第20話 チャンス到来
脳移植は僕・伊達士郎の夢だ。浪漫と言ってもいい。
医学的にも哲学的にもこれを人間の生体脳で成功させることは飛躍的な進歩を促すに違いない。
最も興味があるのはAさんの脳をBさんのカラダに移植した時にその人格はどっちになるのか。
世間の大方の予想ではAさんになる方に分があるようだけど、実際にやってみるまでわからない。
予想はあくまでも予想だ。
魂に重さがある、なんてのもまことしやかに言われてたりするが検証は不十分だ。
高齢者が脳の障害によって人格が崩壊したりするのを目にすることで、大半の人が人間が自分を識別しているのは脳だと思っているだろうが、それも検証が十分とは言えない。
個人を個人たらしめているのは脳だけではないかもしれない。
心的外傷などの研究では「心が忘れても体が覚えている」みたいなことも知られているし、現在認められている心臓などの臓器移植でも提供者の記憶や性格、趣味・嗜好が受給者に移るといった記憶転移があるとされ研究している人もいる。
それに一口に脳と言っても普通は左脳と右脳に分かれていて、手術や疾患で左右の脳を結んでいる脳梁の機能が損なわれると二つの心が発現することが実際に知られている。
脳はまだまだ謎が多く未知の世界であることは間違いない。
ある日、一人の美しい女性が僕を訪ねてきた。
彼女は僕に夢のような提案をしてくれた。
自分と双子の姉妹の脳を入れ替えてはくれないか、と。
そのために協力できることはなんでもするし、入れ替えが成功しなくても責任を追求しないし、命を失うことになれば自分たち二人を一緒に埋葬してくれるだけでいいなどと言うのだ。
こんな幸運なことがあるだろうか。
僕はこの提案に飛びついた。
一卵性双生児であればカラダの拒絶反応も出にくいだろうし、被検体としては最高じゃないか。
僕はなんとしてもこの手術を成功させて世界の真理の一端を覗いてみせる。
僕は美紀の誘いに乗り、彼女の家族が経営する病院に移り、手術に必要な準備を進めることにした。
勤務を始めてしばらくすると、双子の姉の真紀に接触する機会が訪れた。
手筈通りに声をかけて交際のきっかけを作るはずが、あまりの興奮で先走り過ぎてプロポーズをしてしまった。何たる失態。
だが、それを何とか乗り越えて交際を開始することができた。
しかし美紀にはくれぐれも真紀に性的なことをしないように釘を刺されている。
だけど、それぐらい今の僕にはどうってことない。
生体脳移植できることを思えば、性欲を抑えることぐらい朝飯前なのだ。
こんな日差しの強い日に帽子も被らないで紫外線が脳に悪影響を及ぼしたらどうするんだい。可愛い帽子買ってあげるからちゃんと被ってね。
脳にいいものいっぱい摂らないとね。DHAにEPAはもちろん、抗酸化作用のあるポリフェノールも積極的に摂り入れよう。
僕が移植するその時まで大事に大事に管理してあげるからね。真紀脳。
さすがに二人分の特殊な生命維持装置を用意するのはそう簡単ではない。
当初立てた計画より時間がかかりそうだ。
そうなると問題は真紀との結婚生活だ。
美紀との約束を守ることに僕は特に問題ないけど、真紀の方が問題になりそうだ。
最初のうちはうまくはぐらかせていられたけど、最近は積極的な行動が目立ってきている。
やばいよやばいよ。睡眠導入剤とかいろいろと用意しておいた方がいいかもしれない。
脳への影響が心配だからクロロホルムは最後の手段で、できればあまり使いたくないなあ。
真紀との結婚生活が二年半を過ぎた頃、ようやく準備が整った。
次の美紀との打合せで詳細を決めればいよいよ決行だ。
真紀、ごめんね。でも君の脳は必ず守ってみせるよ。




