50 キャロットケーキとあのころの話
巨大な猪型の魔物が、姉様に向かって突進していく。けれど姉様は怯まずに、魔物をにらみつけて手を前に出す。
「――フ・グホン・バーロ!」
姉様の鋭い声とともに放たれる、大きな火の玉。肉が焼ける臭い、そして魔物の悲鳴。ぼう、と炎に包まれた魔物は、もがき苦しみながらも尚も進もうとする。姉様は即座に再び『火の大玉』を、今度は無詠唱で使い、その魔物に止めを刺した。
消えていった魔物に、姉様はいまだに緊張の残る顔で息を吐いて、残されたアイテムを回収した。曲線を描く大きな牙は、今回の授業の課題のアイテムである。
「姉様、お怪我はありませんか!?」
周りに他の魔物がいないことを確認した後に、姉様に駆け寄る。姉様はふにゃりと表情を和らげて「大丈夫だよ」とうなずいた。
「一回目の『フ・グホン・バーロ』で止まってくれると思ったから、そのまま向かってきたのにはびっくりしちゃったけど」
「そうですよね……。私だったら、もしかしたら対応できなかったかもしれません。本当にすごかったです!」
「えー、セレネだったらたぶん私よりも早く反応したんじゃないかな? ふふ、でもそう言ってくれるのは嬉しいなー。ありがとう、セレネ」
にこにこ笑顔の姉様に癒されつつ、内心ほんのちょっぴり落ち込む。
……謙遜とかではなく、本気で言ったんだよね。今回みたいな場合は火への苦手意識が、うんぬんというわけではなく、私は戦闘時のとっさの判断が遅れてしまうことが多い。いや、多い、というほどでもないのだが、それでもそういうことがあるのは事実なのだ。うぅ、もっと頑張らなきゃ。
ここ最近の姉様の成長ぶりは目覚ましい。魔物を殺すことへの罪悪感は残っているようだが、ためらったり止めをさすことができなかったりということはなくなった。魔法の扱いに関してはたまに危ういときもあるが、魔物との戦闘に関しては、明らかに私よりも上手くなった。
……強く、なったなぁ。
喜ばしいことだし、私だって嬉しい。すごく嬉しい。でもでも、寂しくなってしまうのはどうしようもないのだ。すみません姉様、許してください……。
今日の課題は、猪型の魔物の牙を三つ入手すること。転移石で少し遠い地方に来ているのだが、この辺りには猪型の魔物が小さいものと大きいものの二種類いる。大きいほうはかなり気性が荒いため、私たちは主に小さいほうを狙って戦闘をしていた。
そして、さっきの牙が三つ目。順調に課題を達成できたというわけである。
「……最近の貴女は、随分と強くなりましたね」
感心した表情で、狐が近寄ってくる。やっぱり身内贔屓を抜きにしても、姉様の成長ははっきりわかるらしい。えへへ、と笑いながら、姉様は「ありがとうございます」とお礼を言った。
最初のころに狐に散々に言われていたことを思うと、そんな可愛らしい顔を見せなくてもいいのに、と少しもやっとしてしまった。別にもう、狐のことは嫌いではない……というか、むしろ好ましく感じ始めているけれど、それとこれとは別の話だ。
ちょっと微妙な顔をしてしまう私をよそに、姉様と狐は会話を続ける。
「セレネを守れるくらい強くなるって、言いましたから! まだまだですけど、ちょっとずつ頑張りたいんです」
「ああ……確かに、以前そんなことを言っていましたね。あのときは随分長い道のりだと思いましたが、そうでもなかったのかもしれません」
狐がちらりと視線を向けてくる。むっ、私の成長が遅いとでも言いたいんですか?
しかし、姉様と比べてしまえば私の成長なんて微々たるものだというのも事実。大人しく狐の言葉を受け止めておくことにする。
「本当に姉様は強くなられましたからね……。すでにもう、私は守られていますよ。今日だって姉様のほうが活躍されていましたし」
「そうかな? セレネとそんなに変わらなかったような気がするよ?」
「……まあ、私があくまで私が感じていること、ですが。姉様が強くなられたのは確かですし、私もますます頑張らなくてはいけません」
「うん、一緒に頑張ろうねー!」
満面の笑みで言ってくださる姉様に、「はい!」と元気よくうなずく。
さっきのもやっ、は忘れよう。狐に向けた笑顔も可愛かったが、今の笑顔のほうがもっともっと可愛いんだから。……い、いや、それはそんなに関係ないんだけど。うん。そんな大人気ない対抗心燃やしてたりしてません。
「……二人とも、強くなった」
いつものように心臓に悪い、不思議さんの声。少なくとも週一回は必ず聞いているのに、どうしていつまで経っても慣れないんだろうなぁ……。
彼にも姉様と一緒にお礼を言って、私たちは学院に戻ることにした。あまり外に長居して、またグラニエのように強力な魔物に出くわしては困るし。
そして、先生たちへの報告を済ませ、それぞれの教室に帰ろうとしたところで。エリクに声をかけられた。
「今日、キャロットケーキ作っていってもいい?」
「え、いいけど……なんで?」
唐突な提案に目を瞬いてしまう。
エリクのキャロットケーキは大抵、私を元気付けたいときか、機嫌を取りたいときに作ってくれるものだ。今私は落ち込んでるわけでも怒ってるわけでもないんだけど……?
「じゃあ今日の夕方、お城の食堂でね」
私の問いには答えず、エリクはにっこり笑う。うなずく私の戸惑いは伝わっているはずなのに、詳しいことは言ってくれなかった。
エリクのキャロットケーキは特別感も込みで好きだから、なんでもないときに食べるのはちょっぴり微妙な気分。……嘘です、たまにならすごく嬉しい。どうしていきなり作ろうと思ったのかはわからないけど、たぶん、後でちゃんと言ってくれるだろう。
顔がついにやけてしまったのか、昼休みにマリーちゃんたちとお弁当を食べていたら、「何かあったの?」と興味津々に訊かれてしまった。エリクにキャロットケーキを作ってもらえることになったと言ったら、生暖かい目で見られた。な、なんですかその目……。
* * *
帰ってから自室でゆっくりしていたら、一時間ほどでベルが呼びにきた。予想よりも早かったなぁ。どうやら帰ってすぐに作り始めてくれたらしい。
読んでいた本を閉じて立ち上がると、ベルがふふ、と小さく笑った。
「……何、ベル」
「いいえ、失礼いたしました」
そう言いながらも笑みは消さない。……う、耳を見られているような? ベルしかいないからと気を抜いてしまったせいで、嬉しがっているのが丸わかりだったのかもしれない。
耳に力を入れて、こほんと咳払いをする。
「今日は姉様はいるの?」
エリクがキャロットケーキを作ってくれるときは基本的に食堂で一緒に食べるのだが、二人きりの場合と姉様も合わせた三人で食べる場合がある。ほとんどは三人なんだけど。
今日はどっちだろうと思って尋ねると、エリクだけだという答えが帰ってきた。……うーん、本当に何の用だろう? 落ち込んでいるつもりはないし、二人きりで話すようなことは何もない気がする。
……しかし、二人きりかぁ。嬉しいけど、やっぱり緊張する。
ひとまず、ベルと共に食堂に行くことにした。
すでに座って待っていたエリクは、私のほうを見て軽く手を上げて微笑んだ。緊張を隠しながら、私も笑い返してエリクの向かいの席に座る。その傍で、ベルは静かにお茶の準備をし始めた。
ベルがお茶を淹れ終えるまで、私たちは無言で過ごした。普段ならこういう時間にもたわいない話をするのだが、なんとなく喋らないほうがいい気がしたのだ。
姉様を呼ばなかったということは、エリクは私と二人だけで静かに話したいということ。その前段階におけるこの時間に、ベルもいる空間で普段のように話すのはなんとなく違う。たぶん、エリクも似たようなことを考えているから黙っているのだろう。
ソーサーにのったカップを私たちの前にことりと置き、ベルは「では」と下がっていった。申し訳なく思いながら、彼女にお礼を言う。ベルがいないと二杯目以降の紅茶を自分たちで用意することになり、最高においしい状態では飲めなくなる。それはベルにとっては不本意なことで、本当ならずっとここにいたいはずなのに、私たちの気持ちを汲んで出て行ってくれた。たぶんドアの前に控えてはいるだろうが、普通に話している分には声は届かない。
ベルが扉の向こうに消えるのを見送り、紅茶を一口飲んでから、ようやく私は口を開いた。
「それで、今日はどうしたの?」
「んー、特に用件、みたいなのはないんだけど。最近、セレネと二人だけでゆっくり話してないなって思ってさ。図書室だとそんなには話せないし、朝練のときは話すって感じじゃないから」
……確かにそうなのだが。
それだけだろうか、と窺うように見る私に、エリクはお皿にのったキャロットケーキを差し出した。ふんわりしたキャロットケーキはすでにいくつかに切られていて、中からはクルミやオレンジピールがのぞいている。おお、今日はちょっとだけ凝ってるバージョンだな。やった。
「……私、何か落ち込んでるように見えた?」
フォークを持ちながら、そうっと訊いてみる。
「いや、そこまででもないかな。ちょっとは落ち込んで見えるし、寂しそうにも見えたけど」
う、やっぱりエリクにはバレてたか。
ちょっと視線を逸らしつつ、キャロットケーキを口に運ぶ。……エリクのケーキは本当にいつも美味しいなぁ。にんじんのほんのりとした甘みに頬が緩んだ。
「美味しい?」
「……うん、すごい美味しい」
よかった、とどこか安心したようにエリクは笑った。
「セレネは昔から、ほんとキャロットケーキが大好きだよね」
「……まあ、そうだね」
エリクが作ってくれるものだから尚更、とはとても言えなくて、曖昧にうなずいた。
そういえば、エリクがキャロットケーキを作ってくれるようになったのはいつだっただろうか。最初に作ってくれたときは、まだエリクのことが苦手だったことは覚えてるんだけど……あと、そのときのケーキが正直あまり美味しくなかったことも。
もう一口、目の前のケーキを食べて、その美味しさをしみじみと噛みしめる。意味合いは違うが、今日はよく人の成長を感じる日だなぁ。
「全然僕に心開いてくれなかったから、頑張ったんだよねぇ。ディアナにセレネの好きなもの聞き出してさ」
懐かしそうに言われた言葉に、「そうだったの?」と目を丸くしてしまった。確かに、どうして急に、と当時は思ったのだが、わざわざそんなことをしていたのか。
初めて知った事実が嬉しくて、なんだかそわそわしてしまう。あっ、耳! 動かさないようにしないと。エリク相手じゃあんまり意味ない気もするけど、何も意識しないよりはましだろう。
「そうだったんだよ。あれくらいから、セレネがちゃんとこっちを見て話してくれるようになったから嬉しかったな」
「……うん。ありがとう、エリクちゃん」
昔の呼び名で呼べば、う、とエリクがちょっと困った顔をする。笑ってしまいそうになるのを抑えて、私は紅茶を飲んだ。
「その呼び方はやめてよ」
苦笑いしながら、エリクも紅茶を一口飲む。
今でこそ美少年だということがわかるような美少女っぷりだが、幼いころに男女の体格差や声の差などあるはずもない。男の子みたいな名前だとは思ったし、僕という一人称を疑問に感じたものの、あまりに可愛かったので、出会ってから結構長い間、エリクが女の子だと勘違いしてしまったのだ。
そして男の子なのだと気づくまでに呼んでいたのが、『エリクちゃん』。呼ぶたびに何か言いたげな顔をしていたんだから、私も早く気づくべきだった。
……今思い出しても、いや無理だよな、と思ってしまうけども。
「そもそも僕、ちゃんと男物の服着てたよね?」
「男物の服着てたって美少女は美少女だから」
見た目はね、と心の中で付け足す。中身が悪い、と言いたいわけではない。……エリクは昔からエリクで、優しくて、格好よかったから。
精神年齢的に考えれば、あの頃のエリクは私より随分と年下だった。今の私はもう、身体に引きずられているというか、たぶん普通に十五歳としての意識なんだけど。……そう思うと、私の精神は生まれてからまったく成長してない?
と、とにかく、姉様もエリクもあの頃はまだ幼かった。そんな二人に救われたことを、思い返すたびに情けなくなってしまう。
姉様に救われたのが、五歳のとき。エリクに救われたのは、七歳のとき。
こうしてはっきりと年齢を考えてみると、いかに二人がすごかったのかわかる。セレネとしての私は置いておいて、前の私がそのくらいの歳だったときは、ただ毎日を無邪気に遊んで過ごしていた記憶しかない。人に優しくする、という最低限のことはできるだけやっていただろうけど、それだけだ。
『セレネは、ディアナが大好きなんだよね』
ふと、記憶の中の声が耳に蘇った。
『このままでいい、と思う。……うーん、このままが、いいんじゃないかなぁ』
『セレネと仲よくなりたかったら、僕ががんばればいいんでしょ。大丈夫、がんばるよ!』
人間とも思えないほどに、可愛い男の子が。
にこにこと、人間味の溢れた笑顔で、私に言う。
『だから、セレネはそのままのセレネで、いいと思うなぁ』
――好きになったきっかけは、たったそれだけの言葉。
忘れた日は一日としてなかったが、ちゃんと思い出したのは久しぶりだった。
少なくなった紅茶に映る自分の顔は、なんとも言えない表情をしている。もともとそれほどはっきりとは映っていないから、という理由もあるけど。
――転生したという事実を受け入れられたのは、姉様のおかげだ。その頃の記憶も、大切に大切に覚えている。
そして、姉様に救われてから。私は姉様に依存した。シスコンという表現さえそぐわないくらいに、ずっと姉様の傍にいて、ほとんど姉様としか喋らなかったのだ。
そんな私に、最初は微笑ましく見守ってくれていた周りの人たちも、次第に困った顔をするようになっていった。母様でさえ、私をどう扱ったらいいかわからないようで、あまり話しかけてもこなかった。
ディアナ様が疲れてしまいます、とか、セレネ様は王女なのですから……とか。そんなことを言ってくる人が、多いとは言えないけれど少ないとも言えないくらいにはいた。あからさまに、姉様から遠ざけようとする人もいた。
変わらなくては、と自分でも思っていた。
それでも私は、まだ怖かったのだ。姉様以外の、この世界が。……自分さえも。転生したと言う事実は受け入れても、あのときはまだ『人間ではないものに転生した』という事実は受け入れられていなかった。
姉様に縋るしかなくて、なのに、それさえも他人からは否定された。
そこにもたらされたそのままの私を肯定してくれる言葉に、どれだけ救われたか。
――そのままでも、いいんだ。……そっか、いいんだ。
そう思うと逆に、このままではいられない、と強く感じて。姉様以外にも目を向け、関わるようになった。二人のおかげで、次第にこの身体も受け入れることができた。
だから、今の私があるのは姉様のおかげで、エリクのおかげなのだ。
あの言葉を言われたときにも、ありがとう、とは言った。……大泣きしながら。
それ以降、改めては言ってこなかったのだけど。
「……あの、ね」
カップをソーサーに置いて、エリクの目を見る。姉様と似ているようで、けれどまったく違う青色の瞳が、私を見つめ返す。
エリクに対して素直になりたいと思ってきたが、これは素直とかそういう問題じゃない。照れることでもなく、言わなくてはいけないことだ。
「あのときのこと、ちゃんとお礼が言いたいんだ」
「あのとき?」
きょとんと首をかしげるエリクは、それが示すのがいつなのかぴんときていないようだった。
「昔、そのままでいいって言ってくれたでしょ。えっと、最初のキャロットケーキ作ってくれたときより前、かな」
エリクの言葉に救われたとはいっても、そう簡単に態度は変えられなかった。仲良くなりたいし、気になってはいたが、警戒心を完全には解けなかったのだ。一年くらいかけて、徐々に仲良くなっていった。
私の説明に、エリクは「ああ」とうなずいて、そしてまた不思議そうに首をかしげる。
「そんな改まってお礼言われることだった?」
「……私にとっては、そうだったんだよ」
救った側と、救われた側。そこにはやっぱり、認識の違いが出るんだろう。
わかっていたから、そう尋ねられるのはショックではない。私にとって大切な記憶なのだという事実があれば、それだけでよかった。それに、十年くらい前の会話を覚えてくれているということは、エリクにとってもあれは何かしらの意味を持つ言葉だったのだ。
「うん、なら、どういたしまして」
ふわっと、エリクは優しく微笑んだ。エリクの周りだけがほんわりと明るくなったように感じ、まるで綺麗な花でも見ているような気持ちになってしまった。数瞬見とれて、慌てて視線をそらす。ば、ばれてないよね……? ちょっとの間だけだったし!
上がってしまいそうな体温を、紅茶をこくこくと飲むことでごまかす。よ、よし、落ち着いた。
と、思ったら、紅茶が変なところに入って少し咳き込んでしまった。「大丈夫?」と訊きながらも、エリクのその声には笑いがにじんでいる。
「だ、大丈夫」
「よかった。……焦りすぎないようにね」
それはきっと、今のことに対してだけではないんだろうな、と思った。どんな反応をすればいいのかわからなくて、ケーキを食べながら視線をさまよわせて考える。
しかし、結局情けなく眉を下げるしかなかった。
「私、そんなに焦ってるように見える?」
「ううん、今は大丈夫だよ。でも、何かに焦ってしまいそうな予感がするから、念のために言っておこうと思って? 僕の言葉なんて焼け石に水かもしれないけどね」
ふふ、と可愛らしく小首をかしげるエリクに、苦笑いを返す。
私は、姉様とエリクに幸せになってもらいたい。二人のために何かをしようと決めたとき、きっと私は、二人に止められたってそれをやり遂げる。そうじゃないと、たぶん……たぶん、私がここにいる意味がないのだ。
だから、エリクの言葉が焼け石に水、というのも否定はできない。焦る、とは違うけれど、そういう感じの状況に陥ったときに、私は彼の言葉に耳を傾けられないだろうから。
「ふーん、何も答えてくれないんだ?」
わざとらしいじと目を向けられて、私は慌てて口を開いた。
「し、心配しなくていいから! 大丈夫だよ。そもそも、エリクが言ってるのは『予感』の話でしょ?」
「君たちに関する僕の予感って、かなり当たるんだよ」
君たち、というのは姉様と私の二人のことを指しているのだろう。
「……知ってる」
「なら僕の心配もわかるよね」
わかる、けど。
うぐぐ、と小さく唸ってしまった私に、今度はエリクが苦笑いした。
「セレネはさ。ディアナと僕のことばっかりで、あんまり自分のことを大事にしないっていうか……そこまでは言わないけど、そういう部分があるから。気をつけてね」
「……うん」
「僕もディアナも、セレネのこと大好きなんだからね?」
…………さ、さらっと大好きって言われた。親愛の意味だとわかっていても、エリクの口からその言葉が飛び出すとどきりとしてしまう。
うん、とまたうなずいて、それから私はそうっと斜め下に視線を落とした。
「わ……私も、二人のこと、大好きだよ」
これくらいなら、私だって素直に言えるのだ。……エリクと二人きりのときにこういうことを言うのは、めちゃくちゃ恥ずかしいけど。
まさか私がそう返すとは思っていなかったのか、エリクはきょとんとした。数秒の沈黙が痛い。うぅ、早く何か言ってくれないと、ただ恥ずかしいだけになるんだけど!
沈黙を誤魔化すように、二杯目のお茶をカップに注ぐ。エリクにもいるかどうか尋ねると、「あ、うん」とカップを差し出された。
二人で紅茶を飲んで、一息ついて。
「……僕も君のことが好きだよ」
「さっき聞いた」
「うん、さっきも言った」
あはは、と笑うエリクに首をかしげる。そんなに念押しされなくてもわかってるんだけどな。
わかってはいても、それでもやっぱり照れてしまって。私はちょっとだけ乱暴に、ケーキにフォークを突き刺した。




