第13話:【王手】―頂の約束と、狂王の降臨―
「全学年合同トーナメント準決勝第1試合――勝者、小鳥遊頼斗!」
万雷の拍手が中央コロシアムを激しく揺らしていた。
Bブロックを勝ち上がってきた3年生屈指の技巧派ランカーすらも、頼斗の【第二解放】による超未来予測と絶対先制の前には手も足も出なかった。
『Z.E.U.S.』の真価を遺憾なく発揮し、頼斗はついに1年生にして決勝進出の一番乗りを決めたのだった。
「はぁ……はぁ……っ!」
激しい脳の熱量に耐えながら、頼斗は息を整えて選手マウンドから降りる。
手の中のバキバキのスマホが、勝利を祝うように黄金の粒子を静かに散らしていた。
(ボクは……ここまで来られた。Fランクのポンコツ扱いだったボクが、自分の脚で……!)
だが、頼斗の表情に慢心はない。
コロシアムの巨大モニターを見上げる頼斗の瞳には、痛切なまでの緊張が走っていた。
画面に映し出されているのは、直後に控えし準決勝第2試合の対戦カード。
[ SEMI-FINAL MATCH 2 ]
[ C-BLOCK WINNER: AOI SHIRANAMI (RANK A) ]
VS
[ D-BLOCK WINNER: RENJIRO KAMISHIRO (RANK EX) ]
(次だ……。葵ちゃんと……生徒会長……!)
頼斗が勝者用エリアの観覧ラウンジへ移動すると、そこにはすでに決戦を控えた白波葵が待っていた。
「頼斗……! 決勝進出、おめでとう!」
葵は両手を広げ、駆け寄るなり頼斗の華奢な体を強く抱きしめた。
首筋に顔をうずめ、頼斗の体温を心底から愛おしそうに確かめる。その抱擁は優しく、しかし確実に逃がさないという「絶対の拘束」だった。
「葵ちゃん……」
「すごかったよ、頼斗。君の『コード・アポロン』……未来を予測して先制する力、本当に綺麗だった。……でもね、安心して?」
葵は頼斗から離れると、その頬をそっと撫で、狂おしいほど甘い笑みを浮かべた。
「次の試合で、ボクが生徒会長を終わらせてあげるから。あの人が君に余計な言いがかりをつけないように、脳みそをぜんぶ『H.A.D.E.S.』の黒塗りにしちゃうね。……そうすれば、決勝戦はボクと頼斗だけの……誰にも邪魔されない特別な時間だよ」
「葵ちゃん……ダメだよ、そんな……っ!」
頼斗の制止の言葉は、コロシアム全体を揺るがす重圧な足音によって遮られた。
「不快な羽虫がさえずるな」
観覧通路の影から現れたのは、生徒会長・神代錬次郎だった。
胸元に鎮座するEXランク『オーディン』が、嵐の前の静けさのように重厚な金色の光を放っている。
神代は頼斗を一瞥し、そして葵の瞳の奥に潜む『H.A.D.E.S.』の黒い領域を冷徹に見下ろした。
「白波葵。他者の精神を侵食し、己の所有物と看做す狂気の檻か。……だが、私の【絶対言語】の前では、お前の惨めな支配領域など一言で無へと還る」
「ふふっ、言わせておけば……。言葉(命令)を唱える前に、その頭の中から『声の出し方』すら忘れさせてあげるよ、生徒会長」
葵の瞳から光が消え、完全な底なしの漆黒へと染まる。
二人が放つ凶悪なプレッシャーがぶつかり合い、空気そのものがバチバチと火花を散らした。
神代はそのまま中央リングへと歩みを進めながら、最後に背越しに頼斗へ言い放った。
「小鳥遊頼斗。決勝戦の舞台で待っていろ。……お前のその『思考直結』が神の御業か、あるいは単なる異物か、私が直接裁いてやる」
神代と葵。学園を統べる絶対の主神と、頼斗を執着で呑み込もうとする冥府の女王。
二人がコロシアムのリングの上に上がり、ホログラムの全域防御障壁が重々しく展開されていく。
頼斗は観覧席の手すりを両手で強く握りしめ、二人の背中を見つめた。
(葵ちゃん……生徒会長……!)
ついに、学園の歴史上最も恐ろしい頂上決戦――「H.A.D.E.S. vs オーディン」の火蓋が切って落とされようとしていた。




