進路希望
1.進路希望
【進路希望届】
この学園には、生徒に自分の進路を自覚促進する為と、学園側も生徒の希望に沿った教育をするために定期的に提出する。それによってクラス別けの材料にもなっていた。
進路希望届が配布された日、廉は秘かに悩んでいた。
玲音が進路について考えあぐねているのはともかく千景や潤、悠貴、樹里亜、美里まで皆明確な進路希望を持っている。
自分は、記憶が無くなる前は何を目指していたのか?
記憶を無くす前のことはともかくこれからは何を目指すのか?
出来れば世話になっている玲音の両親や玲音のために何か役に立つことをしたいそれは何なのか?迷っていた。
そして悩んだ挙げ句ある扉をノックする。
フロンティア学園校長室
「どうぞ」と威厳のある返答の後、躊躇いながら廉は扉の中に入る。
「どうしたの?今回は何かな?お手柔らかに頼むよ?あれ玲音君は?」と校長の唯野は扉の傍にいる少年に目を向ける。
「今回は玲音には内緒で来ました」と廉は、はにかみながら答える。
「ん?珍しいね?まぁそこに座って」
にこやかに対応する紳士は時宗達の高校時代の恩師であり、権威ある数学者で時宗や伊集院、加藤を現役でオックスフォード大学に導いたと聞いている。
「また何かの質問?数学はともかく宇宙科学とかは俺の専門外だからね。また時間貰わないと答えれないよ?」
以前に玲音が【宇宙の果て】について時宗や加藤伊集院達に質問しても答えられず校長先生に聞けと紹介されて以来、玲音は何か疑問を持つと廉を無理矢理引き連れてここ校長室に質問に来ていた。
「えっと、校長先生はおじさん達の才能を見出だしてあの有名なオックスフォード大学に導いたんですよね?」
「ん?手助けはしたけど入れたのは本人達の努力だよ?廉君もオックスフォード大学に行きたいのかい?」
「いえ、そう言うのでは無くて………」
「ん?何でも言ってごらん?一緒に答えを導き出そう。」
「自分の進路なんですが………。玲音以外は周りの者はきちんと目標を持っていて、自分も記憶を無くすまではきちんとあったのかな?と………。
まぁそれは大きく事情が変わったから以前の目標はどうでもいいのですが………。
これからの自分の目標が見いだせ無くて……。
玲音の両親と玲音の力になれる事をやりたいのですが、どうすれば良いのかと………。
校長先生ならおじさん達の事をよく知っているしから…………。」
「うむ。そうだね、将来の目標は明確な方が良いのは事実だし、有るのと無いのではなりたいものになれる可能性も違ってくる。
しかし、自分の中でやりたい事がはっきりしないのに無理矢理決めてもね。
時宗は、オックスフォードに行く間際まで何になるか?は決めて無かったし決める気も無かったみたいだよ?
まぁ半分は親の後を継ぐことになると諦めも感じてたみたいだけど………。それをうまく利用して自分は色々な企業を立ち上げて運営したいと言う気持ちはあったみたいだね。
取り敢えず英語と経済は必要だからと大学で経済を学んだけど口癖は『長い人生簡単には、自分の可能性は見出だせない』と言っていたよ?多分、あいつは今でも見いだせては無いのではないかな?
反対に誠や雅治は確固とした目標が有って考古学と海洋学に進む。と高校時代から決めていたみたいだけど三者山様きちんと自分達の道を歩いて居るよね?
自分の人生を決めるのは自分だ。自分のその可能性を見出だすのも自分だ、早い遅い早は関係は無いと思うよ?
学園としては目指す方向を明確にしてそれに向かって進んで欲しいから進路希望を書かせて居るけど自分の気持ちに正直に書けばいいのではないかい?
人生は長いんだから何時でも方向転換は出来るよね?
自分の可能性に合う自分のやりたい事が見つかる迄、色々模索するのもそれも悪くは無いと思うよ。
あと時宗達に世話になっているからとかという考えは排除して考えた方がいいね。
時宗もそんなことは望んではいないと思うよ?」
「具体的にどのような手段で目標を決めればいいのですか?」
「う~ん。そうだねえ。廉君は今何に興味あるの?」
「特に何も………」
「それはそれで困ったね。近しい人で尊敬してたり、その人の仕事に興味を持っている人も居ないのかな?」
「尊敬しているのはおじさん達や藤堂先輩や齋藤先輩です。」
「そう。その人たちの仕事で自分もやってみたいこと、自分の性格に合っているようなことはないかい?」
「藤堂先輩は死んだ親父の仕事受け継いでるし、藤堂先輩の仕事に就けば玲音のサポートにはなれますね。でも齋藤先輩の様に街を作ったり、橋や道路を作ったりするのも面白そうです。」
「そう。ならその2点を彼らの傍について色々見てみて自分にどちらが合っているか?どちらの仕事をしたいか考えればいいのではないかな?見ているうちに他の事に興味が出るかもしれないし。決めたからそれが答えとは限らないよ。私だって数学者を目指していたけどいつの間にか教育者になっている。教育者に転向したのは大学を出てからだ。それに数学を辞めたわけではないからね。自分の空いた時間を使ってできるからね。まあその時間も最近無くなってきてるのが現状だけどね。
まあ自由な発想で何がしたいか?
目標を決めればおのずと自分の道は開けてくるさ。紆余曲折はあるだろうけどね」
「そうですね。すっきりしました。ありがとうございます。」
「ところで人生には決まった答えは無いけど、数学には決まった答えがあるんだよ?隠された答えがね。ピタゴラスの定理の様に遥か昔に見つけ出された定理でさえ、数学で一度証明された定理は永遠に覆されることのない絶対的な真理なんだよ。それを探すのも面白いと思わないかい?
科学や物理などと違って時代で変化するものではないんだ。
廉君さえその気になれば、それを探してみないかい?私がサポートしてあげるよ?」
「そうですね。それも面白そうですね。選択肢にいれて色々考えてみます。ゆっくりと」
廉は訪れた時とは違い、すっきりとした顔で笑う。
2. Ability to understand each other without language.
進路希望届提出期限前日
いつもの様に廉の部屋に全員が集まりくつろいでいる。
玲音はテーブルの上に進路希望届の用紙を広げ、どの様に書こうか考え悩んでいた。
「ねぇ廉、進路は何て書いて出したの?」
玲音は、ベットに寝転がって小説を読んでいる廉に聞く。
「う~ん……。教えない……」
廉は小説から目を反らさず答える。
「なんでだよ!いーじゃん。減るもんでもないし。教えてくれれば」
「減るよ?」
「え?」
「俺の意力が減る」
「なんでだよ!俺が邪魔するとでも?」
「さぁな?」
廉は、玲音の相手はしないとばかり簡単にあしらう。
「ケチ!」
玲音は、もうこれ以上、廉は自分の相手してくれないと思い、向かいに座ってパソコンで何かしている千景に聞く。
「千景。お前は、なんて書いたの?」
「【医師】しかないだろ?もし【考古学者】とか書いてみろ。すぐに親父が飛んできてあの病院はどうする気だとか、誰が跡を継ぐ?とか、クラブ活動だとはいえ遺跡調査なんかするからよそ見をするんだとか散々説教されて、部活なんか出来なくなる。
【医師】と書いておけば、平和で親孝行になるんだよ」と言いながら廉同様、やはりパソコンの画面から目を離さない。
「ふーん。でも将来、医者以外になろうとした時は地獄だな?」と玲音は心配するが、千景は「その時は、その時さ。 」と呑気に答える。
玲音はまた用紙を見ながら言う。
「まぁ適当に書いておくかなぁ~」
(でも、なんて書けば親父喜ぶのかな?【統轄長?】あれだけは嫌だなそれに後を継ぎたいとか思われても困るしなぁ~と思いを巡らす。)
背後で悠貴と潤がテレビゲームに熱中している2人を見て、それぞれに聞く。
「悠貴、お前なんて書いたんだ?」
「決まっているじゃないですか!」
「決まっているの?」
「はい、先輩の専属ボディガードです!」
「まだ言っているの?俺、ボディガードなんか要らないよ?」
「えー」
「友達を盾にしてまで俺、生きたくないからね。今からちゃんと他の事考えなよ?」
「潤は宇宙飛行士?」
「うん、俺ブレない男ですから」
「……本当にブレないね」と玲音は苦笑する。
「うーん、うーん、あぁ何しよう!」と玲音が嘆くと。
「もう決まっているじゃないですか。パンダ君」と千景が言うと、それに呼応したその場の全員が声揃えて言った。
『統轄長!』
「それが、一番嫌なんだってば」と玲音は全否定する。
「それ聞いたらおじさん泣くな」と廉は呆れて言う。
「この、親不孝者め」と千景も言う。
「もし、俺が統轄長になれば、廉。お前を秘書にしてこき使うぞ!」と玲音は廉に言う。
「何で、そうなるんだ?」と廉はやっと本から目を離し答える。
「親の跡を継ぐならそうなるじゃんか?」
「まぁ、それはそれでもいいぞ。おじさんやおばさんには世話になっているからな。存分にお前の面倒みてやるよ。
但し、俺が秘書なったら、お前は遊ぶ暇なんてないからな!みっちり仕事させてやるよ!」と廉は笑いながらいう。
「あー、廉が【統轄長】で俺が【秘書】でどう?」と玲音は訂正してみるが廉は反応せずまた、本を読んでいた。
千景達がそれぞれ自分の部屋に帰って行った後、まだ廉の部屋に居座りテレビを見ながらソファでくつろいでいる玲音に廉が隣に座って聞く。
「結局、なんて書いたんだ?玲音」
「【自分の無限の可能性簡単には決められない】と書いた」
「そう言う廉は?」
「………。同じだ…」
「え?」
「【まだ自分の可能性を見出だせません。】と書いた」
玲音は嬉しそうに「以心伝心だね!」と言った。




