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声無きゼウスと冥府のハデス 〜学園最弱の僕は思考だけで無双する〜  作者: 狐月
【第一部】学園トーナメント・覚醒編 〜ボロスマホと嘲笑された少年が、0.000秒の思考で学園の頂点を踏み荒らす〜

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第四話:【剥落】―刻印の真実とゼロ秒の解―

「……やっぱり、おかしいよ」


放課後、誰もいない第3PC演習室。

頼斗は端末解析用のモニターに、自分のバキバキのスマートフォンをケーブルで接続していた。


二度にわたる上級生とのデュエル。

喉が潰れ、声が出なくなった極限状態の中で起きた「現象」。

相手の強大なプロンプトが一瞬で消滅し、次の瞬間に敵が吹き飛ぶ。詠唱も、音声入力も、画面のタップすらしていない。ただ「頭の中で願った」だけで、世界がその通りに塗り替えられたのだ。


(ボクは……頭の中で考えただけだ。それなのに、なんで現象が起きるの……?)


モニターの画面に、ジウスのシステムログを呼び出す。

通常、バトルの記録には発動したプロンプトのテキストや、AIの処理時間がミリ秒単位でずらりと並ぶはずだった。


しかし、画面に表示されたログは破綻していた。


[ LOG: 16:02:11 ] INPUT_METHOD: NONE

[ LOG: 16:02:11 ] PROMPT_TEXT: N/A

[ LOG: 16:02:11 ] EXECUTION_TIME: 0.000s

[ LOG: 16:02:11 ] OVERRIDE: TARGET PARAMETER ZERO


「入力方法:なし……実行時間:0.000秒……?」


頼斗の指先がかすかに震える。

AIバトルにおける常識――「プロンプトをAIに認識させ、コードに変換して発動する」というプロセスのすべてが完全に飛ばされている。


『マスター! パソコンに繋がれて、なんだかムズムズするのだ~!』

モニターの隅で、丸っこいマスコットアイコンのジウスが呑気に跳ねている。


「ジウス……君は、一体なにものなの……?」


頼斗は膝の上に置いた自分のスマホをそっと持ち上げた。

入学式の日に渡された、画面がバキバキに割れたジャンク品。

画面の角を覆うクモの巣状のヒビと、角が捲れ上がった不透明な保護シール。


頼斗は意を決し、保護シールの端に指をかけた。

粘着剤が剥がれる『バリバリ……』という不快な音が、静かな演習室に響く。


シールを完全に剥ぎ取り、端末背面の傷を指で強くこすった。

積もった汚れとシール跡が取れ、ヒビの隙間に隠されていた「刻印」が、西日に照らされてくっきりと浮かび上がる。


J U N K - Z . E . U . S .


「ジウス……じゃ、ない……?」


頼斗の息が止まった。

JUSジウス』だと思っていた文字の間に、傷で消えていたアルファベットが刻まれていた。


Zero-delay Execution Unlimited System

――無遅延実行・無制限システム。【Z.E.U.S.】。


「ゼ、ウス……? ジウスじゃなくて……ゼウス……!?」


『ふぇ? マスター、僕の名前、なんかカッコよくなったのだ~?』


端末のスピーカーから響くボイスは、相変わらず呑気なままだ。

だが、頼斗の頭の中に、冷酷なまでの理解が落ちてきた。


この端末は、Fランクの欠陥品などではない。

音声入力という「人間の遅いインターフェース」を初めから必要としない――思考をダイレクトに現象へと変換する、狂気と神のシステムだったのだ。


「思考……直結……」


頼斗は自分の両手を見つめた。

幼くて、小さくて、声も出せない自分。

適性検査でFランクの刻印を押され、誰からも「弱者」として見下されていた自分が手にしていたのは、学園のデュエルルールそのものを破壊する「神の牙」だったのだ。


(ボクが……頭の中で『消えろ』と思ったら、本当に消える……? ボクの思考が、そのまま魔法になる……?)


背筋をゾクリと恐ろしい悪寒が駆け抜けた。

万能感ではない。圧倒的な「恐怖」だ。

もし、自分がパニックになって「死ね」と一瞬でも思考してしまったら、目の前の人間がゼロ秒で消滅してしまうかもしれない。


「そんなの……ボク、扱えないよ……っ!」


頼斗が頭を抱えて座り込んだ、その時。


ガラッ、と演習室のドアが静かに開いた。


「――やっぱり、ここにいたんだね。頼斗」


夕暮れの赤い光を背に受けて立っていたのは、白波葵だった。

手に持った漆黒のAランク端末『ファントム』を静かに握りしめ、葵は柔らかく、だがどこか光の無い瞳で頼斗を見つめている。


「葵ちゃん……」

「自分の端末の『本当の姿』……気づいちゃったんだね」


葵はゆっくりと頼斗に近づくと、その小さな身体を包み込むように抱きしめた。

頼斗の頭に顔を寄せ、耳元で甘く、囁くように呟く。


「大丈夫だよ、頼斗。君がどれだけ恐ろしい力を持っていても……ボクだけは、絶対に頼斗の味方だから」


葵の手が、頼斗の背中を優しく撫でる。

その接触の瞬間、頼斗のポケットの中で『Z.E.U.S.』の画面が、一瞬だけ警戒を示すように赤く明滅した。


[ WARNING: UNKNOWN HIGH-OUTPUT BRAIN WAVE DETECTED ]

[ TARGET: H.A.D.E.S. SYSTEM ]


(え……ハデス……?)


頼斗の目が驚愕に見開かれる。

葵の抱擁の暖かさの裏側に、底知れぬ漆黒の「何か」が渦巻いていることを、『Z.E.U.S.』のログだけが冷酷に告げていた。

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