第37話:雪辱の舞台と『オーバーレイ』
「来たか、傷の舐め合いが得意な双子ちゃん」
聖アークハイテック高校の特設演習場。
ガラス張りの観覧席が見下ろす厳かなバトルコートで、獅子神と蓮見が待ち構えていた。周囲には彼らの評判を聞きつけた他校の生徒やプロンプト関係者が詰めかけ、重苦しい熱気が満ちている。
「わざわざ負けに来るなんて感心だね。前回の教訓、何も学んでいないのかな?」
獅子神が嘲笑を浮かべ、端末を起動する。
現れたのは、あの漆黒の魔人【ブラック・ナイト】と、すべてを跳ね返す鏡【リフレクト・メデン】。高校生級のイコライジング上限から放たれる圧迫感が、コート全体を支配した。
しかし、創と紬の瞳に怯えの色は微塵もなかった。
「僕たちは負けに来たんじゃない。……お前たちのプロンプトを、丸ごと呑み込みに来たんだ」
「『呑み込む』……? ハッ、威勢だけは一人前だな! 叩き潰せ!」
『再戦リベンジマッチ——レディ、ゴー!』
電子音が鳴り響いた瞬間、獅子神たちの連動攻撃が襲いかかった。
【ブラック・ナイト】の漆黒の剣が空間を切り裂き、【リフレクト・メデン】の鏡から極太の光束が解き放たれる。前回、創たちの攻撃を弾き返し、防壁を容易く通り抜けた絶望のコンボ。
「前と同じだ! 『ペチコート・シールド』!」
紬のプチ・ガーゴイルが前に出る。だが、今回の盾はただの石ではない。
創のインプが解き放った漆黒の侵食ノイズが盾を覆い、禍々しい黒紫の光を放つ『侵食防壁』へと変貌していた。
ズドォォォンッ!!
「何……ッ!?」
黒剣と光束が着弾した瞬間、獅子神の顔から余裕が消えた。
攻撃が通り抜けるどころか、接触した瞬間から【ブラック・ナイト】の剣と【リフレクト・メデン】の光束のデータが黒いノイズに侵され、内側からドロドロと腐食し始めたのだ。
「僕たちの連携は、もうただのガードじゃない。受け止めて、喰らうんだ!」
創の叫びに、獅子神は歯を食いしばる。
「舐めるな! 【リフレクト・メデン】、概念反転! 侵食コードごと奴らを消し飛ばせ!」
鏡が不気味に発光し、創の侵食毒すらも呑み込んで倍の威力で撃ち返そうとする最大火力。
回避不能、防ぐことも叶わない概念反転の極大照射。
「創……来ちゃうよ!」
「ああ……決めよう、紬!」
逃げない。二人はまっすぐにお互いを見つめ合い、静かに手を重ね合わせた。
(僕たちの心、思考、プロンプト——)
(ぜんぶ一つに。言葉なんて、もういらない)
二人の思考同期率は、瞬時に100.000%へと達した。
端末の画面が爆発的な光を放ち、全画面に真赤な警告が吹き荒れる。
『 WARNING: PROMPT OVERLAY INITIATED 』
『 存在の統合を開始——イコライジング制限・エラー検出 』
ドクンッ!!
世界が停止したかのような錯覚。
創の【インプ】と紬の【プチ・ガーゴイル】が宙で完全に重なり合い、二つのスマホがひとつの未知なる端末へと変貌を遂げた。
漆黒の重甲冑を纏い、背後に侵食の黒い霧と漆黒の巨翼を携えた絶対の魔人。
そしてその背後に広がるのは、あらゆる概念を喰らい尽くす巨大な漆黒の顎。
「な……なんだあれは!? デバイスが……融合しているだと!?」
「測定不能!? イコライジングのシステムが……エラーを起こしている!?」
獅子神と蓮見が戦慄で顔を歪ませる中、放たれた最大火力の光束が融合体へと襲いかかる。
だが——融合体は避けることも、防ぐこともしなかった。
背後に浮かび上がる漆黒の顎が、ガバッと大きく開く。
ドガァァァンッ!!
「……え?」
獅子神たちが放った渾身の絶対攻撃プロンプトが、まるで吸い込まれるように、黒い口の中へと「丸呑み」にされて消滅した。
空間に残されたのは、完全な静寂。
「消え……た……? 俺たちの攻撃が……喰われた……!?」
絶望に打たれる獅子神たちに対し、重ね合わせた手から、創と紬の声が重なって響いた。
「「ごちそうさま。——今度は、こっちの番だ」」




