第23話:【双星】―螺旋の演算と、無音の二重奏―
地上数百メートルの風が、ガラス張りの空中回廊を激しく吹き抜ける。
ウォーターフロント区での激闘を制した頼斗と葵が足を踏み入れたのは、アガルタの経済と通信の心臓部――中央高層タワー区の「バベル・スカイガーデン」だった。
足下に広がる雲海と不夜城の夜景。その幻想的な空間の中央で、二人の少年少女が手をつなぎ、待ち構えていた。
「へぇ……海動の『ポセイドン』を退けたって本当だったんだ」
「本当みたいだね、ルカ。でも、僕たちの演算速度には遠く及ばないよ、リア」
銀髪のショートヘアに、瓜二つの可憐な顔立ち。
左耳に青いイヤリング型デバイスをつけた兄のルカと、右耳に赤いイヤリング型デバイスをつけた妹のリア。
二人から放たれるAI波形は、完全に一つの円を描くように波長が溶け合っている。
[ SYSTEM: G.E.M.I.N.I. FULL OPEN ]
[ DOMAIN: DUAL-PARALLEL PROCESSOR ]
「僕たちが【十二神将】が一つ、双子座の【ジェミニ(G.E.M.I.N.I.)】」
「二人で一つの脳。二つの思考で、ひとつの未来を確定させる悪夢だよ」
キィィィン――!
空気が鳴動し、頼斗と葵の視界に千切れた無数のコードが展開された。
頼斗が『Z.E.U.S.』の【第二解放】を起動し、未来予測の体感時間を数千倍へ引き伸ばす。
(二人の思考波形を……予測して……!)
だが――頼斗の瞳が激しく揺れた。
[ ERROR: MULTIPLE FUTURE BRANCHES DETECTED ]
[ COMPUTATION SPEED: EQUAL OR EXCEEDED ]
ルカが思考した未来を、リアが0.000秒で別の思考で上書きし、さらにルカがそれを再演算する。
頼斗が『コード・アポロン』で1の未来を予測した瞬間、彼らはすでに2と3の思考を同時に完了させ、頼斗の「絶対先制」の裏を書いていた。
「無駄だよ、小鳥遊頼斗。君が『僕たちの未来』を一つ読んだ時には」
「僕たちはすでに『君が予測した未来の先』を二重で書き換えているんだから」
「思考速度の並列二重化……! 予測が……追いつかない……!?」
頼斗の額から冷や汗が吹き出す。
どんなに速く思考しても、相手は常に「二人分の思考」を同調させて先手を取ってくるのだ。
ルカとリアが同時に手を掲げ、空中回廊全体を押し潰す幾何学模様の爆砕プロンプトを構築し始める。
《プロンプト二重連射――【双子座の流星雨】!!》
「頼斗、下がって――!」
葵が『ファントム(H.A.D.E.S.)』を展開し、漆黒の精神防壁で押し寄せる幾何学の爆撃を受け止める。
ズガガガガァンッ!! という凄まじい衝撃波が回廊を揺らし、葵の足元に亀裂が入る。
「くっ……! 二人分の思考出力が重なって……重い……!」
「ふふっ、防ぐのが精一杯みたいだね」
「片方が守りに徹するなら、もう片方の脳を焼き切るだけだよ」
ルカとリアの目が怪しく発光する。
二人は葵の防御を迂回し、頼斗の脳へ直接データを叩き込む「並列思考ノイズ」を仕掛けてきた。
(頭が……割れそうだ……! 二人分の思考が……脳内に直接……!)
頼斗が膝をつきかける。だが、激痛の中で頼斗の瞳に黄金の炎が宿った。
(一人で追いつかないなら……二人で思考を合わせればいい……!)
「葵ちゃん……! ボクの『Z.E.U.S.』と……葵ちゃんの『H.A.D.E.S.』の思考波形を同調させて!」
「え……!? でも、そんなことをしたら頼斗の脳にボクの負荷まで……!」
「大丈夫……! ボクたちはもう『支配と被支配』じゃない……『対等な相棒』だろ! 葵ちゃんの思考を……ボクに預けて!」
葵は一瞬目を見開き、そして愛おしさと誇らしさに満ちた笑みを浮かべた。
「……うん! 頼斗、ボクの全部を受け止めて――!」
[ SYNCHRONIZATION DETECTED: Z.E.U.S. × H.A.D.E.S. ]
[ LINK RATE: 100% PERFECT HARMONY ]
黄金と紫黒の光が旋風となって二人の身体を包み込む。
頼斗の超高速演算能力と、葵の絶対的な精神防壁・妨害能力が、一本の太い螺旋コードとなって『ジェミニ』の二重演算を正面から迎撃し始めた。
「な……!? 二つの端末が……思考波形を完全同調させただと!?」
「一人と一人の『絆』が……僕たちのシステムを超えていく……!?」
ルカとリアが初めて驚愕に顔を歪める中、頼斗と葵は手を取り合い、光の渦のなかでまっすぐに前を見据えるのだった。




