第八話:【頂点】―絶対権力と、神々の盤上―
「――副会長の皇鳳介が敗北、および精神的重篤状態。さらに生徒会役員3名が相次いで重度の記憶障害を起こし倒れる、か」
重厚なオーク材のデスク。静まり返る生徒会執務室の最深部で、その男はホログラムモニターに映し出された診断データを見つめていた。
聖プロンプト学園・生徒会長。3年生の頂点にして、学園の絶対的支配者――神代 錬次郎。
「鳳介の『ルシファー』を破ったのは、1年の小鳥遊頼斗。そして役員たちの精神を破壊して回っているのは……その幼馴染、白波葵」
「は、はい……!」
報告を行う黒部リオンの膝が、恐怖でガクガクと震えていた。
これまで数々の異分子を冷酷に排除してきた生徒会幹部たちが、たった二人の1年生によって壊滅状態に追い込まれているのだ。
神代は静かに立ち上がった。
彼が身につけているのは、学園開校以来、たった一人にしか授与されない伝説のEXランクデバイス『オーディン』。
「不確定要素が二つ。一つは『思考直結(Zero-delay)』により物理法則を書き換える神のシステム【Z.E.U.S.】。もう一つは『精神催眠(Hypnotic)』により他者の思考そのものを奪い去る冥府の檻【H.A.D.E.S.】」
神代は窓辺へと歩み寄り、黄昏に染まる学園全体を見下ろした。
「面白い。中学に入ってたった数ヶ月の子供どもが、これほど牙を研ぐとはな。……だが、我が生徒会の秩序を乱す『害獣』を放置しておくわけにはいかない」
「会、会長自ら出向かれるのですか……!?」
「当たり前だ。副会長が敗れ、組織が崩壊しかけている以上、私が直接引導を渡す」
神代の胸元で、『オーディン』が威厳ある金色の脈動を打ち始めた。
翌日の全校集会。
体育館に集まった全校生徒の前で、神代は壇上のマイクの前に立った。
その圧倒的な覇気に、ざわついていた生徒たちが一瞬で静まり返る。
「全校生徒に告ぐ。来月より、本校の頂点を決める『全学年合同デュエル・トーナメント』を開催する」
体育館にどよめきが駆け抜ける。
通常、学年ごとに行われる大会を、全学年無差別で争わせるという異例の発言。
神代の冷徹な視線が、ギャラリーの隅に立つ頼斗、そしてその隣で不気味な笑みを浮かべる葵へとまっすぐに注がれた。
「特別枠として、1年C組・小鳥遊頼斗、ならびに白波葵のシード出場を認める。――逃げ場はないぞ、Fランクの怪物ども。私自ら、君たちの『神』のメッキを剥ぎ取ってやろう」
「ひっ……!」
集会が終わり、生徒たちが立ち去る中、頼斗は恐怖でその場に立ち尽くしていた。
生徒会長・神代錬次郎。学園最強の男からの事実上の宣戦布告。
(生徒会長……! ボクなんかが、あんな人と戦うなんて……っ)
バキバキのスマホ――『Z.E.U.S.』が、ポケットの中で静かに熱を帯びる。
「大丈夫だよ、頼斗」
隣から、葵の冷たくも美しい声が響いた。
葵は頼斗の手を固く握りしめ、その瞳の奥に狂おしいほどの『H.A.D.E.S.』の黒い炎を燃え上がらせていた。
「生徒会長だろうと、世界中の誰だろうと……頼斗に触れようとするゴミは、ボクがトーナメントで全員『消して』あげるからね」
「あ、葵ちゃん……」
「頼斗はボクの隣で、ずっと守られていればいいんだよ……ふふっ」
学園最強の生徒会長の参戦、そして覚醒した『Z.E.U.S.』と『H.A.D.E.S.』。
三つの規格外の力が激突する、全学年合同トーナメントの幕が上がろうとしていた。




