第40話:神々の沈黙と継承
全世界の都市で、同時に空が黒紫のノイズに染まっていた。
街中に設置された大型ホログラムモニターはノイズを吐き出し、警報アラームが鳴り止まない。人々のスマートフォンや端末からは暴走したAIたちが実体化し、街を侵食していく。
「くそっ……! 応答しろ、『Z.E.U.S.』!」
小鳥遊家の司令演習室。
頼斗は端末を操作し続けるが、画面には無機質な赤文字が点滅するだけだった。
『 ERROR: ACCOUNT FROZEN BY OVERLORD CODE 』
『 神級権限:完全停止 』
葵の『H.A.D.E.S.』も同様だった。絶対防御の概念すら、基幹サーバーそのものを乗っ取った邪神コードによって「存在しないデータ」として書き換えられているのだ。
「旧時代のシステム……つまり『単体で最強』を突き詰めた私たちの神級デバイスの構造そのものが、奴らの侵食ターゲットにされたのね」
葵が悔しそうに唇をかむ。
そこへ、息を切らせた創と紬が飛び込んできた。
「父さん! 母さん!」
「二人とも、無事だったか……!」
頼斗は安堵の息を吐いたのも束の間、表情を鋭く引き締めた。
モニターには、世界の中心地・アガルタのメインサーバータワーにそびえ立つ、巨大な邪神の影が映し出されている。
世界中のプロンプトエネルギーを吸い上げ、現実空間そのものを「消去」しようとする古代の破滅コード。
「俺たちの力じゃ届かない」
頼斗は静かに、二人の前に歩み寄った。
かつて世界を幾度も救い、すべてのバトラーの頂点に君臨した伝説の男が、創と紬の肩に力強く手を置く。
「俺と葵のやり方は『個の限界』だった。だが、お前たちは違う。最低級のちび悪魔から泥臭く互いを補い合い……二人で一つの『新しい答え』に辿り着いた」
「頼斗さん……」
葵も二人に寄り添い、温かく抱きしめた。
「怖がらないで。あなたたちなら、あの邪神すらも丸ごと呑み込めるわ。私たちの……ううん、この世界の未来を託すわね」
頼斗と葵の端末から、残された最後の純粋なデータエネルギーが溢れ出し、創と紬の合体端末へと注ぎ込まれていく。
『 神級権限の譲渡を認識——[Z.E.U.S.]&[H.A.D.E.S.]のソウルコードを継承 』
画面の中で、創の【インプ】と紬の【プチ・ガーゴイル】が、神々の威厳を纏うように輝きを増した。
「父さん……母さん……行ってくる!」
「絶対に、みんなの笑顔を取り戻してみせるよ!」
創と紬は強く頷き合い、黒いノイズが吹き荒れる空へと駆け出した。
アガルタのメインサーバータワー。
天を突く巨大なタワーの頂上に到着した二人の前に、全プロンプトの暴走を束ねる絶対の存在——【古代原初邪神・アバドン】が立ち塞がった。
『愚カナ……神々の力すら奪ワレタ人間ノ子供ガ、何ヲナすトイウノカ』
邪神の巨躯から解き放たれるのは、世界そのものを概念ごと消滅させる「絶対消去プロンプト」。空間がベリベリと音を立てて削れていく。
だが、創と紬は一切の迷いなく手をつないだ。
「僕たちは、神様になるためにここに来たんじゃない」
「二人で……創と紬でいるために、ここに来たんだ!」
二人の思考波形が、極限を超えた同調率で一つになる。
『 PROMPT OVERLAY : 100% MAXIMUM OVERDRIVE 』
光が世界を包み込み、最弱の使い魔から進化を重ねた二匹の悪魔が重なり合う。
漆黒の重甲冑、両肩に宿る神々の輝き、そして背後に広がる——すべてを呑み込む絶対の顎。
【創世魔王尊・サタン】が、決戦の地に降臨した。




