Typhoon
1.悩み
玲音達の高等科の最後の年
真冬の校舎の屋上
寒空の下、屋上からの風景を眺めながら廉は悩んでいた。
そこに千景がやって来て目敏く言う。
「この寒いのにここ最近、いつも屋上に居るよな。
この場所に居る時は何か悩んでいるんだろ?何を悩んで居るんだ?」
「いやぁ~毎度のことさ。記憶が無い部分を色々と考えているだけさ」
「嘘つけ。それも多少はあるかも知れんが、他の事でも悩んでいるんだろ?
俺に誤魔化しても無駄だ。話せよ?
解決の手助けは出来るかどうかは、わからんが話す事で、少しは心が軽くなるだろ?それとも何か?俺は、お前の信用には足りない人間か?」
「いやお前は、【莫逆の友】と言うべき、無二の親友だ 。
お前を信用出来なければ誰も信用出来ないよ」
「なら、話してみろよ?」
「そうだな。もうすぐ高等科卒業だろ?」
廉は、ここ最近の考えていた事を話し始める。
「あぁ、そうだな、また進路か?」
「いや、それは、玲音と玲音の両親と話し合って、玲音と一緒におじさんの仕事をサポート出来るように経営学部を基本に学んで行くことにしたから、それは納得して選んだ事だから悩んでないよ?」
「では、何を悩んでいるんだ?」
「卒業と同時に、ここの寮からは出なければいけないだろ?
何処に住もうかと、それにアルバイトもしたいしな。
でも多分、おじさん達は俺がアルバイトをする事は、あまりよくは思わないと思うし。玲音も離れて暮らすと言うと大騒ぎするだろうし、納得しないだろうからなぁ。
でもなぁ、もういい大人になるんだから、そろそろ自立を考えてもいい頃だろ?
だから、どうみんなに言い出そうかと」
「そうだな。でも、まず玲音の両親を説得しないと。
アパートを賃貸するのも未成年者では、保証人が居ないと難しいぞ?
アルバイトも時間の融通が利く所があるかだな?ここの大学は出るのは世界のトップの有名大学並みに難関だからな。
バイトに明け暮れて卒業出来る様な所ではないぞ?
まず、玲音のおじさんと話ししてみてはどうだ?あの人はうちの親父と違って話しのわかる人だぞ?
まぁ取り敢えずパンダには内緒でな?」
「そうだな、一度言ってみるかな?
千景は寮を出たら実家に戻るのか?」
「いや、大学病院近くにアパートを借りるつもりだ。
俺も櫻グループのメディカルセンターでバイトさせて貰うんだ。玲音のおじさんに頼んでみたら、紹介してくれたぞ。
お前も頼んでみてはどうだ?頼る事でおじさんも喜ぶだろうし、おじさんの目に届く所で働くのも恩返しだと思うぞ?」
「そうだな。相談してみるよ」
「パンダは、どうする気なんだ?」
「多分、何も考えてないんじゃないか?考えてないと言うと言い過ぎかも知れないが、俺に合わせるって感じじゃないかな?」
「そんな所だろうな」
数日後、廉は玲音には内緒で時宗に連絡を入れた。
「どうしたんだい?何かまた問題でも?」
「おじさん【また】って………」
「あっいや、珍しく廉から連絡きたからね。問題でもあったのかなぁと………。
いや、問題有ろうと無かろうと何時でも、何でも遠慮なく連絡してくれればいいからね。
で、なんだい?」
「はい、高等科卒業後の事で相談が………」
「うん。廉はどうしたんだい?」
「出来れば、徐々に自立できるようにアパートでも借りて、アルバイトしながら大学に行きたいのですが………。
でも、まだ未成年ですし、アパート借りるのもおじさん達に保証人を頼らなければいけないんですが………。
でも、少しずつ自分の力で生活出来るようにしていきたいと思ってて………」
「そうかぁ。まぁ気持ちはわかるが、寂しいなぁ~」
「いや、大学卒業しても、おじさん達の傍で働くのだから、寂しいとかは無いでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどさぁ~。
この事は玲音には話しをしたのかい?」
「いや、大騒ぎするのが、わかっているからまだ内緒にしてます」
「なるほど、部屋はグループの所有してる賃貸マンションの中から好きな物件選んで家賃の半分だけ支払いなさい。半分はまだ就職もしてない学生で未成年なんだ。私達に負担させてくれ。それではダメかい?」
「お願いします」
「アルバイトは東京の事務所の秘書室が人手不足でね。雑用係探していたはずだから、やってみてはどうかい?」
「助かります。何から何まで頼ることになりますが、お願いします」
「承諾してくれてよかった。バイトは何時からするかい?事務所に連絡入れておくから」
「出来れば、すぐにでも……」
「なら、来週あたりに連絡するように伝えておくよ。マンションもそこの秘書室を通して紹介してもらってくれ。話はつけて置くから」
「ありがとうございます」
「玲音には、廉からきちんと話して貰えるかな?」
「わかっています。近いうちに話してみます」
「もし、学問とバイトの両立が難しいと思ったら、素直に全面的に頼ってくれよ?無理はしないでくれ、いいね?」
「はい」
結局おじさんの手のひらで転がされている感じはするが、全部自分で出来るわけもないから仕方無いなと思いつつ玲音にどう話そうかと、また校舎屋上の寒空の下で悩む廉がいた。
2.Typhoon.
玲音が何時もの様に廉の部屋でソファに座りタブレットを見ながらくつろいでいる。
「玲音。少し話しがあるんだけど?」
「なに?」
廉は玲音の隣に座り話し始める。
「お前、高等科を卒業した後どうするの?」
「どうするって?こないだ親父とじいさんと親戚に取り囲まれて散々何だかんだと言いくるめられて、決めさされたじゃん?」
「いや、寮出たらどうするのかな?って」
「家に帰るに決まってるじゃん?どこ行くんだよ?廉も帰るんだろ?」
「いや、俺はマンション借りて一人暮らしすることにしたんだ」
「え~。俺はどうするんだよ?」
「どうするって……。お前の人生だろ?お前が決めろよ?」
「なら俺も、廉の隣に住む」
「おい、おい。少しは自立しろよ。俺の傍ばかり居ても仕方ないだろ?」
「嫌だよ。廉が居ないとあの家ただ広いだけで、誰も居ないじゃんか!
あんなとこ廉が居ないなら帰らないよ!」
「執事の後藤さん居るじゃないか?使用人も………。
それに、例え玲音と一緒にあの家に帰ったとしても俺は、バイトすることにしたから殆ど部屋には居ないと思うぞ?」
「なんだよ廉。自分だけ勝手に決めて俺は置いてけぼりかよ?
廉は誰も知らない所で、寂しく無いのかよ?」
「大学では会えるだろ?卒業後も仕事も傍で居るんだし、寝起きする所が違うだけじゃないか?」
「嫌だね!廉には分かんないかも知れないけど、あんな広い部屋でひとりぼっちは、もう嫌だ!
親父達は了承したのかよ?」
「あぁ、了解もらってるよ」
玲音は立ち上がり黙って廉の部屋から出ていく。
「おい、玲音!まだ話しが………」
廉は、玲音の説得に失敗し、途方に暮れる。
日本櫻グループ統轄事務局ビル
無表情で何処か冷たい雰囲気をかもし出している男が秘書課の受付嬢に話しかける。
「親父は今どこ?」
「え?」受付孃が困惑している。
「統轄長は今、日本には居ないの?」と冷たい鋭い声で訪ねる。
「はい、明日こちらに戻っていらっしゃるように伺ってますが?」
「何時に着くの?」
少しイラッとしたような口調に変わる。
「そこまでは………。統轄長に直接お聞きになった方が確実かと?」
「どうせ、時間あってないようなもんでしょ?
親父ここに戻ったらこの番号に連絡入れて、それとアポイントメントも入れておいてね。
アポイントメント無いから時間取れないとか言わないようにね!頼んだよ?」
声のトーンは低く、かなり怒って居ることが他人からも伺える。
翌日、藤堂から玲音に電話があった。
「どうなされたんですか?偉い剣幕で受付に来られた様ですが?」
「親父は戻ってきたの?」
「はい、なら今からそっち行くから時間、明けておいて」
「しかし、急に言われても………。私がお伺いするのではダメですか?」
「ダメだよ!昨日、アポイントメントも取ってるだろ?今からそっち行くから」
玲音は声を荒らげ一方的に切る。
藤堂は玲音の対応に凄く驚き急いで統轄長室に行く。
「統轄長。玲音様が偉い剣幕で怒ってらしゃいますが?何かされたんですか?」
「あ~。やっぱり怒っているかぁ。どうしたもんかなぁ」
「あんなに怒っている玲音様は、私は初めて見ますよ?」
「うん。多分廉の件だよね。知らないうちに話しが、まとまっているから怒っているのだと思うが。何とかならないかなぁ藤堂君」
「私に言われても………」
「どうされますか?多分もう来られますよ?」
「今ここで、居留守なんか使ったら一生親子の縁切られるよ?」
「いや、親子の縁切るのは親の方が言い出すのが一般的かと思いますが?」
そんな雑談をしていると受付から玲音が着いたと連絡が入る。
「しかたないな。応接室に通してくれ、藤堂君2時間?いや3時間?5時間かな?本日の時間調整してくれ」
「わかりました。本日の予定は全てキャンセルしますので親子の縁を切られない様に頑張ってください」
「あぁ、微力つくすよ………」と時宗は溜め息をついた。
応接室に行くと見るからに怒っている息子がいた。
「どうしたんだい?」
「どうした?では無いだろ?何で廉の一人暮らしやバイトまで俺の知らない所で決まってるんだよ?俺達、家族だろ?俺だけ蚊帳の外かよ?
俺だけ、またあの誰もいない、ただ広い家に一人で住めって言うのかよ?俺は嫌だからな?」
「玲音が嫌だと言っても、廉の気持ちも考えてあげないと。廉が望んだ事なんだから」
「なんでその相談の時、俺が居ないんだよ?」
「電話で相談されたからだよ。お前も一人暮らししたければマンションでも借りてすればいいじゃないか? 無理にあの家に戻らなくてもいいよ?ちょっぴり私やママは寂しいけどね」
「では、廉の隣の部屋借りるよ。何処か教えろよ!どうせ親父がマンション世話するんだろ?」
「玲音に廉が何処に住むか?どうするかは廉の自立したいと言う気持ちを考えると私がいいとか、悪いとか言えないだろ?
それにまだ、そうしたいと言われただけでまだ決まってはないよ」
「廉の発作が起きた時、誰か傍に居ないと対処出来ないだろ?
また、倒れたら?どんな状態か?すぐに病院に連絡も連れて行く事も出来ないじゃないか!どうするんだよ!
どうしてもダメっていうなら俺も自立する。俺も家を出て、大学も行かない。親父の仕事も手伝わない。グループとは関係ない所で働く」
「はぁ。わかったよ、私の負けだ。
だから、また揉めそうな事を言い出さないでくれ。
廉とよく相談して部屋を探しなさい。
廉には私から頼んでおくからこれでいいか?」
「廉のバイトってどこだよ?」
「あぁ、ここの秘書室の雑用だよ。
人手が足らないから手伝って貰うことにしたんだよ」
「なら、俺も他の部署でもいいからこのビル内のバイト紹介してよ」
「う~ん。探してみるよ。もうそれで許してくれよ。
でも、いい加減、廉に依存するのは卒業したほうがいいぞ?」
「依存なんてしてない。ただ廉が心配なだけだ!だから傍に居たいんだよ!
俺達、家族だろ?一緒に居てもおかしく無いだろ?助け合って生きて行っても不思議では無いだろ?
親父達だって仕事のためとか言って好き勝手に俺達振り回してきたじゃないか?」
「そうだな。わかったから落ち着きなさい」
時宗は内線で藤堂を呼んだ。
「お呼びですか?」と藤堂が入って来る。
「あぁ。藤堂君悪いが廉をここに呼んでくれないか?
後、このビル内でバイトの募集してる部署あるかい?大学生の出来るような」
「調べてみないとわかりませんが?」
「では、すぐに調べて貰えるかな?」
「それは、どう言った方ですか?」
「そこに座っているワガママ息子だよ」
「え?玲音様がバイトですか?」
「あぁ。紹介しないと家出するらしい」
「統轄長、少しお話が………」
「玲音、廉が来るまで大人しく待っててくれよ」
「あぁ、わかったよ」
藤堂と時宗は玲音を残し部屋から消える。
統轄長室
時宗と藤堂は立ったまま話し始める。
「統轄長、玲音様のバイトって無理ですよ?」
「なんでだ?」
「だって、将来自分達の上に立つの分かっている人に仕事の命令や、指示出せないでしょ?」
「言わなきゃ、わからんだろ?」
「わかりますよ!少なからず、このビル内で玲音様を知らない人間が居るわけないじゃ無いですか!」
「でも、紹介しないと家出するどころか、跡も継がないと言って居るぞ?
俺の口から言うのもなんだが、言い出したら聞かないぞ?
藤堂君が説得してくれるかい?」
「何で私なんですか?」
「何かないかな?コピー取りでも、入力作業でも、何でもいいからさ」
「いや、仕事は有るでしょうが先程も言ったように、将来自分の上に立つと、わかっている人間をこき使う度胸のある人がいるか?って事ですよ?」
「あぁ、そうだな?でも、一人だけ居るな」
「誰ですか?」
「藤堂君、君だよ!俺こき使えるのだからできるでしょ?」
「……統轄長……。では、これからは遠慮なく仕事量を増やさせてもらいます」
「あぁ。いや、いや、冗談だからね?本気にしないでね?」
受付から廉の到着が伝えられる。
「取り敢えず、この部屋にまず呼んでくれないか?」
「わかりました」と藤堂が出て行く。
う~ん。困ったもんだと時宗は自分の椅子に座りため息をつく。
「統轄長、お連れしました」
「あぁ、ありがとう。藤堂君、君も一緒に知恵貸してくれ」
「………………」
時宗は廉と、藤堂に玲音との話しをそのまま話す。
「すいません。僕の話し方が悪くて面倒かけましたね」
「廉のせいでも無いんだが……。
幼少期玲音には、私達のせいで淋しい思いしてきているから、今の生活が壊れるのが嫌なんだろうがなぁ。
でも、どうしたものかな?」
「廉様がお嫌で無ければ、秘書室で一緒にバイトされては如何ですか?
幸いそこに、お仕事を沢山作るのが、お上手な方がいらしゃいますので、仕事ならいくらでも湧いて来ますし、近い将来の自分達の仕事覚えるのにもいいかと思いますよ?」
「僕は構いませんが、その前に玲音と2人で話ししたいんですが」
「あぁ、応接室に居るから話し終わったら呼んでくれ」
応接室
ふて腐れてソファに座っている玲音がいる。
そこに廉が入って来て玲音の向かいに座る。
「お前、俺の話し最後まで聞かないで、騒ぎ起こしていい加減にしろよ?」
「廉と、話しても平行線だろ?頑固なんだから」
「お前が言うかよ!俺の病気の心配してくれるのはうれしいが、そんなに病人扱いするなよ!もう何年も倒れてはないだろ?」
「油断大敵って言葉知らないのか?」と玲音は返す。
廉は溜め息をつきながら切り出す。
「明日から、高等科卒業したら一緒に住む部屋探そう。独り独りで借りるよりシェアしたほうがいいだろ?お互い助け合いできるしな」
「え?いいの?」と玲音の表情が明らかに変わる。
「あぁ、どうせ別々に借りても、俺の部屋に入り浸るなら広い所を借りた方がいいだろ?
その代わり、もうおじさんを困らせるなよ」
「うん。ありがとう!」
玲音は、先程とは別人の様な満面の笑顔になる。
「後、バイトは俺と一緒に秘書室の仕事の手伝いだってさ。藤堂先輩に迷惑かけるなよ?
後、バイトするのだから家賃は折半で二人で払うんだからな?今までのように無駄使いできないぞ?」
「あぁ、わかったよ。でも、ひとつだけ、ひとつだけ約束してくれよ、廉」
「ん?なんだ?」
「俺に黙って勝手に決めるなよ!家族なんだからきちんと教えろよ!」
「あぁ、今回の件は悪かったよ」
3.結局のところ
数日後、部室にて
千景と玲音が不動産情報紙と物件案内見ながら揉めていた。
「パンダ!却下だ。ここからだとメディカルセンターが遠いんだよ!」
「でも、広くてきれいじゃん」
「夜、遅くなったりするから遠いとダメだ」
「じゃあこっちは?」
「2LDKしかないじゃないか?廉の部屋なくなるぞ?」
「今でも、無いからベッドだけあれば気にしないでは?」
そこに、廉がきた。
「玲音!気にするから!少しは俺のプライベート尊重しろよ!ってか、なんで千景まで一緒に住むことになっているんだ?」
「シェアしたほうが家賃安いし、廉居れば家事に食事に困らないし、寂しくないじゃないか?
それに、医者の卵が家に居るって便利だぞ?
おっ、この物件どうだ?一応3LDKだぞ?最上階だし」
「どれどれ、千景にしてはいい物件見つけたね!ここいいかも」
「どれ?」と廉が覗き込む
「お前ら家賃見てみろよ?学生が住む家賃ではないだろ?」
「俺、思うんだけど」
「ん?パンダ君なに?」
「3人で住むなら俺の家でもよくない?駅から近いし、広いし家賃要らないし、親父達殆ど居ないし、悠貴達卒業しても呼べるし~」
「なるほど、確かにあんないい立地条件と物件はないな」
「お前ら意味、履き違えているだろ?」
「えー、親父とママは喜ぶと思うよ?」
「では、千景と玲音が家に帰って、俺1人アパート借りるとするか?」と物件案内を取り上げる。
玲音と千景は顔を見合わせる
「廉、冗談だから~」
「廉!本気にするなよ!」




