第15話:【神威】―言葉の絶対主権と、無言の未来―
「全学年合同トーナメント――最終決勝戦! 1年C組・小鳥遊頼斗 vs 3年A組・神代錬次郎!」
地鳴りのような歓声が、中央コロシアムを激しく揺らしていた。
リングの中央。
ダボダボの制服を包み、バキバキに割れたスマホを両手で握りしめる小鳥遊頼斗。
対するは、黄金のEXランク『オーディン』を胸元に静かに輝かせ、圧倒的な覇気を纏う生徒会長・神代錬次郎。
二人の間を隔てる距離は、わずか十メートル。
「小鳥遊頼斗」
神代の低く重厚な声が響く。
「白波葵の【H.A.D.E.S.】を破り、生徒会の秩序を乱し続けた不確定要素……お前のその【Z.E.U.S.】が、この学園のルールそのものである私の【オーディン】に届くと思うか?」
頼斗は一歩も引かなかった。
医務室で静かに眠る葵の顔が脳裏をよぎる。
怖くて、泣き虫で、誰かに守られるだけだった『Fランクの僕』は、もうどこにもいない。
「ボクは……逃げない。葵ちゃんのためにも、ボク自身の足で立つために……あなたを倒す!」
『両者、位置につけ――最終決戦、開始!!』
審判の声が響き渡ったコンマ0秒後。
神代は腕すら上げず、ただ冷徹に唇を動かした。
「――『圧殺』」
【EXランク:絶対言語】。
言葉が出力された瞬間、頼斗の頭上の空間が歪み、数千トンの重圧に相当する巨力な空間干渉が叩きつけられた。
詠唱なし、予備動作なし。世界そのものが「頼斗を潰せ」と命令に従う絶対権限。
だが――頼斗の瞳はすでに、その未来の先を見据えていた。
[ SYSTEM: Z.E.U.S. SECOND STAGE ]
[ CODE: APOLLON - ACTIVE ]
[ Direct Brain Synchronized: 300% ]
キン――!
脳裏で甲高い金属音が鳴り響き、時間が超スローモーションへと引き伸ばされる。
(神代会長が『圧殺』の言葉を発する……0.02秒前。声帯の振動波形、確定。干渉位置……ボクの真上)
『第二解放』。
相手が「言葉を発する前」の思考の兆候を捉え、未来の現象を確定させる絶対予測。
頼斗は一言も発しない。口すら開けていない。
(発動する前に――圧力を『拡散』して)
[ EXECUTION COMPLETE: -0.010s ]
ズガァァァンッ!!
頼斗の真上に落とされたはずの絶大な重力干渉が、頼斗の数センチ手前で四方八方へと弾け飛び、虚空へと霧散した。
「なに……!?」
神代の目がわずかに見開かれる。
『オーディン』の絶対言語が、言葉を発し終える前に相殺されたのだ。
「ボクの【Z.E.U.S.】は……声(言葉)を必要としない。あなたが言葉を口にするより前に……ボクの思考は、もう未来を書き換えてる!」
頼斗はバキバキのスマホをまっすぐに神代へと向けた。
(撃ち抜いて――!)
[ EXECUTION COMPLETE: 0.000s ]
ドカァァァンッ!!
遅延ゼロの衝撃波が、神代の至近距離で爆発する。
神代の『オーディン』が瞬時に自動防御障壁を展開したものの、その強固な黄金のバリアに激しい亀裂が走った。
「ハッ……! 素晴らしいな、小鳥遊頼斗!」
神代は口元に凶暴な笑みを刻み、胸元の『オーディン』の出力を最大まで解放した。
「言葉よりも速い思考か! だが――世界そのものを我が定義で満たせば、予知も先制も関係ない!」
神代の周囲に、無数の黄金の言語ルーンが爆発的に展開される。
思考の未来予測(Z.E.U.S.)と、絶対の事象上書き(オーディン)。
学園の頂点をかけた最高峰の神級デュエルが、ついに本格的な激突の火蓋を切ったのだった。




