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声無きゼウスと冥府のハデス 〜学園最弱の僕は思考だけで無双する〜  作者: 狐月
【第一部】学園トーナメント・覚醒編 〜ボロスマホと嘲笑された少年が、0.000秒の思考で学園の頂点を踏み荒らす〜

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第七話:【冥府】―黒い牢獄と、狂愛のハデス―

「ねえ、頼斗。今日の放課後、生徒会室の残党が君に果たし状を出そうとしていたの、知ってる?」


講堂での戦いから数日後。夕闇に包まれた誰もいない教室で、葵は頼斗のデスクに腰掛け、優しく微笑んでいた。


「えっ……果たし状? ううん、ボクは何も受けてないよ……?」


頼斗が首を傾げると、葵は愛おしそうに頼斗の髪に指を絡め、頬をそっと撫でた。

その手つきはどこか重く、頼斗の身体を縛りつけるかのような強固な執着が籠もっている。


「うん、知らなくていいんだよ。ボクがね、『処理』しておいたから」


「え……? 処理って――」


頼斗の背筋に、冷たい汗が伝わる。

葵の手元にある漆黒の端末――Aランク『ファントム』。その画面には、いつものポップなUIではなく、おどろおどろしい黒と紫の紋章が浮かび上がっていた。


[ SYSTEM: H.A.D.E.S. ACTIVE ]

[ Hypnotic Area Dominating Execution System ]


「みんな、頼斗を利用しようとしたり、頼斗の『Z.E.U.S.』を奪おうとしたり、傷つけようとするゴミばかり。……だからね、ボクがみんな『忘れて』もらったの」


「忘れる……? 葵ちゃん、一体何をしたの……!?」


頼斗が思わず立ち上がろうとした瞬間、葵の目がすっと細められた。

次の瞬間、頼斗の足元を中心に、歪んだ紫黒色の領域ドメインが教室全体へと急速に展開する。


きぃぃぃん――。


重低音のノイズが響き、教室の壁や窓ガラスが、まるで黒い水滴が滲むように暗闇へと呑み込まれていく。


(っ……!? 身体が……動かない……!?)


頼斗は目を見開いた。

『Z.E.U.S.』の思考直結(Zero-delay)を発動させようと意識を研ぎ澄まそうとする。しかし――


[ WARNING: BRAIN WAVE HYPNOTIZED ]

[ ERROR: CANNOT FORMULATE INTENT ]


思考イメージが……作れない!? 『消せ』とも『弾け』とも、頭の中で思わせてもらえない……!?)


「無駄だよ、頼斗」


葵はゆっくりとデスクから降りると、動けない頼斗の胸元にそっと身体を寄せてきた。

その瞳は、深海のように光を失っており、底知れぬ狂おしいほどの愛しさだけが揺らめいている。


「『H.A.D.E.S.』はね、領域内の人間の『意思そのもの』を催眠・支配(Hypnotic)するシステムなの。頼斗の『Z.E.U.S.』が思考を現象に変える神なら……ボクの『H.A.D.E.S.』は、その思考の芽生えすら摘み取る冥府の牢獄なんだよ」


「葵、ちゃん……やめて……っ」


「やめないよ。ボクは頼斗を守りたいだけなんだもの」


葵は愛おしそうに頼斗の首に腕を回し、耳元で甘く熱い息を吹きかける。


「生徒会も、学園の大人たちも、みんな頼斗を狙ってる。頼斗が凄くなればなるほど、遠くへ行っちゃう気がして……ボク、怖くてたまらなかったんだ」


葵の指先が頼斗の頬を強くなぞる。その力強さは、もはや「保護」ではなく「所有」の領域に達していた。


「でも、分かったの。頼斗を害する奴らをボクが全部『H.A.D.E.S.』で精神的に破壊して、動けなくしてあげればいいんだって。……さっきの生徒会役員たちもね、いま頃、自分の名前すら思い出せない状態で病院に運ばれてるよ」


「そんな……! 葵ちゃん、そんなのダメだよ……っ!」


「ダメじゃないよ。頼斗のためだもの」


葵の瞳から、一滴の涙が零れ落ちる。それは頼斗を愛するあまり狂気に囚われた少女の、純粋で歪んだ本気だった。


「ねえ、頼斗。世界中が君の敵になっても、ボクだけは君の味方で、君の飼い主(保護者)でいてあげる。君の『Z.E.U.S.』も、その可愛い声も、その震える身体も……全部ボクのものにしてあげるね」


ビキッ――!


頼斗のポケットの中で、バキバキのスマホ――『Z.E.U.S.』が、葵の催眠領域を破ろうと激しい赤ノイズを散らす。

だが、葵はそれすら冷酷な笑みで見下ろした。


「ふふ、まだ抗うんだ。『Z.E.U.S.』も可愛いね。……でも、覚えておいてね、頼斗」


葵は頼斗の唇のすぐ目の前まで顔を近づけ、歪んだ笑みを深めた。


「君がどれだけ『思考』で世界を打ち破っても……ボクの『絶対支配』からは、絶対に逃げられないんだから」


黒い領域が消え去り、夕暮れの教室に静寂が戻る。

自由を取り戻した頼斗は、膝から崩れ落ち、激しく呼吸を乱しながら、目の前に立つ幼馴染の姿に恐怖で震えるのだった。


最強の相棒であり、頼斗を誰よりも愛する存在――白波葵が、ついに『最大のラスボス』としての牙を剥いた瞬間だった。

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