第33話:惨敗とすれ違う心
「高校生……? なんでこんな所に……」
創が眉をひそめると、2階のギャラリーから二人の少年が飛び降りてきた。
着地音すら立てない洗練された身のこなし。胸元には、県内屈指の難関校『聖アークハイテック高校』の校章が輝いていた。
「暇つぶしに寄ってみたら、随分と珍しい見世物をやってるじゃないか」
タバコを吹かすような気だるい仕草で進み出てきたのは、切れ長の目の少年——獅子神。
そしてその隣で、無表情にスマホを弄る少女——蓮見。
「君たち、さっきの侵食……『Aルート』の予兆だね。使い魔レベルでそこに届きかけているのは褒めてあげるよ」
獅子神が嘲笑を浮かべながらスマホを向けると、演習場全体を圧迫するほどの重圧が膨れ上がった。
『イコライジング・プログラム接続。上限レベル設定……高校生級』
教官すら手出しできない威圧感の中、二人の端末から現れたのは、漆黒の装甲を纏った魔人【ブラック・ナイト】と、巨大な鏡を背負った【リフレクト・メデン】。
「おいおい、高校生が中学生に本気出すのかよ……!」
周囲の生徒たちがざわめく中、獅子神は冷たく言い放つ。
「挨拶代わりの教育だよ。『中学生レベルの連携ごっこ』の限界を教えてやる」
「……っ、紬! 来るぞ!」
「うん!」
創と紬は即座に思考を同調させた。
先ほどと同じだ。創のインプが黒い侵食ノイズを打ち込み、相手の【ブラック・ナイト】の出足を狂わせようとする。
しかし——。
「遅い。浅い。話にならない」
【リフレクト・メデン】の鏡が一瞬だけ輝いた。
創が放った侵食コードが、まるで最初から読まれていたかのように完全に弾き返され、逆に創のインプへと逆流したのだ。
「ぐあッ……!? 侵食が……弾かれた!?」
「創! 【ペチコート・シールド】!」
紬が咄嗟に掌サイズの盾を展開し、創を庇う。
だが、迫り来る【ブラック・ナイト】の黒剣は、紬の盾に接触した瞬間——盾を『通り抜けた』。
「え……!?」
「プロンプトの記述密度が違いすぎるんだよ。君の防壁、スカスカなんだ」
獅子神の冷酷な声とともに、黒剣の柄が紬の端末を強打。
同時に、蓮見の鏡から放たれた極太の光束が、創のインプを直撃した。
ドカァァァンッ!!
「きゃああっ!?」
「うわああッ!?」
激しい衝撃とともに、二人は演習場の壁まで吹き飛ばされた。
システム判定のアラームが赤く点滅する。
『勝者、獅子神・蓮見タッグ。試合終了』
手も足も出ない、完全な惨敗だった。
「……ハッ、期待して損したな。親の顔が見てみたいよ。双子だかなんだか知らないが、君たちの連携、ただの『傷の舐め合い』だから」
獅子神たちは一度も振り返ることなく、去っていった。
演習場に残されたのは、土埃にまみれて倒れ込む創と紬だけだった。
その日の夜。小鳥遊家の自室。
重苦しい沈黙が部屋を支配していた。
創はベッドに腰掛け、自分の手をじっと見つめている。紬は学習机の前で膝を抱えていた。
「……創のノイズ、出すのが遅かったんじゃない?」
ポツリと、紬が呟いた。
「は……? 僕のせいにするのか?」
「だって! あの時、創の侵食がもっと早く決まってたら、私だって防壁の記述を補強できたよ!」
「無茶言うなよ! 相手の鏡の能力、初見だぞ!? 紬だってガードが甘かったから通り抜けられたんだろ!」
負けた悔しさと苛立ちが爆発し、二人の声が大きくなる。
「創がもっと頼りになれば良かったんだ!」
「なんだと!? 紬こそ、守りばっかりで全然攻めに参加してないじゃないか!」
「お互いのせいにするのは、そこまでだ」
低く、だが温かみのある声が響き、部屋のドアが開いた。
トレイに乗せた二つのお召し上がり用マグカップを手に立っていたのは——父・頼斗と、その後ろで優しく微笑む母・葵だった。




