その白い花は
「動かないほうがいい」
小柄の言葉に、大柄は首を振る。
「いいえ、私が一番適任ですから」
「適任?」
俺の言葉に大柄は頷いた。
「えぇ。私達は役割がそれぞれ違います。私はこの中で一番、コミュニケーションを得意としています」
「コミュニケーション?」
俺の言葉に大柄は頷く。
「言葉としてあまり言いたくありませんが、一番人間らしい、ということです」
人間らしい、その言葉を言う時に大柄の顔がわずかに曇った。
自ら完全な人間ではないことを、認めてしまうのが辛そうだった。
「機械化が少ないってことか?」
「理解が早くて助かります。私が一番少なく、この子が一番多い───」
「01!」
咎めるように、小柄が大柄の言葉を遮る。
喋りすぎだとでも言いたいのか、表情の変わらない小柄の顔からは何も感じ取れない。
「ごめんなさい、03」
───01と03。
味気のない名前だが規格番号か作成者が適当に振った番号か、そのどちらかだろう。
プロトタイプや正式ではない物によく振られる名前だ。
「じゃあ、こいつが02ってことか?」
呟くように、視線を隣で止まっている中柄に向ける。
「そうです。それで、話を戻しますが……」
「電源を貸せって話か?」
大柄───01は頷く。
「危害を加えないと、約束します。私達ができる限りの謝礼もしましょう。幸いにも03はそれを得意としていますので」
ちらりと視線を03に向けた。
「つまりは、そのお得意の情報操作で色々数字を変化させるということか。だが、その安全は何を担保としてだ? お前達のことを何も知らない俺は、何を信じればいい?」
俺のもっともな言葉に、01の顔が苦しそうに歪む。
「それは……信じてくださいとしか……」
消え入りそうな小さな声。
いくら言葉を紡いでも、差し出せるものは現状なく、02の行動によって前提さえも破綻している。
それは01自身も分かっているのだろう。
もう、俺の善意に縋るしかないことも。
「信じろ、か。……悪いが───」
断りの言葉を言いながら中柄───02を01達の所へ移動させようと抱えようとした時、服の隙間から02の胸元が見えた。
02の左鎖骨の下辺りに描かれていた白い花。
それを見て、息が詰まる。
「なにか?」
動きの止まる俺を見て、不思議そうに01が声をかける。
その声が妙に遠くに聞こえた。
「あ、え、どうして……」
ズクリと心臓が跳ねる。
痛みを伴うほど鋭く。
脈動は、湧き上がるほど熱く。
考える間もなく、体が勝手に動き、03へと手を伸ばした。
「なにを───!」
抵抗らしい抵抗をしない03の服の襟元を、乱暴に開く。
首元にはない。
腕にもない。
胸元にそれはあった。
同じような白い花。
それを確かめた後、同じように大柄へと手を伸ばした。
「いや! やめて……!」
羞恥に頬を赤く染めるが、やはり体がうまく動かないのか抵抗はほとんどない。
抵抗もできない人に、こんな乱暴なことをするべきではない。
そう、頭では分かっている。
だが、湧き上がる感情が、俺の腕を動かす。
左胸の心臓の辺りに、同じ白い花が描かれていた。
頭を殴られたかのような衝撃を受ける。
視界は揺らぎ、膝は今にも崩れ落ちそうに震える。
「お前らは、一体……どうして、動いている……!」
01の服を握り締めながら叫ぶ。
叫ばずにはいられなかった。
そうしないと、頭がどうにかなってしまいそうだった。
「頓挫させたはずだ、破綻させたはずだ、終わったんだ……お前らも! 俺も!」
01の肩を掴み、叫ぶ。
「なぜ、今更になって現れる! なぜ、よりによってお前達なんだ!」
無駄だと分かっていても、叫び続けずにはいられなかった。
言葉と共に、両目から熱いものがこぼれる。
それは頬を伝い、01の手元に落ちていく。
「なぜ……そっとしておいてくれない……」
目を背けてきた罪が、突如突きつけられたかのように。
くすぶっていた火種が、大きく燃え上がっていく。
望んでいたが、望んでいなかった。
矛盾する気持ちが心の中でせめぎ合う。
「どういうこと? 理解ができない」
不思議そうな03の声。
許されるのなら、全てをぶちまけてしまいたかった。
目の前の三体───彼女達がどのようにして生まれてきたのか。
でも、それは許されない。
「すまない、すまない……」
まるで許しを乞うように、01の手を握りながら嗚咽した。




