Transformer gate
1.トランスゲート
夏休みも、残すとこ後5日。海底探査は暗礁に乗り上げていた。
近い所まで迫っている感触はあるものの、見つからない。
探査機だけでなく、玲音や、悠貴をはじめ加藤とその部下も可能性の高そうな所を手分けして実際に海に潜って探しているが手掛かりすら見つからない。
しかし玲音達、子供は見つかろうと見つからなくても気にせず夏休みの冒険をそれぞれが満喫し、それなりに楽しんでいた。
特に玲音にとっては今までの人生で、朝から晩まで心打ち解けた友達や気心知れた人達と一緒に楽しい時間を過ごす事は今までに無ったことで、とても喜んでいた。
敢えて心残りなのは、廉が傍に居ないと言うことだけだった。
強い日射しの元、大人も子供もみんな日に焼けて真っ黒になっていた。
千景は玲音を見て笑いながら、「今ならパンダ事件、隠せたのにな」と揶揄する。
それに応えて玲音は、「今はみんな、黒熊だよ!」と笑いながらはしゃいでいた。
夜になり、玲音達は本島の宿泊先のホテルに帰った所で、ばったりと伊集院と出会った。
玲音達の探索班は、何時も加藤達のグループと行動しており、伊集院とは行動が別で、殆ど供にすることはなく話す機会もなかなか無かった。
伊集院は、大半をホテルの事務所にこもり、廉達の送ってくるデータを基に古文書と情報の照合や解析して可能性高そうな場所を実際に探索している加藤や他のグループに無線で指示を送ったり、探索箇所が被らない様に調整とかを行っていた。
「今日は、雅治と一緒では無いのか?」
「ん?さっき迄は一緒にいたよ?
船でまだやらなければいけない事が有るから先にホテル帰っておけってさ」
「そうか、ならちょうどいい機会だから俺と夕食を一緒に食べようか?」
伊集院に誘われてホテルのレストランで食事をともにしながら、楽しく色々な話をした。
その中で玲音達はなぜ?世界中の考古学者がこの遺跡を探しているのかと言うことに興味を持ち、理由を聞いた。
「この遺跡は、実は世界のあちこちに、今探している遺跡に繋がるとされているゲートらしき跡が発見されているんだ。
その発見された遺跡の壁画とか、象形文字には、空間移動ゲートや、時空移動ゲートらしき事が書かれているんだ。
ただ今現在、発見されているゲート跡は転送先、または、帰還口、すなわち出入口だけのドアみたいなものなんだ。
ゲートからゲートの移動は出来ないようで、本拠地にあると思われるトランスゲートを介して移動できるのではないかと仮説しているんだ。
その移動元となるトランスゲートが存在すると思われる本拠地が今、探している遺跡なんだ。
だから本拠地が分かれば、トランスゲートが本当に存在するのか?それは、どういった物なのか詳細に分かるだろうと注目されているんだよ。
昔の文明に、そんな技術力が本当にあったかは不明だが、でも実際にゲート跡は何ヵ所か発見されているからね。
一説には神々が世界中を移動するために作らて、ラグナロックにより破壊され、海底に沈んでいると言う説もあるんだ。
もし、それが事実なら、神々はそのゲートを使って時間、空間越えて出現していたわけだ。神出鬼没の文字通りの裏付が出来るわけだね」と教えてくれた。
「凄いね!時空移動できるって過去にも、未来にも、行けるってことでしょ?」と玲音は目を輝かせながら聞く。
「そうだね。過去か未来に行きたいのかい?」と不思議そうに伊集院は玲音に聞く。
「うん、是非行ってみたいな」と嬉しそうに答える。
「そうか、では明日からも頑張って探してみようね」と伊集院は楽しそうに言う。
「うん、絶対みつけるよ!」
その時の玲音は、ただの興味本意でトランスゲートを見つけたいと思っていたが、この10年後から、人生のすべての時間を費やし探し求める事になるとは、夢にも思っても居なかった。
玲音は部屋に帰って、直ぐにほぼ日課の様になっている入院中廉にネット通信を使い連絡した。
「廉、結局来なかったじゃないか?
毎日、毎日、明日には許可もらうとか言ってさぁ」
玲音はふて腐れながら言う。
「仕方ないじゃないか?文句は五十嵐先生に言ってくれよ。
それに、玲音こそ、『俺が世紀の大発見してやる』とか言ってた癖に、まだ見つかっていないじゃないか?そこに居られるのも、後3日だろ?ダメじゃないか」と廉は玲音を煽る。
「後3日も、あるよ!」
「あぁ、そうだな。昨日お前、大きい岩の辺り潜っていたよな?」
「うん、すごく大きい岩が連なっていてかなり迫力あったよ」
「1ヵ所だけ、海底と岩との間に、人が一人くらい通れる隙間なかったか?」
「さぁ、どうだろう?。でも、どうしてそんな事わかるの?」
「送られて来た画像からチラッとみえたから」
廉はさすがに夢で見たからとは言えず、ごまかしてはみたが………。あの場所が夢に出て来た場所に、酷似していた。
「そっかぁ、なら明日またそこ調べてみるよ」と玲音は気楽に答える。
「うん、調べて見てくれ」と廉は頼んだ。
「ねね、廉!あの遺跡、トランスゲートが有って時空移動できるかもって話だよ。さっき伊集院教授から聞いたんだ。
もし、本当に遺跡発見して、時空移動できるなら俺、過去に戻ってさぁ~。廉、お前を事故遭わないようにしてやるよ。そうすれば、記憶も両親も無くならない。いい考えだろ?
あっ、もうこんな時間だ。千景に怒られるから切るね!じゃあまた、明日な!」と一方的に通信が切れた。
『過去に戻って?』
廉は玲音のこの一言が胸に響いた。
(そう、ずっと戻りたい。そう強く願っていた。ずっと…長い間。でも、それは、玲音に自分と両親の事故を回避してもらうためか?
いや、違う、もっと……何か他の……なんだ?)
急に頭が割れるように痛みが走る。
脳波計、心電図、脈拍、呼吸数全ての計器が異常をを示し、警報を鳴らしナースステーションに知らせる。
看護士がびっくりして飛んでくる。
「どうしました?先生呼びますね」
病室は騒然としていたが、廉の意識は徐々に遠くなっていった。
廉は夢の中にいた。
見えているのは、玲音?おじさん?面影は玲音だが歳はおじさん位だ。
その男に向かって何処で見た事のある紳士が「もう、遺跡調査なんか辞めて、仕事に専念してください」と聞いた事のある声。
しかし、男は「ちゃんと仕事はこなしてる。自分の時間どう使おうと、私の勝手だ」と頑として反論している。
「気持ちは分かります。私だって……。しかし、少しは体を休めないと体が持ちませんよ?倒れたらどうなさるですか?」
(心配そうに男に忠告して居るのは藤堂先輩?でも、歳を取り過ぎている。)
後を向き玲音らしき姿が小さくなっていく。
(…………。あれは成長した玲音?でも、かなり、疲れ果てて、哀愁に満ちていた。
藤堂先輩らしき人物も今とは違い、かなり哀しそうな雰囲気を漂わせていた。)
廉が目を醒ますと心配そうに付き添ってくれているメアリーがいた。
「廉ちゃん気がついた?よかったぁ~。
また、意識なくなったと連絡受けてビックリしたのよ。気分はどう?」
手をしっかりと握り心配そうに言う。
「あぁ、大丈夫です。わざわざすみません。仕事は大丈夫ですか?」
「こんな時に仕事の心配何かしなくていいのよ?ごめんね。ここ最近、仕事が忙しかったのであまり居てあげれなくて」
「いや、毎日、顔見せてくれて感謝してますし、大丈夫ですよ。
反対に忙しいのなら回数減らして貰っても、樹里亜も毎日来てくれているし、玲音や千景も毎日通信してくるし、何よりここ完全看護ですから」と廉は申し訳なさそうに言う。
「そんな寂しい事言わないで。貴方は私の大切な息子よ?
親が病気の息子を放り出して仕事に集中なんかできないわよ?
そうそう、脳には甘いものがいいんだって、シュークリーム買ってきたわ。
廉ちゃんはシュークリーム好き?
ここのシュークリームは美味しくて結構有名なのよ。予約しないと午前中で売れ切れるの。だから、なかなか手に入りにくいのよ。
廉ちゃんと食べようと思って予約しておいたの。
でも、病院での飲食は怒られるから五十嵐先生と玲音には、内緒ね!」とメアリーは楽しそうに言う。
「玲音?」と廉は不思議そうに言う。
「そう、内緒よ?これ、あの子の大好物なの!多分、この事を知ると、自分にないのは、ずるいとか言って絶対拗ねるわよ」と笑いながら廉にシュークリームを渡す。
「それは、内緒にしておかないと大変ですね」と廉はメアリーと一緒に笑いながらシュークリームを食べた。
そのシュークリームは初めて食べるはずなのに懐かしい味がした。




