第34話:父の教えと秘術のひらめき
「お互いのせいにするのは、そこまでだ」
湯気の立つココアを二人分のデスクに置き、父・頼斗は床に腰を下ろした。母・葵も創のベッドの端に腰掛け、優しく二人の顔を覗き込む。
「二人のケンカの声、階下まで丸聞こえだったわよ。悔しいのは分かるけれど……」
葵の言葉に、創と紬はバツの悪そうな顔をしてうつむいた。
「……負けたんだ、父さん。聖アークハイテックの高校生に。僕たちの侵食も、紬の防壁も……手も足も出なかった」
「私の防壁、記述がスカスカだってバカにされた……。創の攻撃も弾かれて……」
悔しさを滲ませる二人に対し、頼斗は咎めるでもなく、静かに語りかけた。
「相手のプロンプトの記述が深かったのは事実だろうな。だが、お前たちの最大の敗因はそこじゃない」
「え……?」
「お前たち、バトル中『相手に合わせよう』と気を使いすぎていただろう。創は紬が守りやすいようにコードを調整し、紬は創が撃ちやすいように盾の位置を探っていた」
頼斗は自分と葵の顔を交互に指さした。
「互いに『合わせよう』と気を使ってるうちは、まだただの他人同士のタッグだ。タッグバトルってお互いの心が通じ合って初めて成り立つもんだぞ。……お前ら双子なら、他人よりはお互いのこと、最初から分かってるんじゃないのか?」
葵も静かに微笑みながら頷く。
「言葉にしなくても、相手が次にどこを守ってほしいか、どこを撃ちたいか。それを感じ取れるのが、あなたたちの本当の強みのはずよ。守るためじゃなく、創の攻撃を倍にするために盾を使いなさい。……昔の私たちみたいにね」
かつて『0.000秒の思考』と『絶対防壁』で世界を制した伝説のペア。
その二人から紡がれる言葉は、創と紬の胸に深く、重く染み渡っていった。
「他人じゃない……僕たちだからこそ、できること……」
頼斗と葵が部屋を去り、再び訪れた静寂の中。
ココアを一口飲んだ紬が、突然ぽつりと呟いた。
「ねえ……創」
「ん?」
「合わせるんじゃなくて、いっそのこと『融合』しちゃうのってどうかな?」
「は……? 融合……!?」
創は思わずココアを吹き出しそうになった。
「二つのデバイスとAIを一つにするってことか!? そんなの無茶苦茶だろ! パラメーターもプロンプトの構造も違うのに!」
「でも! 心も思考も完全に一つになれるなら、イコライジングの制限だって、タッグのタイムラグだって全部吹き飛ぶんじゃない? 私たちが本当の意味で『一つ』になればいいんだよ!」
紬の目は本気だった。
創もその突飛な発想に呆れつつも、胸の奥で謎の高鳴りを感じていた。
「……ちょっと調べてみるか」
二人はスマホを取り出し、自分たちのAIに命じて、プロンプトバトルの過去データベースや暗号化されたアーカイブをディープサーチさせた。
『検索中……該当データ・エラー……該当データ・エラー……』
大量の赤文字が画面を流れていく。やっぱり無理か、と諦めかけたその時。
ピコーンッ!
画面に一つだけ、黒く伏せられた極秘ファイルが浮上した。
『検索完了:過去数十年の公式・非公式記録において、単一事例を確認』
「……マジかよ。事例があった……!?」
二人は息をのんで画面を見つめた。
【事象名:オーバーレイ(プロンプト重複融合)】
かつて極限状態に陥ったペアが、思考波形を100%同期させたことで、二つの端末が一時的に単一の超神級AIへと変貌した記録。
画面の底で、赤く点滅する警告文。
『WARNING:存在の統合による概念崩壊の危険性』
そしてその下に、二人のAIが共鳴して表示された新たな数値。
『融合適合率:測定不能』
「やった奴が……本当にいたんだ。都市伝説なんかじゃなかった」
創の声が震える。
紬は強い眼差しで創の手をぎゅっと握りしめた。
「危険だって関係ない。私たちが最初の『完全成功者』になって、あの高校生たちをギャフンと言わせてやろうよ!」
「ああ……! 僕たちの本当の力を見せてやる!」
二人のちび悪魔がスマホの画面内で怪しく輝き、静かに共鳴音を響かせた。
新たな伝説——『融合』への挑戦が、ここから始まる。




