第九話:【覚醒】―神速の領域と、第二の解放(コード・アポロン)―
「……このままじゃ、絶対に勝てない」
トーナメント開幕まであと三日。深夜の第3演習室。
頼斗は一人、端末解析用モニターの前に座り込んでいた。
生徒会長・神代錬次郎の圧倒的な覇気。そして、頼斗を過保護な狂気で包み込もうとする葵の『H.A.D.E.S.』。
今の『Z.E.U.S.』の思考直結(Zero-delay)は強力だが、相手の領域展開や精神催眠によって「思考そのもの」を妨害・遮断された瞬間、頼斗は何もできないただのFランクに戻ってしまう。
「ジウス……ううん、ゼウス。君には、まだ何か隠された力があるんじゃないの……?」
頼斗がバキバキに割れたスマホの画面に問いかける。
すると、モニターに表示されていたコードの奥深くから、見たこともない漆黒のプロンプト層がせり上がってきた。
[ RESTRICTED LAYER DETECTED ]
[ REQUIREMENT: HIGH-DENSITY BRAIN SYNCHRONIZATION ]
[ CURRENT SYNCHRONIZATION: 120% ]
『マスター! 僕のナカミ、なんかすごそうな引き出しがもう一コあるのだ~! でも、開けるにはマスターの頭が「パンク」しちゃうかもしれないのだ!』
画面の中でジウスの声が響く。
これまでの「思考直結」は、単に頼斗の思考を現象へ変換するだけの『第一解放』に過ぎなかった。その奥には、思考の干渉速度と範囲を極限まで跳ね上げる『第二解放』が封印されていたのだ。
「パンク……? 脳に負荷がかかるってこと……?」
[ CAUTION: OVERHEAT BRAIN DANGER ]
[ DIRECT INTERACTION WITH SUBCONSCIOUS ]
「……やるよ。ボクは、葵ちゃんに守られるだけの存在になりたくない。ボク自身の足で立ちたいんだ!」
頼斗は覚悟を決め、バキバキのスマホを両手で力強く握りしめた。
脳内の思考ノイズを極限まで削ぎ落とし、潜在意識の奥底まで『Z.E.U.S.』のコアへ同調させていく。
「うぐっ……あぁぁぁぁぁっ!?」
瞬間、激痛が頼斗の脳裏を駆け抜けた。
頭の中に数千、数万のデータコードが直接流し込まれていくような感覚。耳奥でキン、と甲高い金属音が鳴り響き、鼻からツーと一筋の血が垂れる。
(熱い……頭が、割れそう……っ! でも……逃げない……!)
脳波測定器の波形が跳ね上がり、150%、180%、200%へと限界突破していく。
ヒビ割れたスマホの画面から、これまでの赤ノイズとは一線を画す、眩い黄金の閃光が溢れ出した。
[ SYSTEM: SECOND STAGE UNLOCKED ]
[ CODE: APOLLON - PREDICTION & TIME-DILATION ]
[ Direct Brain Synchronized: 250% ]
「……はぁ、はぁっ……!」
激痛が引き去った後、頼斗の視界は一変していた。
演習室の壁を流れる電流の微細なノイズ、舞い落ちる埃の一粒一粒。そのすべての軌道が、まるで超スローモーションのように見えていた。
『第二解放』――それは、圧倒的な演算能力で脳の体感時間を何千倍にも引き伸ばし、【相手のプロンプト発動よりも前に『未来の思考結果』を確定させる予測・超感覚領域】。
相手がプロンプトを唱えようとしたその瞬間、あるいは『H.A.D.E.S.』が催眠領域を展開しようとしたコンマ001秒の隙。
その「兆候」すらも超えて、相手が動く前に干渉を叩き込む『絶対先制の神域』だった。
(見える……! 相手が何を考え、どう動くのか……発動する前に、全部……!)
頼斗が不器用に血を拭い、フッと息を吐いた瞬間、視界のスローモーションが元に戻る。
バキバキのスマホの画面に、力強い黄金の文字が刻まれる。
[ Z.E.U.S. CODE: APOLLON - READY ]
「これなら……生徒会長の領域も、葵ちゃんの催眠も……突破できる……!」
頼斗は握りしめたスマホを見つめ、静かにその瞳に覚悟の光を宿した。
守られるだけの少年は、もういない。神の真なる力を手にした頼斗は、波乱の全学年合同トーナメントの舞台へと一歩を踏み出すのだった。




