本に戻してあげてはどうですか?」
「その後は誰を置くかだね」
「少しだけ聞いた事があるんですが、玲音様の先輩で生徒会長していた【相澤白夜】って人はひとりで生徒会執行部をまとめていたそうです。
なんでも人の嘘見分けるのが得意とか、玲音様を生徒会執行部に推薦するのは失敗したようですが、私の同期の齋藤より出来る男と噂されていたみたいですよ。
2、3年NYに置いてみてはどうですか?もし、頭角を現せば山崎さんのポストでいいのではないですか?」
「わかった。その人事調べてみてくれるかな?」
「はいわかりました」
2人を乗せた車は宿泊先のホテルへと向かう




