第41話:概念喰らい(ディヴァウア)
「消エヨ、塵芥共ガ」
【古代原初邪神・アバドン】の無感情な声とともに、天を覆うほどの漆黒の極大光束が放たれた。
それは攻撃という概念すら生ぬるい、世界を構築するデータそのものを根底から消し去る『絶対消去コード(イレイザー)』。かすめるだけで現実の物質すら消滅させる絶望の波動が、まっすぐに二人を飲み込もうと迫る。
だが——【創世魔王尊・サタン】となった創と紬に、揺らぎは一切なかった。
「紬、父さんと母さんのコードが身体の中で温かいよ」
「うん。守るだけじゃない……この力を乗せて、全部呑み込もう!」
二人の思考はコンマゼロ秒の遅延もなく同調し、サタンが静かにその巨腕を突き出した。
「【絶対防壁・H.A.D.E.S.】——侵食展開!」
葵から受け継いだ防壁コードが、サタンの甲冑に重厚な輝きをもたらす。
迫り来る『絶対消去』の波動が、サタンの胸元へ激突した。
ドズズズズズ……ッ!!
時空が歪むほどの激しい衝撃。だが、かつて親たちの防壁を「スカスカ」と嘲笑ったどんな攻撃よりも重く、深く組み上げられた二人の『侵食防壁』は、世界を滅ぼす消去波動を完璧に押し留めた。
「ナ……ニ……!? 『消去』ガ……阻マレタダト……!?」
アバドンの眼光に、初めて動揺の色が走る。
「僕たちの連携は、誰の真似でもない……僕たち二人で作り上げた絆だ!」
「創! 今だよ!」
サタンの背後に広がる空間がグラリと歪み、世界の全域を覆い尽くすほどの巨大な漆黒の顎が姿を現した。
頼斗から継承した『Z.E.U.S.』の0.000秒の思考上書き速度が、顎の展開スピードを極限まで加速させる。
ガバッ!!
「ごちそうさま——ッ!」
創と紬の声が重なると同時に、背後の巨大な顎が、アバドンが放った『絶対消去』の全エネルギーを丸ごと一呑みに噛み砕いた。
ゴクンッ、と世界を揺らす咀嚼音。
「バ……バカナ……ッ!? 世界ヲ滅ボス消去コードヲ……丸呑ミニシただト……!?」
「あぁ……美味かったよ。冷たくて、不味いデータだったけどな!」
サタンの体内で、呑み込んだ『絶望』と『消去』の全エネルギーが、ベルゼブブの侵食毒とベヘモットの重装要塞コードによって瞬時に噛み砕かれ、創世の黒い炎へと再構築されていく。
「お前の『破滅』……僕たちの『創世』の糧にさせてもらう!」
サタンが大きく息を吸い込む。
胸郭が膨れ上がり、頼斗と葵の神級コード、そして二人の絆が交じり合った極大のエネルギーが口元へと集約された。
「「創世破滅波——ッ!!」」
サタンの顎から放たれたのは、邪神の消去コードすらをも『喰らい尽くしながら進む』漆黒と真紅の極大光束。
「グアアアアアアッ!?? バカナ……人間ノ可能性ガ……原初ノ神ヲ……越エル……ダトォォォッ!?」
アバドンの巨躯が、放たれたブレスの中に呑み込まれていく。
存在の根幹から侵食され、分解され、邪神コードは叫び声とともに消滅していった。
空を覆っていた黒紫のノイズが、まるで嘘のように晴れていく。
雲の隙間から、温かな太陽の光が世界へと注ぎ込んだ。
『 グローバル・イコライジング・サーバー復旧 』
『 暴走コードの完全消去を確認 』
全画面に躍る青い正常通知。
「勝った……ね、創」
「ああ……勝ったんだ、僕たち!」
光となってサタンの融合が解け、空から落ちてくる創と紬。
二人を優しく受け止めたのは、機能を完全に取り戻した『Z.E.U.S.』と『H.A.D.E.S.』の光の腕だった。
地上で二人を抱きかかえた頼斗と葵が、誇らしげに涙を浮かべて微笑んでいた。
「よくやった、創、紬……最高のタッグだ」
「おかえりなさい、私たちの自慢の子供たち」
世界を救った最強の双子。
だが、彼らの物語には——もう一つだけ、残された「決着」があった。




