第35話:兄弟演習と重なる影
「よし……それじゃ、やるぞ紬!」
「うん! 本気で来て、創!」
翌日、放課後の自宅裏の演習場。
創と紬は、互いのデバイスを構えて対峙していた。
昨夜見つけた『プロンプト・オーバーレイ(融合)』の記述。しかし、いきなり実戦で試すにはリスクが高すぎる。まずは二人で直接戦い、互いのプロンプトがどこまで深く干渉し合えるか、極限の同調をテストするのが目的だった。
「行くぞ……『プロンプト・侵食』!」
創の合図とともに、インプが黒いノイズをまとって弾丸のように飛び出した。
対する紬も、即座にプチ・ガーゴイルを前線へ押し出す。
「『ペチコート・シールド』!」
ズドンッ! と小さな爆発音が響く。
創の放つ侵食ノイズが、紬の展開した石の盾に激しく衝突した。
「くっ……やっぱり創の侵食、昨日より威力が上がってる……!」
「紬の防壁だって、前より硬い! けど——これじゃただの削り合いだ!」
創は歯を食いしばる。
お互いの攻撃と防御をぶつけ合うだけでは、昨日までと何も変わらない。父さんが言っていた「二人で一つの空間を作る」とは、一体どういうことなのか。
「創! 守るだけじゃなくて、もっと前に来て!」
「前……!? でも、僕が前に出たら紬の盾が——」
その瞬間、創の頭の中に昨夜の母・葵の言葉がフラッシュバックした。
『守るためじゃなく、創の攻撃を倍にするために盾を使いなさい』
「そうか……! 紬、盾の位置を下げるな! 僕の侵食コードを、そのまま紬の盾に『ぶつける』んだ!」
「え……!? 自分の防壁に攻撃を撃つの!?」
「僕を信じろ!」
創は躊躇なく、紬の【ペチコート・シールド】の真っ只中に向けて、全力の侵食プロンプトを叩き込んだ。
普通なら自分の味方の防壁を破壊してしまう愚行。
しかし、紬は瞬時に創の意図を悟った。恐怖を捨て、創の黒い侵食エネルギーを拒絶するのではなく、自分の盾の構造体として「受け容れ」たのだ。
二人の思考波形が、完璧な0.000秒で交差する。
シュゥゥゥ……ッ!
衝突の破裂音は起きなかった。
創の黒い侵食ノイズが、紬の石の盾の表面にまるで流れる毒のように滑らかに広がっていく。
「これ……は……!?」
完成したのは、ただの盾ではない。
『相手の攻撃を防ぎながら、接触した敵のコードを同時に腐食させる侵食防壁』。
「できた……! 守りと攻めが、完全に一つに重なったんだ!」
紬が興奮で声を弾ませる。
その時だった。
二人のスマホ画面が激しく明滅し、見たこともない漆黒の警告ウィンドウが全画面にポップアップした。
『WARNING:プロンプト共鳴率100%達成』
『上位概念プロンプト[Overlaid Prompt]の記述領域を展開中——』
二人の肩に乗る【インプ】と【プチ・ガーゴイル】が、まるで互いを引き寄せ合う磁石のように宙へと浮かび上がる。
二匹の小さな悪魔が触れ合った瞬間、空間が歪み、ドクンと巨大な心臓の鼓動のような振動が演習場全体を駆け抜けた。
「端末が……温かい……ううん、熱い……!?」
「二つのデバイスが、互いのデータをリアルタイムで上書きし合ってる……! これが『融合』の予兆か……!」
光が収まると、端末の画面には不気味なカウントダウンが表示されていた。
『融合実行可能回数:1』
「……やったね、創。私たち、本当に一歩踏み出せたんだ」
「ああ。父さんと母さんの言っていた意味が、少し分かった気がする」
創と紬は顔を見合わせ、力強く頷き合った。
使い魔の領域を超え、二人はついに伝説の扉を押し開けたのだ。
「明日の学園タッグバトル……この新能力と、融合の実戦テストを行う!」




