第12話:【先知】―神速の予測と、未来確定―
「全学年合同トーナメント本選・Aブロック準々決勝! 1年C組・小鳥遊頼斗 vs 3年A組・龍崎 豪!」
超満員の中央コロシアム。
対戦相手の龍崎豪は、3年生の中でも指折りの武闘派ランカーだ。手に握られたA+ランク端末『ドラグーン』から、重圧な属性エネルギーが溢れ出ている。
「Fランクのチビが! 運良くここまで上がってきたようだが、俺の【超高速詠唱】の前に沈め!」
『試合開始!』
審判アナウンスと同時に、龍崎の口が超高速で動き始める。
《プロンプト認識――【龍炎超連打】!》
秒間十文字を超える驚異的なプロンプト構築速度。
通常のデュエリストなら、プロンプトの内容を認識することすらできず、一瞬で炎の嵐に呑み込まれる圧倒的な連射性能だ。
しかし――頼斗は動かなかった。
泣き虫だった少年の瞳は、静寂と冷徹な光を宿している。
(来た……!)
頼斗がバキバキのスマホ――『Z.E.U.S.』を強く握りしめた瞬間、脳波が限界突破の同調率を弾き出した。
[ SYSTEM: Z.E.U.S. SECOND STAGE ]
[ CODE: APOLLON - ACTIVE ]
[ Direct Brain Synchronized: 280% ]
キン――。
脳裏で甲高い金属音が響き、世界の体感時間が数千倍へ引き伸ばされる。
舞い散る火の粉の軌道、龍崎の口元の微細な動き、端末内部のプロンプト構成コード――そのすべてが、スローモーションの透明なデータとして頼斗の視界に展開された。
(龍崎先輩のプロンプト完成まで……あと0.12秒。攻撃の着弾点は、ボクの右胸)
『第二解放』の真価。
それは、相手がプロンプトを撃ち出す「未来の思考結果」を完膚なきまでに先読みし、発動より前に干渉を確定させる絶対先制の神域。
「消えろぉぉぉッ!」
龍崎が叫び、巨大な火炎龍のプロンプトが放たれる――はずだった。
(発動する前に――コード消滅)
[ EXECUTION COMPLETE: -0.050s ]
「な……!?」
龍崎の端末から解き放たれようとしていた火炎龍が、発動の瞬間に内側から弾け飛び、消失した。
遅延ゼロどころか、相手の攻撃が成立する「前」に打ち消されたのだ。
「馬鹿な! プロンプトの構築が……途中で強制終了された!? 詠唱すらしてないのに、なぜ俺の攻撃タイミングが分かったんだ!?」
龍崎が恐怖に顔を歪ませ、錯乱したように次のプロンプトを唱えようとする。
「くそっ! 【絶対防御】――」
(防御の展開完了まで、0.08秒。――その前に、足を払う)
[ EXECUTION COMPLETE: -0.030s ]
ドカァァァンッ!!
龍崎が防御プロンプトを唱え終えるより先に、彼の足元の空間がピンポイントで爆散した。
「ガハッ……!?」
防御障壁を張る間もなく直撃を受けた龍崎は、悲鳴をあげて宙を舞い、コロシアムの壁に激しく叩きつけられた。
『勝者――小鳥遊頼斗! 試合時間:1秒20!』
コロシアム全体が、静まり返る。
観客も、審判も、何が起きたのか理解できていない。相手の超高速詠唱を、それ以上の「未来予知と絶対先制」で手も足も出させずに完全完封してみせたのだ。
「はぁ……はぁ……っ」
激痛と引き換えに『コード・アポロン』を使いこなした頼斗は、額の汗を拭いながら静かに立ち上がった。
(勝てた……! 『コード・アポロン』なら、相手のプロンプトを未来予測して、先に潰せる……!)
選手控室のモニターでその光景を見ていた神代錬次郎が、冷徹な笑みを深める。
「……なるほど。『絶対言語』の詠唱すら許さない先制干渉か。面白い」
そして、Cブロックの控室。
白波葵が漆黒の『ファントム』を強く抱きしめ、うっとりとした表情で画面の中の頼斗を見つめていた。
「すごいよ頼斗……やっぱり君は天才だね。……でもね、どれだけ未来が見えても、思考そのものを停止させられたら、何も予測できないんだよ?」
葵の周囲で、紫黒の『H.A.D.E.S.』の領域が禍々しく蠢く。
頼斗がAブロックを突破し、いよいよトーナメントは準決勝「葵 vs 神代」の死闘へと加速していくのだった。




