I see a lover to your eyes.
1. 恋ばな
卒業式を後わずかに控え、夕暮れの教室に女性2人、校庭を眺めながら話している。
「もうすぐ、高等科も卒業だね?」と美里が樹里亜に向き合い言う。
「そうね。美里は卒業後、すぐに交換留学でフランスに行くんでしょ?」
「うん、まず半年間だけどね。その後、適性が認められれば1年半引き続き留学が出来るの。海外だと馴れなくてノイローゼやホームシックで潰れる人が多いんだって。だから半年間はお試し期間だね。
中等科に入った時、絶対退学になってしまうと絶望し掛けてたけど樹里亜や千景さん達のおかげで卒業どころか留学まで出来るなんて夢みたいだよ」
「私に感謝するなら一生、親友で居なさいよ!」
「もちろんだよ!」
「そう、それなら離れていても安心ね」
「樹里亜、ずっと思っていたこと有るんだけど聞いてもいい?」
美里は傍の机に腰掛けながら聞く。
「どうしたの?」
樹里亜は振り返り窓を背にして美里を見つめる。
「怒らないでね?樹里亜って千景さんの事好きなの?」
美里は前振りもなく樹里亜を見上げながらストレートに聞く。
樹里亜の顔がみるみる真っ赤になる。
「どっ、どうしてよ?」
明らかに樹里亜は動揺している。
「う~ん。見てれば、わかるかなぁ?樹里亜、素直だもん」
男5人ここに居れば、この【素直】という言葉にブーイングの嵐が起こりそうだ。
「どこが?どうして?!」
樹里亜は戸惑いを見せながら聞く。
「やっぱり!好きなんだぁ」
美里はにっこりと微笑む。
「美里、勘違いしてるわよ!」
樹里亜は必死になって否定する。
「親友の私には隠さなくてもいいんじゃない?」
「どうして?そう思うのよ?」
「そうだねぇ………」
美里は上目使いに人差し指を口唇に当てて考えを廻らす。
「1つ目は………。何でも まず一番最初に千景さんの所に相談しに行くでしょ?
多分相談し易さなら、いとこの玲音さんか廉さんだと思うよ?
でも、絶対に千景さんにまず相談しているでしょ?
2つ目は、千景さんからの頼みは、なんだかんだ言っても断わらないよね?
廉さんが入院している時、千景さんに頼まれたから、毎日お見舞いと遺跡のデータ整理手伝ったんでしょ?生徒会長を説得する時も。
3つ目は、あれだけ夏休み前まで部活なんて興味ないって言ってたのに、考古学研究部には自ら入ちゃうし。私が廉さんや玲音さんから勉強教えてもらっている時と千景さんに教えて貰って居るときの樹里亜の私を見る態度違うもん。なんかそわそわしてさぁ。
最後、確信したのは昔、バレンタインデーに私が間違ってチョコレート預かったのを返しに行く時、千景さん宛のだけ念入りに釘さしてたよね?以上かな?」
「………」
「お似合いだと思うけどな?素直に気持ち伝えてみれば?」
「嫌よ、今のこの関係が一番いいのよ!」
樹里亜はまた振り向き窓から校庭を眺めながら言う。
「そんな訳ないじゃない?高等科卒業しちゃうとなかなか会えなくなるよ?
今でも、すれ違ってばかりで全然話し出来てないんじゃない?
多分、千景さん樹里亜の気持ち知らないから伝えれば千景さんの態度も違ってくるのではないかな?
バレンタインの時、言ってたけど、『自分や、個性を見て好きって言うのではなくて家柄や権力に近づきになりたい奴ばかり近寄ってくる』って嘆いていたよ。でも樹里亜は違うでしょ?樹里亜の家はそれ以上の物あるもの」と美里は言う。
「私より、美里は好きな人居ないの?」
「私?」
「そう、いいな?って思う人は居ないの?
そう言えばサクラとはよく話ししてるよね?」
「玲音さんには、留学のためにフランス語教えて貰っているだけだよ?
玲音さんと廉さんは私から見るとなんと言うか見た目は違うけど、兄弟以上に同じ感じがするんだよね。
上手く説明できないけど、玲音さんを少し大人にしたら廉さんみたいな?顔形は全然違うのに血の繋がった双子の兄弟みたいに似てる感じがするなぁ~。
だから、玲音さんを好きなら廉さんも好きってことになるよ?
だから、どちらかは選べないよ。当然友人としては、大好きだけど………。
それに、私みたいな庶民的な家系にはあまりにも遠すぎる存在よ。
まだ悠貴君や潤君の方が一緒にいて心落ち着くかなぁ?
でも、憧れている人なら1人いるよ?」
「誰?」
「島で会った齋藤さんかな?」
「年上好きなのね」
「それも、そうだね。でも、かなり優しくて気配り出来て頭のいい人だよね?
それでいて玲音さん達と年が変わらないくらい少年の様な遊び心も有って親しみのある人だよね? 」
美里は笑いながら思いを打ち明ける。
「でも、本当の所。千景さんには思い伝えないの?」
「サクラや廉以外で私にストレートに話ししてくれるのが千景だけだから居心地がいいのよ。
美里の言う通り、サクラはいとこだし廉もサクラと同じでいとこって感じが強いからよ。ただ、それだけよ。
やりたいこと、まだ出来て無いのに恋愛なんてしてる時間は私にはないわよ!」
「そっかぁ~。そうだね!これから社会に出て色々な人と出会っていくのだから、急がなくてもいいかもね。
考古学研究部のみんな友人としては、これからも卒業してもつきあって居てくれそうだしね」
「ハックション」
「どうした?千景風邪か?」と廉が言う。
「いや、ちょっと噂されているような?」
2. I see a lover to your eyes.
それから数日後、美里が部室に来てみると珍しく千景が一人でいた。
「久しぶりですね」
「あぁ、美里ちゃんか?」
「考古学研究部は廃部ですか?」
「正確には悠貴達が卒業するまでは同好会として残るけど………。でも、悠貴達が卒業すると完全に無くなるね」
「寂しいですね」
「まぁ、遺跡調査は俺達以外の学生に掻き回されたくないのが本音かな?
本気で考古学を学びたいと言う生徒は別だけどね。
そういった連中は、考古学の講義を取るからグラブでなんかでなくて、講義や授業で実際に現地で学んで行くからね。ここは必要ないよ」
「千景さんはもう遺跡調査には関わらないのですか?」
「俺?そうだね、忙しくなるからね。医学は片手間に学べる物ではないし、人の命を預かる仕事だからね。
美里ちゃんは主治医に考古学と両天秤かけているような奴にはなって欲しく無いだろ?
まぁ俺は、実際患者を直接診察するのでは無くて、新薬の研究から新しい医療を目指したいからちょっと違うけどね。
ただ休暇中とか、自由な時間で出来る範囲では手伝いたいと思っているよ?」
「そうですか」
「年1回は、あの島にみんな集まって休暇過ごす予定だから美里ちゃんもおいでよ。
多分、樹里亜から連絡するはずだよ?聞いてない?」
「是非お願いします。千景さんひとつ質問してもいいですか?」
「ん?」
「千景さんにとって、樹里亜はどんな存在ですか?」
「ん?樹里亜ねぇ~。ちょっと扱いずらいけど大切な仲間だよ。
俺達を家柄や利得で近寄って居るわけで無いからね。そんな異性って本当に少ないからね。そう言う意味では貴重だね。
でも、もう少し素直ならいいんだけどなぁ~。意地張りすぎだ。
でも、どうして?」
「千景さんは、樹里亜にはマメに連絡してるみたいなので」
「あぁ、廉もパンダもそう言う事はしないんだよ、面倒くさがって。
まぁ俺達はそれぞれ役割じゃ無いけど暗黙の分担しているからね。
美里ちゃんは卒業後、フランスに留学するんだよね?」
「はい」
「頑張ってね」
「ありがとうございます」
「それでは俺は帰るよ。美里ちゃんは樹里亜と待ち合わせ?」
「はい、もう少ししたら来ると思います」
「では、よろしく言っておいて」と言って千景が立ち上がると同時に樹里亜が部室に入ってきた。
「あら、珍しくサクラ達と一緒ではないのね」
「あぁ、今日は部を同好会にするための手続きに来たからな。パンダ達は引っ越す準備中だよ」
「そうなの」
「俺も引越しの準備しないといけないから退散するよ。戸締りだけは、よろしくな」
「わかっているわよ」
「そう言えば樹里亜。いつアメリカに行くんだ?」
「2ヶ月後の予定よ」
「なら、潤に時々会ってやってくれよ。初めての海外で長期滞在になるからさ」
「わかったわ。後で連絡先教えて」
「あぁ、後で連絡するよ。じぁあな」
千景が出て行った。
「美里、千景と何話していたの?」
「ん?焼きもち?」と笑う。
「違うわよ!」
顔を真っ赤にしながら樹里亜は否定する。
「廃部になるの寂しいとか?
千景さんこれからどうするかとか?
あと千景さんにとって樹里亜はどんな存在なのかとか?」
「えっ?」
「樹里亜の気持ちは言ってないよ。連絡はよくとるんですねって言っただけ。
千景さんにとって樹里亜は貴重な異性の友人だって、もう少し素直ならいいのにって。意地の張りすぎだそうだよ?」と樹里亜の顔を見ながら笑顔でいう。
「そう」
「うん。もう少し素直ね」
3. 華麗なる大円舞曲 (Grande Valse brillante, Op. 18)
放課後、音楽室からピアノの音色が聞こえてくる。
明るく華やかな曲調のショパン の【華麗なる大円舞曲】(Grande Valse brillante, Op. 18)
誰もが一度は聴いた事のある名曲だ。
流れるように軽やかに弾いているのは、橘廉だった。
素人にしては中々の腕前である。
最近この音楽室は、廉のお気に入りの場所になっていた。
高等科の卒業を間近に控え、部活もなくなり、寮も引っ越しの準備期間だが、廉には、千景達と違いこれといった荷物もなく、空いた時間をのんびりここで過ごすのが日課のようになっていた。
芸術科コースの校舎では、放課後や休憩時間は練習する為に生徒で音楽室は取り合いだが、進学科コースの校舎では一般教養としての音楽の授業があるだけで、音楽室自体にはグランドピアノが1台有るだけで他の主だった楽器類はなく、楽曲の練習に来る生徒も皆無で、当然ピアノをわざわざ弾きに来る生徒は居ない。ただ1人を除いては………。
奏者はピアノの世界にひたりきっていた。
弾き終わり顔あげると。そこには玲音がいた。
「うわぁ、なんだ!びっくりするじゃないか!」
廉は、驚き玲音に聞かれたと思うと我に返り恥ずかしさで一杯になる。
「今の曲ショパンの『華麗なる大円舞曲』だよね。廉も弾けるなんて奇遇だね。この曲、俺の十八番なんだよ。いい機会だからさ、連弾してみようよ?」と玲音は嬉しそうに言う。
「いや、ピアノの見つけたから、つい弾いてみただけで、そんな練習もしてないから。連弾なんて……」
「いいじゃん。俺も、この曲ママが好きでよく弾いて居たから俺も覚えただけで、基礎なんか分かんない素人だよ!」
そういって玲音は、廉の隣に座り弾き始める。
「ほら、廉も弾いてよ」
2人の連弾は即興とは思えない程、息が合っていた。
「廉、他に何弾けるの?」
「何って、譜面見れば難易度高くなければ弾けるが?譜面無しではこの曲だけだ」
「そこも同じだね。でも、意外だった。廉がピアノ弾けるなんて。弾いて居るところ見たことなかったからさ。
ママに聞かせてあげれば喜ぶのにな?そうだ!今度、ママ帰ってきたらこうして連弾で聞かせてあげようよ。多分びっくりするよ。家には、ちゃんとママのピアノあるからさ。
でも、放課後の音楽室とは、いいとこ見つけたね」
「そうだな。でも、お前にバレたから憩いの場では、なくなったな」
「何でだよ?」と玲音は廉を睨む。
「しかし、玲音なんでここに居るんだ?」
廉は、まずいとばかりに話しをはぐらかす。
「あぁ、そうだった。千景が探してたよ?何か約束してたんじゃないの?」
「ん?」
「かなり怒ってたよ?」
「あぁぁ。やばい、病院に行くの忘れてた」と廉はげっそりする。
「それと、【華麗なる大円舞曲】で思いだしたけど、こないだ藤堂先輩から聞いたんだけどね。近いうちにNYに一緒に来いって」
「【華麗なる大円舞曲】とNYが、なんの関係があるんだ?」
「う~ん、なんか経済界の有名なパーティーが……」
玲音が言い終わる前に廉が言葉を遮る。
「玲音………お前一人で行けよ!俺、関係無いだろ?」
「なんでだよ?」
「俺には、パーティーとか関係無いだろ?
卒業後は、俺は、お前の秘書で裏方なんだから、そう言う場所は表方のお前の仕事だよ!」
「パーティは家族で参加するのが礼儀なんだよ!
それに秘書でも代行で出席するだろ!現に廉の両親………」
玲音は、はっとして言葉を飲んだ。
「ゴメン」
「何、気を使っているんだよ?使うなら他のポイントで使えよ!」
そこに音楽室の戸が威勢よく開く。
「廉、やっと見つけた!」
「あぁぁ。千景?」
「あぁじゃない!今日、診察の日だろ?
すっぽかしやがって、親父から苦情の電話きたぞ!俺が、怒られたじゃないか!電話もメールも音信不通で、校内中捜しまわったぞ!」
「すまん!忘れてた!明日必ず行くからさ。五十嵐先生にもお詫びの電話しておくから許せ!」
廉は、千景に向かい両手を合わせ謝る。
「しかし、お前ら、こんなとこで、何してたんだ?」
千景は廉と玲音がピアノに向かって座って居るのを不思議に思っている。
「う~ん?【ねこ踏んじゃった】の練習を………」
廉が華麗に弾いて見せる。
「隣に【大猫】いるじゃないか?」
「!!」
「千景!踏むなよ!」と玲音は逃げて行く。




