第42話(最終話):頂を超える者たち
世界の危機が去り、平和を取り戻したアガルタの特設コロシアム。
非公式ながら観覧席を埋め尽くしたのは、全国から集まったライバルや仲間たち、そして獅子神や蓮見の姿だった。
目的はただ一つ。「世界の救世主」となった双子と、かつて世界を制した「伝説の二人」による特別エキシビションマッチ——最初で最後の【親子対決】だ。
「世界を救ったからって、子供扱いして手加減して負けてやるつもりは1ミリもないぞ」
コートの中央で、頼斗が不敵に笑いながら端末を構える。その隣で葵も愛おしそうに子供たちを見つめつつ、デバイスの出力を全開にした。
「ふふ、私たちの最高傑作がどれほど育ったか、力ずくで確かめさせてもらうわね」
『Z.E.U.S.』の絶対攻撃、そして『H.A.D.E.S.』の絶対防壁。
かつてソロ時代の頂点に君臨した二人が、夫婦として阿吽の呼吸で立ち塞がる。
対する創と紬も、合体端末を二人で固く握りしめた。
「望むところだよ! 今日、僕たちは父さんと母さんを超える!」
「子供扱いは、もう終わり!」
審判のファンファーレが鳴り響く。
『スペシャルマッチ——レディ、ゴー!』
「【ウラノス】——0.000秒上書き!」
頼斗の叫びとともに、コンマゼロ秒の遅延すら存在しない光速のプロンプトが解き放たれる。同時に葵の【タルタロス】が完璧な多層防壁を展開。
かつて世界を平伏させた「0.000秒の絶対攻撃×絶対防壁」の絶望的なコンボ。前座の打ち合いから、頼斗たちの「壁」の高さがコロシアム全体を圧倒する。
(やっぱり父さんと母さんは化け物だ……!)
(でも……今の私たちなら、届く!)
創と紬は一切の怯えなく、互いの手を強く握りしめた。
言葉はない。二人の思考同調率は、瞬時に極限の100.000%に達する。
『 PROMPT OVERLAY : MAXIMUM 』
激しい光とともに現れた【魔王尊・サタン】。
頼斗が放つ0.000秒の超速プロンプトに対し、サタンは回避も防御もしない。背後に巨大な漆黒の顎を展開し、頼斗の「思考」そのものを概念ごと丸呑みにし始めた!
「なに……!? 俺のプロンプトの組み立て速度すら喰らうだと!?」
「今よ、創!」
葵の絶対防壁が展開される直前、紬の精密演算が「記述のわずかな隙間」を見抜き、そこへ創のベルゼブブの侵食毒をピンポイントで叩き込む。
シュゥゥゥ……ッ!
「防壁の内部から……侵食された!? なんという精度……!」
葵が目を見張る。頼斗と葵の合体攻撃——Z.E.U.S.とH.A.D.E.S.が放つ渾身の最大出力がサタンへと迫るが、サタンの顎はその全エネルギーを正面から全開で受け止め、完全に噛み砕いた。
「「これが、僕たちの……二人で歩んできた答えだぁぁぁッ!!」」
サタンの胸元から放たれた、創世の黒き炎。
頼斗の『0.000秒』すら上書きし、葵の『絶対防壁』を穿ち抜く、完全なる「親越え」の一撃。
ドカァァァンッ!!
爆煙が晴れると、勝者判定のファンファーレがコロシアム全体に鳴り響いていた。
『勝者——小鳥遊創、小鳥遊紬タッグ!』
コートの床に仰向けに倒れ込んだ頼斗が、天を仰いで満足そうに大笑いした。
「……ハハッ、完敗だ! 本当に、俺たちを超えて行きやがった……!」
「ふふ、完敗ね。……私の、私たちの最高傑作たち」
葵も晴れやかな笑顔で、駆け寄ってきた二人を抱きしめた。
「勝った……勝ったぞーっ!!」
「創、私達……勝ったよ!!」
創と紬は弾けたような笑顔でハイタッチを交わし、歓声に包まれる空へと拳を突き上げた。
数日後。中学校の晴れ渡るグラウンド。
「はい、次。創、紬、前へ」
教官の声に促され、二人はいつものように測定台へ向かう。
ポケットから取り出したスマホをセットすると、端末から顔を出したのは、相変わらずのちび悪魔【インプ】と【プチ・ガーゴイル】だ。
「……プピ?」
「……ガー?」
周りの新入生たちが「なんだあのちび悪魔」とヒソヒソ声を上げる中、創と紬は顔を見合わせ、いたずらっぽくニヒヒと笑い合った。
最低級の使い魔から始まった、二人だけの絆。
ここからまた、彼らの新しい日常と挑戦が始まっていく。
「さあ——今日も勝ちに行こうか、紬!」
「うん、創!」
二人は手をつなぎ、未来へと向かってまっすぐに歩み出した。




