第32話:乗り込みと侵食の予兆
「おい創、マジでここに入っていくのか……?」
「当たり前だろ。次の目標は『他校の撃破』だ」
放課後、隣町の強豪・第参プロンプト中学校の演習場前。
創と紬は、アウェイ特有の物々しい空気を肌で感じながら門をくぐっていた。
昨日、学園の模擬戦で先輩タッグを秒殺した二人だったが、校内の評価は「たまたま」「新ルールの運が良かっただけ」と冷ややかだった。ならば手っ取り早く実力を示すには、他校への道場破りが一番だ。
「おい見ろよ、他校のガキだぞ」
「制服……第一プロンプトか? 噂の『使い魔ペア』じゃねぇの?」
演習場に足を踏み入れるなり、鋭い視線が突き刺さる。
第参中は、全国大会の常連校。イコライジング制度が導入された今でも、高度なタッグ戦術を誇るエリート校として知られていた。
「ハッ、わざわざカモが自分から飛び込んできたか」
奥から歩み出てきたのは、体格のいい二人組だった。
腕の端末から召喚されたのは、中級の上位種【アーマード・オーガ】と【ウィンド・イーグル】。
重装甲の近接役と、上空から支援する高機動役。まさにタッグバトルの「テンプレート」と言える隙のない構成だ。
「おいチビ共。他校に乗り込んできた度胸だけは買ってやる。だがな、本物の連携ってやつを教えてやるよ!」
「お願いします」と創が淡々と頭を下げた瞬間、審判の電子音が鳴り響いた。
『エキシビションマッチ、レディ——ゴー!』
「【ウインド・スラッシュ】! 視界を奪え!」
「【チャージ・クラッシュ】! 潰せ!」
相手の連携は鮮やかだった。上空からの風刃で体勢を崩し、そこへ巨大なオーガが突進してくる。
言葉による命令もスムーズで、隙がない。
しかし——創と紬の視界には、その動きがまるでスローモーションのように映っていた。
(創、風の刃が来るよ。左に三ステップ)
(了解。オーガの足元、プロンプトの記述が重すぎるな)
二人は言葉を発しない。ただ、思考だけで会話する。
「……ッ!?」
オーガの巨腕が振り下ろされた瞬間、創のインプがニヤリと不敵に笑った。
【創の思考:インプ・ノイズ——対象の脚部駆動プロンプトへ『重量誤認』のバグを挿入】
「な、なんだ!? オーガの動きが止まった!?」
攻撃の直前、オーガの足元に黒いノイズが走った。ほんの0.0001秒の遅延。だが、紬にとってはそれだけで十分すぎる時間だった。
「【ペチコート・シールド】——固定」
紬のガーゴイルが前に出ると、掌サイズの小さな石の盾が、オーガの拳の「一点」をピンポイントで受け止めた。
本来なら吹き飛ばされる巨体差。しかし、創のノイズで駆動力を削られた攻撃は、紬の完璧な精密ガードによって完全に威力を殺された。
「受け止め……られた!? あの小さな盾で!?」
「今だ、創!」
二人の思考が過熱する。
敵のコードの隙間が見える。イコライジングによって均一化されたデータの「継ぎ目」が、くっきりと浮かび上がっていた。
創が手をかざす。その瞬間、彼の肩にいるインプの姿が、一瞬だけ不気味に歪んだ。
ただの「ノイズ」だった黒い霧が、まるで命を持った生き物のように膨れ上がり、オーガの端末へまとわりつく。
(……え?)
創自身も驚いていた。
ノイズじゃない。これは——相手のコードを腐食させ、データを喰らい尽くす『侵食』だ。
「ギャアアアッ!?」
オーガのAIが悲鳴を上げ、プロンプトの構築が内側からガラガラと崩れ去っていく。
「な、何が起きてるんだ!? プロンプトが崩壊していく……!?」
「紬、フィニッシュだ!」
「うん!」
混乱する相手に対し、紬のガーゴイルが重装化の兆候を見せながら、強烈な衝撃波を放つ。
ドカンッ!!
アーマード・オーガとウィンド・イーグルが同時に消滅し、相手のデバイスが静かにスリープモードへと移行した。
静まり返る第参中の演習場。
創と紬は息を整えながら、自分たちの手に乗る小さな悪魔たちを見つめた。
インプのツノが僅かに伸び、ガーゴイルの皮膚がより強固な岩肌へと変化している。
「……創、今のアタッカーの攻撃、何か違ったよね?」
「ああ。ただのノイズじゃなかった。僕たちのAI……進化しようとしてる」
二人が「使い魔の異変」に気づいたその時だった。
「——へぇ。イコライジングの隙を突いた侵食コードか。中学生にしては、なかなか面白いオモチャを持ってるじゃん」
頭上から、冷ややかで不快な声が降り注いだ。
演習場の2階ギャラリー。手すりに身を乗り出し、二人を見下ろしていたのは——見覚えのない制服を着た、二人の高校生だった。




