第10話:【主神】―絶対言語と、概念事象の書き換え―
「第一回戦第十試合――3年生・神代錬次郎 vs 2年生・獅子王凱!」
学園最大の中央コロシアムを埋め尽くす万単位の観客から、割れんばかりの歓声が巻き起こっていた。
対戦相手は、2年生屈指の武闘派ランカー・獅子王凱。手に握られたAランク端末『レオン』から、圧倒的な密度の物理・属性プロンプトが渦を巻いている。
「生徒会長だろうが関係ねえ! 俺の超高出力プロンプトで叩き潰して、俺がトップに立つ!」
《プロンプト全開――【獅子王の咆哮】発動!!》
ドガァァァンッ!!
コロシアムの床が物理干渉で激しく砕け散り、巨大な炎と衝撃波の嵐が神代へと襲いかかる。観客席の生徒たちが悲鳴を上げるほどの絶大な威力。
しかし――神代錬次郎は、一歩も動かなかった。
胸元に鎮座するEXランクデバイス『オーディン』。その重厚な金色のフレームが、神々しい光を放つ。
神代は腕すら上げず、ただ冷徹な眼差しで押し寄せる炎を見つめ、口を開いた。
「――『拒絶』」
【EXランク:絶対言語】。
たった一言。何の長文コードも、プロンプトの構成手順すら踏まない、世界そのものへの「命令」。
フッ……。
瞬間、コロシアムを破壊し尽くさんとしていた巨炎と衝撃波が、神代の数メートル手前で完全に霧散し、無に還った。
「な……なに……!? 俺のAランク最大出力が……消えた……!?」
獅子王が目を剥いて絶句する。
「お前のプロンプトは拙く、稚拙だ」
神代は静かに歩みを進める。その一歩ごとに、コロシアム全体の空間が『オーディン』の圧迫感で重く沈んでいく。
「【オーディン】の能力は『事象の強制書き換え』。この世界(学園)を構成するあらゆるAIコード・プロンプトの優先度において、私の【発言(命令)】はすべてのシステムに最優先で上書き(オーバーライド)される」
「馬鹿な……! プロンプトの構築なしに、たった一言でパラメータを書き換えるなんて……! そんなのデュエルじゃない、ただの『神の命令』だ!!」
獅子王がパニックに陥り、狂ったように連続で攻撃プロンプトを叫び始める。
「【爆炎】! 【雷撃】! 【空間断裂】――!!」
神代はただ、冷酷に呟くだけだった。
「――『破滅』」
パァンッ!!
神代が一言を放った瞬間、獅子王のAランク端末『レオン』が内側から爆散した。
それどころか、獅子王が構築していたすべての攻撃プロンプトが逆流し、彼自身の体を容赦なく打ちのめす。
「ギャアアアアアッ!?」
血を吐き、コロシアムの壁まで吹き飛ばされる獅子王。
『勝者――神代錬次郎! 試合時間:4秒!』
静寂。
そして、遅れて会場全体を揺るがすような恐ろしい歓声と悲鳴が巻き起こる。
「これが……EXランク【オーディン】……『絶対言語』の力……!」
選手控室のモニターでその光景を見ていた頼斗は、両手を固く握りしめた。
『Z.E.U.S.』が【思考直結で遅延ゼロの現象化】なら、神代の『オーディン』は【たった一言で世界のコードを強制上書きする絶対権限】。
プロンプトの応酬というルールそのものを踏みにじる、まさに「学園の神」に相応しい絶望的な力だった。
「……すごいね、あの生徒会長」
隣でモニターを見つめていた葵が、クスクスと不気味に笑った。
葵の手の中で、漆黒の『ファントム(H.A.D.E.S.)』が暗く光る。
「でも、どれだけすごい命令(言葉)も……頭の中から『言葉』そのものを奪っちゃえば、発動できないよね? ねぇ、頼斗……ふふっ」
頼斗の体内に走る戦慄。
『Z.E.U.S.』の【第二解放】を得た頼斗、催眠支配で言葉も思考も奪う葵の【H.A.D.E.S.】、そして絶対言語で世界を統括する神代の【オーディン】。
三つの神クラスの力が激突する波乱のトーナメントが、本格的にその牙を剥き始めていた。




