第38話:呑天吐地と決着
「攻撃が……喰われた……だと……!?」
膝を激しく震わせる獅子神の目の前で、融合体——【魔王尊・サタン】が静かに巨翼を広げた。
イコライジングのシステム画面には、異常を告げる赤文字が高速で流れ続けている。
『 ERROR: UNKNOWN PROMPT DETECTED 』
『 測定不能。出力上限を突破——制御不能 』
「バカな……中学校のイコライジング・ルールを破る存在なんてあり得ない! 蓮見、全コード展開だ! 抑え込めぇッ!」
錯乱した獅子神の叫びに、蓮見も青ざめた顔で操作パネルを狂ったように叩く。
【ブラック・ナイト】が漆黒の槍を構え、【リフレクト・メデン】が幾重もの多層鏡防壁を展開。二人の持てる全ての能力が、一点に集約された。
だが、創と紬の意識が完全に一つとなった融合体は、ただ冷ややかに彼らを見下ろしていた。
(創、呑み込んだエネルギー……体内で完全に変換できたよ)
(ああ、紬。僕たちの『侵食』と『要塞』の威力を乗せて……全部吐き出そう)
言葉を超えた完全な思考の共有。
【魔王尊・サタン】が深々とした息を吸い込むように、その胸郭を大きく膨らませた。
体内深くで、獅子神たちが放った極大の攻撃データが、ベルゼブブの侵食毒によって噛み砕かれ、より凶悪な絶対破壊のプロンプトへと昇華していく。
「「呑天吐地」」
二人の声が完全に重なった瞬間、重甲冑の顎から——漆黒と真紅が入り混じる極大の光束が解き放たれた!
ズドォォォォォォンッ!!!!
「ひっ……うあああぁぁぁッ!?」
多層鏡防壁? 漆黒の槍?
そんなものは一切の抵抗にすらならなかった。相手の防壁も、提示された属性ルールも関係ない。ただのデータとして、すべてが真黒な光の奔流の中に呑み込まれ、溶けて消えていく。
演習場を揺るがす天地開闢のような爆音。
光束がコートを突き抜け、反対側の防護壁にまで激しい亀裂を穿った。
光が収まり、黒い煙が静かに風に流されていく。
そこには、すべての防壁と武器を粉砕され、デバイスを真っ黒に焦がして床に倒れ込む獅子神と蓮見の姿があった。
相手の端末からプシューッと煙が吹き上がり、完全なシステムダウンを告げる重厚なファンファーレが響き渡る。
『勝者——小鳥遊創、小鳥遊紬タッグ!』
コート全体が、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた。
ギャラリーで観戦していた他校の選手たちも、指導者たちも、あまりの規格外の光景に言葉を失い、ただ開いた口が塞がらない。
シュゥゥゥ……。
光が弾け、【魔王尊・サタン】の巨躯が静かに分解されていく。
現れたのは、一つの未知なる合体端末を二人で一緒に抱え、肩で息をする創と紬の姿だった。
デバイスの画面内では、ツノの生えたちび悪魔【インプ】と石像の【プチ・ガーゴイル】が、満足そうにお腹をさすりながらニヒヒと笑っている。
「はぁ……はぁ……勝った……ね、創」
「ああ……勝ったぞ、紬!」
二人は顔を見合わせ、弾けたような笑顔で力強いハイタッチを交わした。
自分たちのプロンプトを弾き返し、あざ笑った強敵への完全な雪辱。
そして、かつて都市伝説とまで言われた奇跡の技『プロンプト・オーバーレイ』の完全なる証明。
「おい、見たかよ今の……! イコライジングを突破したぞ!?」
「二つのデバイスが融合して……相手の攻撃を丸呑みにした……!」
遅れて湧き上がる、割れんばかりの歓声とどよめき。
だが、創と紬は知っていた。
自分たちが手にしたこの「すべてを呑み込む力」が、やがて世界全体を巻き込む巨大な危機の渦へと繋がっていくことを——。
自室でバトルの中継映像を見届けていた頼斗と葵もまた、誇らしげに、そしてどこか引き締まった表情で画面を見つめていた。
「見事だ、二人とも。……だが、ここからが本当の試練だな」




