第36話:侵食防壁の初陣と、深まる共鳴
翌日。学園の公式タッグバトル大会。
演習場は、昨日の「ちび悪魔ペア惨敗」の噂を聞きつけた生徒たちの野次馬で埋め尽くされていた。
「おいおい、高校生にボコられたってのに、よく恥ずかしげもなく出てこられるな」
「親の威光も限界か。使い魔ペアの限界が見えたな」
冷ややかな視線が注がれる中、対戦相手として立ち塞がったのは、校内屈指の攻撃型タッグ。
従えるのは上位中級悪魔【ヘル・サキュバース】と【バーサーク・オウガ】。
「手加減なしで踏み潰してやるよ、小鳥遊!」
審判の電子音が鳴り響く。
『学園公式タッグ戦——レディ、ゴー!』
「【ソウル・ブレイク】! 精神ごと粉砕しろ!」
敵のオウガが巨腕を振り下ろし、サキュバースの不気味なデバフ波が空間を覆う。イコライジング上限の最大火力。昨日の二人なら、避けるか削り合うしかなかった猛攻だ。
だが、創と紬の瞳に焦りはない。
(紬、昨日練習した『あの形』だ)
(了解。最初から全力で行くよ、創!)
二人の間に言葉の交わし合いはない。0.000秒の思考同期。
紬が前に出ると同時に、手のひらサイズのプチ・ガーゴイルが腕を広げた。
「【ペチコート・シールド】!」
展開された小さな石の盾。相手タッグが「またあのちっぽけな盾か!」と嘲笑したその瞬間、創のインプが不敵にニヤリと笑う。
【創の思考:侵食コード即時撃ち込み——紬の盾の記述へ完全コーティング】
シュゥゥゥ……ッ!
漆黒の侵食ノイズが紬の盾に吸い込まれ、盾全体が禍々しい黒紫の光を放ち始めた。
「なに……ッ!?」
敵のオウガの巨腕とサキュバースの波状攻撃が、黒紫の盾へと同時に着弾する。
ドカァン! と激しい衝撃波が弾けた直後、信じられない光景が広がった。
攻撃を防ぎきっただけではない。
盾に接触した瞬間、相手のオウガの拳とサキュバースの波状データが黒いノイズに侵され、ドロドロと腐食し始めたのだ。
「ギャアアアッ!?」
「バ、バカな!? 攻撃を受け止めただけで、こっちのプロンプトが内側から崩壊していくだと!?」
相手がパニックに陥る。
これが、昨日二人が開眼した『侵食防壁』。受け止めた衝撃をそのまま相手のコードの破壊毒へと変換する、攻防一体の極悪な戦術だ。
「今だ、紬!」
「うん! 合わせるよ!」
二人のプロンプトが完全に重なり合う。
その瞬間、二人のスマホ画面が激しく明滅し、画面の中央に巨大な文字が浮かび上がった。
『 Overlaid Prompt Available —— 融合準備完了 』
端末から溢れ出た圧巻の共鳴波が、演習場全体を激しく揺らす。
二匹のちび悪魔——インプとプチ・ガーゴイルの姿が幻影のように重なり合い、一瞬だけ巨大な漆黒の顎のシルエットが背後に浮かび上がった。
「な、なんだあの禍々しい気配は……!?」
「デバイスが……共鳴している……!?」
観客席から悲鳴が上がる。
だが創と紬は、まだその「融合ボタン」を押さなかった。
(……まだだ。ここじゃ終わらせない)
(うん。この力は、あの高校生たちを呑み込むためのもの!)
二人は静かに思考を合わせ、融合の一歩手前の重合衝撃波だけを放つ。
ドバァァァンッ!!
侵食毒で崩壊していた敵のデバイスが一瞬で吹っ飛び、勝者判定のファンファーレが鳴り響いた。
静まり返る会場。
創と紬は、画面内で怪しく輝く『融合』のアイコンを見つめ、力強く握り拳を作った。
「次はあの高校生たちだ。僕たちの『すべてを呑み込む』力で、絶対に雪辱を果たす!」




