↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浮遊城から始まる異世界ライフ~誰にも邪魔されず暮らすはずが、気付けば天帝と呼ばれて天空国家を築いていた~  作者: WING
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/33

第6話:優秀なメイド

「分かった。管理の話は後にしよう。まずは服だ」


 俺がそう言うと、白いシーツを身体へ巻いただけのエルノアは、自分の格好を確かめるように視線を落とした。銀白色の髪から滴った水が、むき出しの肩を伝って白い床へ落ちる。

 本人はまるで気にしていないが、初対面の女性と話すだけでも緊張する俺には、難易度が高すぎた。


「当培養室には衣類の備蓄がございませんが、服飾工房には布地と製作用の設備が保管されています。使用許可をいただけますでしょうか」

「そんな工房まであるのか?」

「はい。裁断、縫製、染色、簡易的な魔法付与まで自動で行えます。ただし、現在の私には施設を操作する権限がございません」


 エルノアが説明してくれた。

 アルカディアの管理を任せる以上、必要な権限は渡すべきだろう。


「エルノアに服飾工房の使用を許可する。ついでに日常管理に必要な区画へ入る権限も付ける。ただし、防衛設備と城の進路変更は俺に確認してくれ」

「ありがとうございます、ご主人様」

「褒められているのに、子供扱いされている気がするな……」

「そのような意図はございません」


 彼女の表情は静かなままだが、俺を見つめる目元だけがわずかに柔らかい。

 それが何を意味するのか分からず、余計に落ち着かなかった。


「俺は農場へ行く。服ができたら来てくれ」

「承知いたしました。護衛として同行する必要はございませんか?」

「城内の畑へ行くだけだから大丈夫だ。というか、その格好でついてこられる方が困る。それにアルカディアに敵はいないからな」

「承知しました」


 エルノアは優雅に一礼した。

 人造生命培養室を出た俺は、何となく早足で農場へ戻った。

 扉が閉まって彼女の気配が遠ざかると、胸の奥に詰まっていた息がようやく抜ける。

 彼女に不満があるわけではない。ただ、相手が人に近いほど無意識に身構えてしまう。

 自分で作った存在にまで緊張するのだから、我ながら筋金入りだった。

 農場では、三体のゴーレムが朝に出した指示通り作業を続けていた。

 水路には澄んだ水が流れ、湿った土から青々とした豆の葉が伸びている。空を渡る風が土と草の匂いを運び、さっきまでの冷たい培養室が遠い場所のように感じられた。


「一号、その区画が終わったら鍬を洗ってくれ。二号は収穫した豆を保存倉庫へ。三号は……待て。青い莢まで混ざってるぞ。しっかり分別してくれよ」


 それから指示を出し終えた俺は、畑の端にある木陰へ腰を下ろした。

 雲海から吹き上がる風は涼しく、葉の隙間からこぼれる光が地面の上でゆっくり揺れている。これまで植えたのは芋と豆が中心だったが、生活が安定してくると食卓の寂しさが気になり始めた。毎日スープにすれば味は変えられるものの、主な具材が芋や豆、その他少しという事実は変わらない。


「次は何を植えるかな。パン用の小麦は欲しいし、野菜も増やしたい。果物もあれば……でも木は時間がかかるか……ああ、米が食いたい」


 誰に聞かせるでもなく呟いたとき、背後から澄んだ声が届いた。


「お待たせいたしました、ご主人様」

「うおっ!?」


 肩が跳ねた。振り向くと、木漏れ日の中にエルノアが立っていた。

 先ほどまでのシーツ姿は跡形もない。黒を基調としたクラシカルなロングドレスが細身の身体を包み、落ち着いた白いエプロンが重なっている。袖口と襟元のフリルは控えめで、華美ではないのに縫製は美しい。腰まで流れる銀白色の髪と黒い生地の対比が鮮やかで、少し青みを帯びた深紅の瞳までが、完成された衣装の一部のように見えた。


「……どうしてメイド服なんだ?」

「ご主人様の身の回りのお世話と、城内管理を担う者に最適な服装を検索した結果です。動きやすさ、収納性、清潔感に優れ、奉仕者としての役割も一目で伝わります」

「機能性で選んだのか、それ」

「はい。服飾工房の記録において、総合評価が最も高い奉仕服でした」


 恐ろしく似合っているので、否定する材料が見つからない。


「まあ、本人がいいなら……いいか」

「ありがとうございます。以後、こちらを通常装備といたします」

「通常装備って言うと、防具みたいに聞こえるな」

「防刃、防汚、耐熱、状態異常耐性が付与されていますので、簡易防具としても機能します」

「本当に防具だった」


 メイド服への疑問は、納得したというより考えるのを諦める形で片づいた。


「ちょうどよかった。畑へほかの作物を増やしたいんだ。何か候補はあるか?」

「ございます。現在の気候と土壌であれば、小麦、玉ねぎ、人参、葉野菜、トマトの栽培が可能です。また、温度管理区画を使えば香草や薬草も安定して育てられます。長期計画にはなりますが、果樹区画の新設も推奨いたします」

「一気に増えたな……。種はあるのか?」

「農業用倉庫に初期備蓄がございます。食生活と保存性を考慮し、まず小麦、玉ねぎ、トマトを栽培し、並行して香草用の小区画を設ける案が最適です」


 今まで一人で迷っていたことへ、迷いなく答えが返ってくる。そのことに戸惑いながらも、胸の奥では素直に助かったと思っていた。


「じゃあ、それでいこう。必要な区画と作業手順をまとめてくれ」

「すでに作成済みです」

「俺が相談する前から?」

「先ほど、ご主人様の独り言を聞きましたので」

「優秀なメイドで助かるよ」


 エルノアは完成した作業計画を俺の画面へ送った。自分で考えて動く相手は、想像以上に便利で、同じくらい調子が狂う。

 内容へ目を通していると、彼女は静かに言葉を続けた。


「なお、ご主人様。農場の拡張に加え、倉庫管理、工房整備、城内清掃、防衛区画の点検まで考慮しますと、私一人ですべてを担当することは困難です」

「……つまり?」


 嫌な予感がした。人間関係に関する嫌な予感だけは、前世からよく当たる。

 エルノアは深紅の瞳を真っ直ぐ俺へ向け、完璧なメイドの礼を取った。


「つきましては、追加で何体かホムンクルスを作成していただきたく存じます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。