人間万事塞翁が馬
1. Joy and sorrow are today and tomorrow.
遺跡の発見の翌日の昼過ぎ、お祭り騒ぎの泡沫。
昨夜は、遺跡発見の祝賀会が催され捜査関係者全員が未明まで喜びを分かち合った。
ホテルのレストランに二日酔いの大人達がいた。
「あ~マジで飲み過ぎた。頭が痛い」と齋藤は頭を抱えながら藤堂に訴えるが、藤堂は返答するのも辛いみたいで真っ青な顔で座りこんでいる。
そこに時宗と加藤と伊集院がやはり二日酔いだと分かる風貌でやって来た。
「藤堂君、齋藤君おはよう。二人とも早いね」と時宗は自分の声が頭に響くのか小声で声を掛ける。
二人はそれに応え出来る限りの機敏な行動で立ち上がり頭を下げて挨拶を返すがどう見てもスローモーションの駒送りの様に機敏さは何処にもなかった。
「あ~流石に飲み過ぎた。今日は、仕事にならんよな齋藤?」といいながら加藤が齋藤達の近くの席に座る。
「はぁ、船の操縦も飲酒運転に引っ掛かるくらい酒が残ってます」と齋藤は手を頭に宛ながら愛想笑いしながら答える。
「今日は、リゾート開発部も海洋開発部も祝日でいいんじゃないか?」
加藤は時宗に遠回しに休みにしろと言う。
「まぁ世紀大発見が出来たのは両部の功績も大きいからね。今回は認めるよ。でも、昨夜の祝賀会の二日酔いで誰も仕事してないんじゃないか?」
「多分、皆有給出して寝てるな。しかし、俺達はこれからの発掘計画を話し合わないと時宗、お前明日には、東京に帰るんだろ?」と伊集院は言う。
「あ~うん。本社で改めてでいいんじゃないかな?俺、夏休み中だしさぁ~。改めての時間はそこの藤堂君から連絡してくれるよ」と時宗は言う。
「お言葉ですが統轄長。本日私も夏休みですのでその件に就きましては就業時間内にお願いします」
青ざめた顔の藤堂が何時も迫力のある言葉からは想像出来ないか細い声で反発する。
「うん、そうだね。後日、藤堂君が連絡するって」
勝手に拡大解釈をしながら時宗と伊集院は加藤の傍に座る。
そこに玲音をはじめとする子供達がやって来た。
「なに?親父、青い顔して」と元気良く大きな声で話しかける。
「玲音!お願いだから声のトーン下げてくれないかな?ここに居る人達は皆、頭が痛いくて参っているのだからさ」
「自業自得じゃん」と玲音にキッパリと言われて一同苦笑している。
千景が加藤の所に行き、目の前席に座り話しかける。
「加藤の伯父さん、お願いが有るのだけど………」
「ん?珍しいな。千景が俺に頼み事とは。しかし、その願い事の内容を聞く前に1つ条件がある」
「何?」と千景は不思議そうに言う。
「俺の事を【伯父さん】と呼ぶのは無しだ!
一気に老けた気がする。言霊の威力は凄いからな。呼ばれる度に老けるのは御免だ!」と加藤本気か冗談か分からない口振りで言う。
それを聞いた伊集院が「確かに言霊には不思議な力が有るが、お前には絶対に効かないよ!
それに甥が伯父さんと呼ぶのは当然だろ?」
「なら千景!こいつの事はこれからは伊集院教授では無くて伊集院のおじさんと呼べ」
「え?雅治!何で俺まで巻き込む?」
「俺もあの学園客員教員だ!一応博士号は持っているんだからお前と同じ地位だろうが!常勤か非常勤かの違いだけだ。俺がおじさんならお前もおじさんだよ!」
「…………。千景君、このバカの願い叶えてやってくれ」と伊集院は降参とばかり折れる。
千景は苦笑しながら「解りました。加藤教授と呼べばいいの?」と聞く。
「普通に教授は要らんよ。俺はそんなかしこまった敬称は似合わないからな。それで頼みとは何だ?」
「俺、見つかった遺跡の発掘調査に今後も係わりたいんだけど………。
親父は医療以外の事に俺が係わるのは賛成しないから俺が言っただけでは反対するのが目に見えているからさ。
母さんが親父は何時も雅治兄さんには頭が上がらないとか言っているから………。加藤さんが口添えしてくれれば折れると思うから、お願いします。親父を説得して下さい。」
「ふむ。和也かぁ~。まぁ、和也を言いくるめる事自体は容易いが、どうやって引き継ぎこの遺跡調査に係わるんだ?」
「千景君、将来考古学の道にすすむか?」と伊集院は嬉しそうに言う。
「俺が考古学者になる~」と玲音が楽しそうに話しに飛び込んできた。
すると時宗は「玲音本当に考古学者になりたいのか?この前は宇宙学者とか言ってなかったか?」と聞くと
「候補の1つで!」と答える。
「いくつ候補が有るんだか?」と時宗は呆れながら言う。
「だって、まだ成人するまでに7年も有るのに1つに絞るのは、勿体ないじゃんか!」
「これもやりたい!あれもやりたい!と広げると器用貧乏にしかならないぞ」と時宗は苦言する。
「まぁ、お前達が夏休み一生懸命に探し回って見つけた遺跡だ。係わりたいのは当然だろうが………。中等科に考古学の専攻はないしな」と加藤は言う。
「クラブ活動としてやればいいんではないか?」と伊集院が言う。
「顧問は誰がやるんだ?兄貴か?」と時宗が言うと伊集院が「時宗、そのうち兄貴に呪ろわれるぞ?」
「いや、既に呪われているよ」と加藤は言う。
「なんでだよ?」
「その理由知りたければ兄貴に直接言って見ろよ」
時宗はちょっとの間考えを巡らし苦笑しながら言う。
「…………。ちょっと辞めとくよ」
「クラブ活動の申請は校長に、予算は理事長に、顧問は誠でいいんじゃないか?
あの学園のクラブの詳しい取り決めは知らんが、クラブ活動で何しようと千景の自由だ。和也が文句つけようが無いだろ?それでも文句を言うなら俺が許可取ってやるよ」と加藤は言う
「それより雅治を副顧問にして名前出せば和也も文句は言わないのでは無いか?
ただ成績は今より落ちないならな」と誠は言う。
「ゆうだい校長先生!」と玲音が目を輝かせる。
「玲音君、校長先生の名前は【たかひろ】だから【ゆうだい】では無いからね」と伊集院は苦笑しながら言う。
「ん?親父何時も【ゆうだいの兄貴】って」
「玲音、あれはニックネームのような愛称だから。校長先生の名前は【ゆいのたかひろ】って言うんだよ」
「ならニックネームでゆうだい校長先生でいいじゃん?俺の中では【ゆうだい】って感じするもん!」
「時宗そっくりだな?」
「親子ってここまで似るんだな?」
伊集院と加藤は時宗と玲音を見比べながら言う。
「……………。玲音、俺達大人は別として生徒が校長先生に向かって愛称で呼ぶのはねぇ~。ちゃんと名前で呼ばないとね」
時宗は苦笑しながら言う。
加藤と伊集院は小声で「教師なら良いのか?
生徒が担任教師にそのニックネームで呼んで居たよな」とこそこそ話す。
「お前ら余計な事を囁くなよ!」
2.明らかになる衝撃の現実
子供達は昼食を取る為に席に着き次の話題に移っていた。
「ねぇ、潤。夏休みの宿題は何処までやってる?」
「ん?全部終わってるよ?悠貴は終わってないの?夏休み明日までだよ?」
「え?潤。何時宿題していたの?」
「何?悠貴、まだ終わってないのか?
宿題提出を怠ると次のテスト各教科-30点の減点だぞ?また追試か?そのうち退学になるぞ?」
千景は呆れながら言う。
「ええっ!玲音先輩は?先輩も済んだの?」
「ん?俺?俺は大丈夫だよ?ちゃんと廉に頼んで置いたからさ」
「え?ずるい!」
「廉が本当に玲音の宿題までやっているのか?」
「ん?写させて貰うんだよ。廉が俺の分も書いてくれるわけないじゃんか?筆跡でばれるし」
「…………」
一同に沈黙が走る。
「ん?どうしたの?」
「もしかしてお前、全然宿題に手をつけて無いのか?」
「うん。だって色々忙しかったじゃん?」
「………」
潤も悠貴も千景も唖然としている。
おそるおそる千景は玲音に「宿題は持って来てるか?」と聞くと玲音は「うん持っては来てるけど………」
「なら、今すぐ取りかかれ!」と大きな声で言う。
その声に周りの大人と玲音はびっくりしている。
「いや、写すだけなら明日1日あれば終わるからさ」
「アホか!皆一緒の宿題な訳あるか!
各々の不得意科目に重点を絞って出題されているから廉も俺も玲音も各々出題が違うんだよ!写せるかよ!」
「え?ええええぇ!」
玲音は断末魔のような奇声を発し青ざめる。
「玲音どうした?」
大騒ぎしているので時宗はじめ大人達がびっくりして駆けつける。
理由聞いた大人達は呆れ返っていた。
「玲音、お前さっき俺達に自業自得だと言ったがそのままお前に返すぞ?」
悠貴と玲音は宿題を急いで宿題を持って来る。玲音は、丸々手付かずで悠貴も半分くらい残っていた。
大人達は毎日、野山駆け回り海中にダイビングを繰り返して部屋に帰っても疲れで直ぐに寝てしまうのは解らないでもないし、流石にこのまま見放すのもと言うので加藤の仕事部屋に移り皆で悠貴と玲音の宿題を手伝うはめとなった。
「う~ん二日酔いで歴史って……。中等科でこんな難しい事習ったっけ?十碧、これなんだっけ?」
「拓哉。なんで一番不得意な歴史を取るんですか?それは伊集院教授に任せて数学か物理を解けばいいでしょうが!時間がないんですよ!」
「玲音、これは貸しだからな?出世したらこの貸しはきちんと返せよ!」と加藤は玲音の肩に手をあてながら言う。
「うん。わかってるよ!だからどんどん解いてよ!あっ親父!英語は俺やるから国語してくれよ!」
「時宗、これ兄貴にバレたら『我が校の教師の癖に生徒の宿題を手伝うとは』とかなんとか言われて、かなり俺、絞られそうな気がするんだが?
それにこれは理事長云々とまた他の父兄から言われないのか?」
「大丈夫だよ!誠、兄貴が採点するわけでは無いからさ。わからないよ。清書は本人達がするし、それと今俺は一般生徒の親だから理事長云々は関係ないよ!
それよりさっさと悠貴君の歴史解けよ!まだ玲音の歴史残って居るんだぞ!」
怒号が飛び交う中、夕刻やっとすべての宿題が終わった。
時宗を除く大人たちは「親って大変だな………。子供が居る一般家庭の夏休みの終わりは大体こうなのか?」と呟く。
新学期が始まり千景と玲音は校長室に出向き倶楽部の趣旨を説明し許可を求めた。
唯野は「クラブ設立は生徒会の規則に基づき正式な申請を行えば認めるよ。
但し、クラブ活動の内容が危険を伴う事もあるので発掘現場には顧問と副顧問の同行を義務付けるからね」と快諾してくれた。




